第11話 あらたなお仕事2

 大通りをすこし外れた場所にある、二階建ての石造りの建物。

 外には花がかざられていて、あざやかでかわいい雰囲気。そして、扉の上には、板でつくられたの手製の看板。白いペンキで、味のある文字が書かれている。


『お悩みなんでも解決、よろず屋探偵事務所』


 わたしは大きく胸を張り、両手でその店を示した。


「じゃじゃーっん! ココでっす!」

「……探偵?」

「うん! ほらここ見て!」


 わたしは看板の横に貼りつけられている紙を指さす。

 クロウがそれを見て、抑揚のない声で読みあげる。


「探偵事務所。お悩みごとなんでも相談! 火のなか、山のなか、どこへでも駆けつけます! ……うさん臭いな」


 目をすわらせたクロウが一刀両断する。


「あ、まちがえちゃった。そっちじゃなくて、こっち!」


 わたしは扉に貼りつけられている別の紙を指さした。またまたクロウが読みあげる。


「急募! 悪魔の巣窟そうくつにも飛びこんでいける勇敢な召喚士募集!」


 読み終わったクロウがさらに目をすわらせた。

 ビミョーな反応……。気に入らなかったのかな?


「ど、どう?」

「……人の命を軽んじているインチキ求人だな」

「えーっ⁉︎ そんなことないよ!」

「もっとマシなところはないのか」

「ええっ、ここじゃだめ?」


 クロウがくるっと引き返そうとした。だから大あわてでクロウの手をつかんで、なんとか納得させようと引きとめる。


「せめて話を聞いてみるとか!」

「そもそも、あんた召喚士として認められてないだろ。どうするんだよ」

「そ、それは……こう、勢いで!」

「先にあんたのチカラの不安定さを解消したほうがいんじゃねえの」

「不安定?」


 そうなの? 自分じゃよくわからないけど……。


「チカラが使えないんじゃ話になんないだろ。今だって──」


 苛立ったように手を上に向けたクロウの手のひらからゴオッと、巨大な火柱があがった。


「うえ⁉」


 すごい。大きな火!


「ク、クロウ消して! 危ないよ!」


 ぼーっと空に突きあがる炎を見ていたクロウが我に返った顔をして火を消す。


「……どうなってるんだよ」

「クロウすごいね。本当に火も出せるんだ!」

「あのなぁ。今使えたって意味ないだろ。……いや、今からもう一回いって……それより、原理の解明が先か?」


 クロウが真剣な顔でむずかしいことをブツブツいっている。でもでも、これで決まりだ。クロウは立派な召喚獣!

 むずかしい顔をしているクロウの横で、わたしもどうやってクロウを説得させるか考える。お仕事しないと生活できないよ! とか? 一回だけ! ってお願いしてみるとか?

 うんうん考えていると、張り紙のあるよろず屋探偵事務所の扉が内側からひらいた。


「お、客か?」


 ゆるくウェーブした、まぶしいくらいの金色の髪をした男の人。口には棒つきキャンディー。

 すこしたれた目がわたしを見てきゅっと細くなる。ドッキーンと心臓が跳びはねた。ど、どうしよう。まだ心の準備できてなかったのに!


「おー、どうしたお嬢ちゃん。依頼か?」

「あ、あっ、そ、そのっ」


 うつむいてもじもじと手をいじる。顔があっついよー。どうしよう。これじゃバレちゃう。

 わたしがシタゴコロで働こうとしてることが!


「んん? まー、話はなかで聞こうじゃないの。ほい、どうぞ」


 キラキラした笑顔で扉を大きくあけてくれる。

 どうしよう。ちゃんといわなきゃ。依頼者じゃないって。働きたいって!


「えっと、そうじゃなくてっ」


 わたしは決意して、えいやっと扉の貼り紙を指さす。


「あの! こ、この求人を見てきました! リディルです! 召喚士です! わたしを雇ってくださいっ!」


 必死の思いでガバッと頭をさげた。

 どうしよう。試験のときよりも、ずーーっと緊張してる。心臓がバクバクいっててうるさいよ。手も足もふるえてきちゃった。どうか採用されますように!


「なに、お嬢ちゃん召喚士なの?」

「は、はいっ!」

「召喚獣は?」

「あ、こ、このクロウがわたしの召喚獣です!」


 わたしはとなりに立っていたクロウをぐいっと突き出した。金髪のキラキラさんはじーっとクロウを見て、にぱっと笑う。


「おー、そっか。じゃあ、採用」

「へ?」

「は?」


 わたしとクロウの声が重なった。


「ん? だから採用」

「え、でも、面接とか、チカラを見るとか」


 それに、召喚士の証明もしてない。

 されたら困るんだけどね。認められてないわけだし……。


「面接? ははは、やだなー、そんなめんどうくさい」


 キラキラさんはカラカラと笑って顔のまえで手をふる。


「あのっ。本当に、本当に、わたしを雇ってくれるんですか?」

「うん。ただし、仮採用」

「……へ?」


 仮採用?


「試用期間ってやつ? 問題なければそのまま採用」


 使用期間……本当に召喚士かどうかのチェックってことかな。でも、それならきっと大丈夫。だって、クロウは本当に本当にすごい召喚獣なんだから!


「わたし、頑張ります! たとえ火のなか水のなか、飛びこんでいきます!」

「おい、死ぬぞ」

「ははっ、いいねぇ。そういう子、大好き」


 にっこり笑顔を向けられて、わたしの時間が止まった。ピキーンと固まっていると、大きな手が差し出される。


「今日からよろしく、リディルちゃん」


 ハッと我に返って、大きな手を拝むように両手でつかむ。


「は、はいっ! せいいっぱい、頑張ります!」

「俺はアース・ディガルド。ここの所長ね」

「しょ、所長さん!」

「お、いいねぇ。そういうの。とりあえず中どうぞ」


 やったー!

 とりあえず、第一関門はクリアできたみたい。

 これからいっぱい頑張って、正式に雇ってもらえるようにチカラをアピールしないと!

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