第19話 先々代1
「わぁ、クロウの窯、すっごいピカピカ!」
街にもどって、さっそく所長さんの万屋探偵事務所の二階で回復薬づくりをすることに。
魔法付与アイテムをつくるには、とくべつな窯が必要だって、ウワサには聞いていたけど、じっさいにつくるところを見るのははじめて。
とくべつな窯は召喚獣がつくり出してくれて、その中に集めた材料を入れるみたい。
クロウの窯は黒くてツヤツヤしてて、金のふしぎな模様と、金ぴかのまるい宝石がくっついてた。
「いいから材料入れろ」
「全部入れていいの?」
「いいんじゃないか?」
「え。クロウわかんないの?」
そういえば、魔法付与アイテムのレシピ帳みたいなのが売っていた気がする。
手順とかがいろいろあるのかも。
「クロウ。わたしつくり方わからないよ」
「回復薬くらい、細かいこと気にしなくてもできるだろ」
クロウはひょうひょうとした顔で、集めてきた材料をドサドサと窯の中に入れた。
「あー! だ、大丈夫なの⁉」
「ふた」
「う、うん……」
入れちゃったものはしょうがない!
なるようになれ!
わたしはクロウにいわれたとおり、窯のふたをしめた。
すると、クロウが片手をわたしの肩にのせて、もう片方の手を窯に向け、聞きとれない言葉をぶつぶつとつぶやく。
窯の中心にあった金の宝石がピカッと光って、金色のふしぎな模様を伝うように、すこしずつ光がはしった。
「わぁ! すごい!」
この中で回復薬がつくられてるってことだよね。どうなってるんだろう!
しばらくすると、クロウはぶつぶつとつぶやくのをやめて、となりのわたしを見る。
「しばらく待ってればできる」
「え! ほんとうに?」
「たぶんな。ふぁ……ねみ」
クロウが大きなあくびをして、探偵事務所のおおきなソファにゴロリとねっころがった。
「クロウだめだよ! 所長さんに怒られちゃうよ」
「光が消えたらおこせ。寝る」
もー! かってなんだから!
クロウは目をつぶって本格的に寝はじめちゃった。
わたしはソファの背もたれにかかっていた毛布をとって、クロウをおこさないようにそっとかける。
召喚獣って、チカラをたくさん使うとつかれるんだっけ。
たしかに今日はモンスターもたおしたし、大冒険だったかも。
「クロウ、ありがとうね」
わたしは窯のちかくに座って、光が消えるのを待った。
しばらく待つと、金色の宝石がチカチカ点滅して、金色に輝いていた模様も光を失う。
できたってことかな?
「クロウ、クロウおきて。できたみたい」
「るせ……」
「クロウってば!」
まだつかれてるのかな? でもおこせっていったのはクロウだし……。
ソファで寝てるクロウをゆさぶっておこす。
「ねぇ、クロウ」
「るせぇ……ぶっとばされたいのか、オルティット」
ゆさぶってた手がピタリと止まる。
オルティットって、だれだろう?
「クロウ、おきて。できたよ」
うっすら目をあけたクロウは、にらむようにわたしを見て、舌打ちをしながらおきあがった。
こわい。寝おき悪すぎるよ!
「……できたのか」
「う、うん」
クロウはめんどうくさそうに立ちあがって、パカッと窯のふたをあけた。
そして、中から二つの透明なまるいビンを取りだした。ビンの中には緑色の液体。
「二つつくったの?」
「増えたみたいだな」
「そんなことあるの?」
「たまに」
あくびをしたクロウはひとつをわたしに押しつけてくる。
「あんたが持ってろ。なにかあったときには使え」
「わ、わかった。ありがとう!」
回復薬。これひとつで、わたしの今月の生活費はまかなえちゃうはず!
「……売るなよ」
「え! だめなの?」
「ばか。それは緊急用だ。材料はまだあるからまたつくればいいだろ」
「そ、そっか。わかった。大事にとっておくね」
わたしは回復薬をカバンの中にそっとしまった。
そして、下で作業をしていた所長さんに回復薬ができたことを報告しにいく。
「おー。ちゃんとできたみたいだね」
「はい! ありがとうございました!」
「じゃあ、今日はもう上がっていいよ。それ、飲ませなきゃいけない人がいるんでしょ?」
「はい! ありがとうございます!」
心がとーっても広い所長さんにお礼をいって、クロウといっしょにわたしのお家に向かった。
家に帰って、さっそくつくった回復薬を男の人に飲ませようとするけど、気を失っているからうまくいかない。
「クロウ、どうしたらいい?」
「無理やり口に突っこめばいいだろ」
「だめだよ。こぼしちゃうかも」
「……たく。気休めだけど回復魔法をかける」
「クロウそんなこともできたの?」
なんでもできるっていってたけど、そんなことまでできたなんて。
回復魔法って、ものすーーっごくレア魔法って聞いたことあるけど。
クロウはいやそうに眉をよせて、小さく舌打ちした。
「あんまり得意じゃねえんだよ」
「そうなんだ」
「修復系は繊細なヤツが得意だからな」
「なるほど」
「納得すんな」
だって、クロウは繊細には見えないし。
小さくため息をついたクロウは、寝ている男の人の顔の上に手をかざした。
そして、またよくわからない言葉をぶつぶつとつぶやく。呪文みたいなものなのかな?
クロウの手のひらから、白みがかった緑色の光が細かい粒になってハラハラとおちていく。
すっごく綺麗だった。
しばらくすると、寝ていた男の人がかすかに眉を動かす。
「……ここは……」
「あ! よかった! これ飲めますか? 回復薬です」
「回復薬……」
ぼんやりとわたしを見た男の人は、とつぜんガバッといきおいよく起きあがる。
「セラ!」
「え? ち、ちがいます。あの、とりあえずお薬を……」
「ちがう……? すまない。目がかすんでいてよく見えないんだ……」
「いいからさっさと飲め」
しびれを切らしたクロウが、わたしの手から回復薬を奪い取って、男の人の口に無理やり突っこんだ。
もう、乱暴なんだから!
ゴクゴクと回復薬を飲んだ男の人は、ふぅと長い息をはいて、あらためてわたしを見る。
「セラ……ではないな。たしかに。セラはもっと気高い雰囲気の美人だった」
なんか失礼なこといわれてる気がする!
「おい。そんなことよりあんたに聞きたいことがある。どうしてあんたがヒトの世界にいる? 先々代」
クロウがわたしをぐいっと押しのけて、男の人の前を陣取った。
もう! クロウも自分かってなんだから!
わたしはすこし横にずれて、クロウのとなりに座って、しずかにやり取りを見守った。
「キミは……。そうか。先々代……もうそんなに月日が経ったのか……」
男の人はクロウを見てさとったように布団に視線を落として、あらためてクロウとわたしを見た。
「私の名前はジオン・プリスク。キミのいうとおり、かつては魔の国の王をしていた」
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