「あれから一年…忘れられるわけないよな」

今でも鮮明に思い出す。

血の匂い、仲間の悲鳴、奴らの姿、仲間の…死体。

「……」

「悪い。変な空気になっちまったな」

「べつにべつに!

……ウザくない?アタシみたいなの」

どことなく、弱気な声色。

「そんなことはないさ。

ここにいたら気分は下がるばかりだし、な?」

柄にもなく不格好なウィンクで返してみたが、彼女は笑ってくれた。

「ならアタシ、なれるかな?この病院のアイドル」

「それは話が違うだろ!?」

「ええ~っ!こんなにも完璧で究極なのに!?」

「何気に古いネタ!?」

でもそんな返しができるコイツこそ本当に。なんて思ってしまう。

 「…!ってもうお呼び出しかよ」

病衣の少ないポケットに入っていたスマートフォンが着信を知らせていた。

「?なにそれ?」

少女が興味深そうにスマホを見つめている。無理もない、こんな代物も滅多にお目にかかることは無いからな。

「携帯電話、旧式のな。

俺がウロウロしてるからって先生に持たせれたんだ」

まあネットは勿論使えず、電話も受信オンリーときたとんだ文鎮だ。

「へえ、でもなんかいいねそれ」

「いや、重くて分厚くてなんも良いことないぞ。せめてスマートウォッチにでもしてくれればなぁ…」

その最中にもスマホは急かす様にバイブを続けていた。

「じゃあそういう訳でお先に失礼する」

「ふむ、アタシに合いたくなったらいつでもここに来るといい」

「屋上はだめなんじゃなかったのかよ」

愚痴をこぼしながらも、階段を下る足取りは心なしかいつもより軽かった。


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