Ⅳ
「…何やってるんだろうな、俺」
検査が終わった後は特に何事もなく一日が終わった。
味の薄い食事をこなし、くたびれた本で時間を潰し、そのまま眠りにつく。
変わらない日々。冒涜的に無色な日常。
まるで昼間の少女が夢であった方が正しいような。
「だからって、またここに来るとかさあ…」
俺はあの屋上に再び立っていた。
立って地面を見つめていた。
昨日の
そうすれば、また彼女が現れる気がして。
「いやいや、だから何やってん」「あれ、こんな所に誰かいるの~?」
声がした。
知っている声。
この声を俺は望んでいた。
「危ないじゃないですか!屋上なんかに上がってきたら」
「いやそれはお前も!……ってかこのやりとり前にもしたな」
「前にも……そうでしたそうでした!
たしか屋上の……自殺者さんでしたっけ」
「勝手に殺すな!」
少女は数秒上の空だったがすぐに昨日の調子に戻った。
「まったく…屋上に来れば女の子に会えるなんて、恋愛小説の読みすぎだぞ、少年」
「お前こそなんだよその物言いは…」
それこそアニメの見すぎだろ。
「でもまあ、良かったよ。お前が幻じゃなくて」
そう言うと、怪訝な眼差しを向けられた。
「アタシのこと地縛霊か何かとでもお思いで?」
「…言い方が悪かった。
でもお前のせいだぞ。お前はここでは異質過ぎる。
とうとう気が狂って幻を見たのかと思っても不思議じゃないだろ」
まあ、気はとっくに狂ってるのかもしれないが。
「…ヒドイです。責任を取るのは男性のはず…それをこんなうら若き乙女に…」
「なんでそうなるんだ!お前の方が恋愛小説の読みすぎなんだよ!」
どうしてこう、コイツは頭の中がお花畑なんだろうか…
「女の子はちょっとくらいお花畑の方が可愛いんです。
目指してますから、カワイイ系女子」
無い胸を張る少女。
そのあまりの堂々さに、昨日の失言を思い出し顔を背ける。
だが、ふと我に返って考えると、このくらいの女子が恋愛小説を読むのは至って当たり前のことだ。
「……」
でも何故か、コイツがそんなものを読むようには思えなかった。
『恋愛小説って私嫌いだな。あんな変な出会い方にどうも憧れが持てなくて』
「っ!」
「?どうかしました?」
少女がこちらの変化に気づく。
「………なんでも、無いよ」
平静を装う。
だが、無駄だ。
自分でもわかるほどに顔が青ざめている。汗が噴き出している。足が震えている。
……全く何が変わらない、だ。
何も変わっていないのは、他でもない俺自身じゃないか。
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