第20話 先々代2
「え。ええー! 王様⁉」
クロウのいってた『先々代』って、先々代の王様って意味だったの?
それに、魔の国って? クロウたちのいた世界?
「この世界にはパートナーがいないといられないはずだ。あんたのパートナーは?」
「……」
先々代、ジオンさんはさみしそうな笑みをつくって、だまってしまった。目をふせるように布団を見て、空虚を見るような顔をして、そっと口をひらく。
「彼女はいないよ、もう」
「ま、そうだよな。あんたがヒトの世界に行ったのは、もう五百年以上前だ。当時のパートナーが生きているはずがない」
「え。ご、五百年⁉」
ウソー。じゃあこの人、すっごくおじいちゃんってこと⁉
「おいリディル。いちいち話の腰を折るな」
「だ、だってびっくりするんだもん」
「いいからだまってろ」
「クロウのいじわる」
ぷーっと不貞腐れていると、ジオンさんがわたしを見て、目を細める。
「キミたちは仲が良いんだね」
「は?」
「クロウとは、良いパートナーになりたいなと思ってます!」
「ふふ。私とセラも、良いパートナーだったよ。良すぎるくらいに」
ジオンさんは懐かしむように目を細めた。
「私がこのヒトの世にきたのは、当時魔力の強い才能ある者たちがしいたげられ、魔力循環がうまくいっていなかったからだ」
「しいたげ……って?」
「うーん。いじめられてるみたいな感じかな」
「そんな……」
魔力が強いって、召喚士ってことだよね。
クロウが魔力がどうのって教えてくれたし。
ぜんぜん想像できないけど……。だって、今は召喚士になったら将来安泰! なんていわれてるのに。
「このままではどちらの世界の安定もくずれるとなったそんなときに、セラは誕生した。セラは膨大な魔力をもっていて、そのチカラがあれば、多くの異変を解決することができた。だから私は、彼女のパートナーになるために、ヒトの世にきたんだ」
クロウがチラッとわたしを見てくる。
なんだろう。へんな目をしてる。なにかいいたそうな。
でもけっきょく、クロウはなにもいわないで、ジオンさんに続きを目でうながす。
「当時のヒトの世はモンスターにあふれ、地獄のような場所だった。私とセラは各地のモンスターをたおしていき、魔力の循環がふたたび行われるようにした。結果的に、ヒトの世はもとどおりになっていったよ。召喚士という地位も認められた。ただ……」
ジオンさんが顔にくらい影をおとす。
今のジオンさんのお話だと、世界が平和になって、ハッピーエンドって感じだったのに、なにかあるのかな?
「ある日、私とセラの契約が切れた」
「契約が切れた?」
「私は自分の世界に強制送還された。私はなんとしても、もう一度ヒトの世に行こうとした」
「どうしてそんなにヒトの世に行きたかったんだよ。解除されたらそれでいいじゃねえか」
ジオンさんはクロウを見て、苦笑するように目尻をさげた。
「……私とセラは、恋人だったんだ」
クロウが言葉につまった。わたしもびっくりしてポカンと口をあける。
恋人って、あの恋人⁉ 召喚士と召喚獣が恋人同士になったってこと⁉
「……聞いたことねえぞ」
クロウがボソッとつぶやく。
すこし引いたような顔をしているクロウに向かって、ジオンさんはにっこりと笑顔をつくった。
「私が、はじめてヒトの世にいった人型のはずだよ」
「あー……」
クロウが遠い目をした。
わたしはしずかに話を聞きながら、ドキドキしてた。
だって、ちがう世界に住んでいたのに恋人になるって、すっごくロマンチック!
「それで、こっちには再契約してきたってことか?」
「いいや。私は私のチカラでこっちの世界にきた」
「……そんなことができるのか」
「ひずみになっている場所がある。そこを無理やりこじ開ければ、世界はつながるよ。ただ、私はその代償として、多くの生命エネルギーを消費した」
話がむずかしくなってきた気がする。よくわからない言葉もあるし……。
「ねぇクロウ、生命エネルギーってなに?」
となりのクロウにこしょこしょと話しかける。
「かんたんにいっちまえば、寿命だ」
「え!」
じゃあジオンさんは、自分の命をけずって、この世界にきたってこと?
「この世界にもどって、私はセラを探した。だが……この世界は変わってしまっていた」
「どう変わっていたんですか?」
「私とセラの記録がすべて消されていた。そして、召喚士たちも……」
「なにかあったんですか……?」
ジオンさんは深刻そうな顔をしてだまってしまった。口にするのをためらうみたいに。
でも、記録が消されていたって、どういうことだろう?
そういえば、クロウは情報が欠如してるっていってたような。それに、私も、そんなにすごい召喚士の名前を聞いたことないし……。そんなにすごかったら、『歴代の偉大な召喚士図鑑』に書かれていると思うもん。
「この世界は、いぜんのようにもどっていたよ」
「どういうことですか?」
「モンスターたちは減って、一見平和になったように見えたが、その功績者である召喚士たちは、ふたたびないがしろにされていた」
「ないがしろ……」
「あほ。邪魔者扱いみたいな感じだ」
「なるほど!」
わたしの顔を見たクロウがすぐに説明してくれる。
クロウってば物知り!
「セラは、どこにもいなかったよ」
やるせないような、やりきれないような顔をするジオンさんに、なんていったらいいのかわからなかった。
それはクロウも同じだったみたいで、ただだまっている。
だって、会えなかったってことは……。
「私は、ふたたび世界が暗黒に染まらないように。そして、セラが守った召喚士たちが傷つかないように、守ることにした」
「……どういうことですか?」
ジオンさんは、私を見て、クスリと茶目っ気に笑う。
「この召喚都市ディセリラをつくったのは、私だよ」
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