Ⅱ
「あれから一年…忘れられるわけないよな」
今でも鮮明に思い出す。
血の匂い、仲間の悲鳴、奴らの姿、仲間の…死体。
「……」
「悪い。変な空気になっちまったな」
「べつにべつに!
……ウザくない?アタシみたいなの」
どことなく、弱気な声色。
「そんなことはないさ。
ここにいたら気分は下がるばかりだし、な?」
柄にもなく不格好なウィンクで返してみたが、彼女は笑ってくれた。
「ならアタシ、なれるかな?この病院のアイドル」
「それは話が違うだろ!?」
「ええ~っ!こんなにも完璧で究極なのに!?」
「何気に古いネタ!?」
でもそんな返しができるコイツこそ本当に。なんて思ってしまう。
「…!ってもうお呼び出しかよ」
病衣の少ないポケットに入っていたスマートフォンが着信を知らせていた。
「?なにそれ?」
少女が興味深そうにスマホを見つめている。無理もない、こんな代物も滅多にお目にかかることは無いからな。
「携帯電話、旧式のな。
俺がウロウロしてるからって先生に持たせれたんだ」
まあネットは勿論使えず、電話も受信オンリーときたとんだ文鎮だ。
「へえ、でもなんかいいねそれ」
「いや、重くて分厚くてなんも良いことないぞ。せめてスマートウォッチにでもしてくれればなぁ…」
その最中にもスマホは急かす様にバイブを続けていた。
「じゃあそういう訳でお先に失礼する」
「ふむ、アタシに合いたくなったらいつでもここに来るといい」
「屋上はだめなんじゃなかったのかよ」
愚痴をこぼしながらも、階段を下る足取りは心なしかいつもより軽かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます