第10話 あらたなお仕事1

「あれ……お店しまってる」


 クロウといっしょにわたしのお仕事先の本屋さんにやってきたんだけど、いつもの看板がなくて、扉には閉店の文字が。


「休みだったとかか?」

「そんなはずないよ。わたし、今日午後からお仕事だもん。朝はおばあさんがあけてるはずなのに……」


 あ! もしかして、おばあさんになにかあったとか⁉


「どうしようクロウ! なにかあったのかも! すみませーん。おばあさんいませんかー⁉ わたしです。リディルです!」


 ドンドンドンと扉をノックする。

 病気とか事故とかだったらどうしよう。ううん、もしかしたら、お店のなかでたおれちゃっているとか!

 よくない想像がいっぱいうかんできちゃって、もっと強く扉をたたく。


「おばあさーん!」


 どうしよう。むりやり入ったほうがいいのかな? なんとかしてカギをあけられたら……。


「クロウ……」

「力づくであけるか? あけられるかわかんねえけど」

「たしかに……」


 納得するとチョップがふってきた。もう、暴力はだめなんだよ! そういうこともちゃんと教えなきゃ!

 召喚獣のしつけも召喚士の大事な役目!

 クロウに文句をいおうと口をひらいたそのとき、なかからガチャッとカギの外れる音がした。そして、ゆっくり扉がひらく。


「おやリディルちゃん! いらっしゃい!」

「おばあさん! よかった。無事だったんですね! お店がしまっていたから、なにかあったのかと思っちゃいました」

「あらあら、ごめんなさいね。あったといえばあったのだけれど、いいことが……」


 いいこと、といったのに、おばあさんは固まって、次には眉をさげて申し訳なさそうな顔をする。


「どうしたんですか?」

「……ごめんね、リディルちゃん。話があるんだ。入ってもらえるかい?」

「は、はい」


 どうしたんだろう。なんだか、緊張する!

 お店のなかに入って、おばあさんが用意してくれたイスに腰かける。


「じつはね、リディルちゃん。孫ができたんだ」

「え! お孫さんが⁉ わあ、すごい! おめでとうございます!」


 赤ちゃんが生まれたってことかな? どうしようっ。お祝いの品物とか用意したほうがいいのかな?


「昨日、息子から手紙がこない話はしただろう?」

「は、はい」

「どうやらお嫁さんのつわりがひどくて、大変だったみたいんだ」

「つわり……」

「赤ん坊ができたときに起きる、体調不良みたいなものっていったらいいかねぇ」


 そういえば、お母さんに赤ちゃんができたときも具合悪そうにしてたかも。


「それで、息子を手伝いにいくことになったんだよ。そのままいっしょに住まないかと、今朝手紙がきたんだ」

「え! そうだったんですね。おめでとうございます!」


 よかったよかったと拍手をしていると、おばあさんは困ったように笑う。


「……だからね、リディルちゃん。この店をしめることにしたんだ」

「え!」


 そっか。そうだよね。おばあさん王都にいくってことだもんね。

 でも召喚士として認められなかったのに、お仕事までなくなっちゃうなんて。


 ううん。先のことは不安だけど、今までたくさんよくしてくれたおばあさんに困った顔させちゃいけない。安心して王都にいってもらわないと。


「でも、それならちょうどよかったです!」

「うん?」

「わたし、じつは召喚士になったんです!」


 ドーンっと胸をたたくと、おばあさんは目がこぼれ落ちそうなほど大きく開いて、おどろいた顔でわたしを見た。


「なんだって? それは本当なのかい?」

「はい!」

「そうかいそうかい、よかったねぇ。で、召喚獣はどこに……?」


 おばあさんがきょろきょろとわたしの足もとを見る。


「ここですよ、ここ! じゃーん! わたしの召喚獣、クロウベルです!」


 わたしのうしろに立っていたクロウを両手でしめす。軽く手首をひねってキラキラの演出もつけた。


 おばあさんはクロウを見て沈黙した。びっくりしすぎて声がでないのかも。


「……人間じゃないかい……?」

「そういう召喚獣なんです!」

「そんな話は聞いたことがないよ。それにしてもエラい顔のいい男の子だねぇ。将来はおじいさんみたいな美丈夫になりそうだよ。私ももう四十年若ければ……」


 そこまでいって、おばあさんがハッとした顔をした。


「そうかい、リディルちゃん……、恋人ができたんだね?」

「はい?」

「もしかして、一度田舎に帰るのかい? 何度も何度も召喚に失敗したと聞いて心配してたんだよ? たしかに召喚士は名誉あることだけど、身を滅ぼすものも多いそうじゃないか。彼は身なりもいいし、しっかりしてそうだねぇ」

「うっ。えっと、え? あはは……」


 信じてもらえてない!

 うしろからチクチクささる視線を感じる気もするし、気まずいよ!


「でもそうかい。リディルちゃんにいい人が見つかったなら安心だ」

「あ、えっと、はい! わたしは大丈夫なので、息子さんのところにいってあげてください!」

「……ありがとう、リディルちゃん」


 おばあさんはいそぎでお店をしめて、明日には王都にいっちゃうみたい。すごいはやさ。ずっと、心配してたもんね。手紙がきたとき、うれしくてしょうがなかったんだろうな。


 おばあさんからはいくつか本をもらった。お店をしめちゃうから好きな本を持っていっていいっていうから。

 かわいい童話と、アイテム図鑑とか、地図とか、モンスター図鑑とか、文字の練習帳をもらった。

 文字は読めるけど、まだうまく書けないんだよね。でもこれから必要になると思うし、いっぱい練習しないと!


 本を抱えてお家に帰るために歩いていると、同じように本を持ってくれているクロウがチラッとわたしを見てきた。


「あんた、働く場所もなくなってどうすんだ? これから」

「うっ。あたらしいお仕事、見つけないと……」

「あてはあるのか?」

「うーん。えっと、一応? あのね、召喚士になったらここで働きたいなって思ってた場所があるの!」

「召喚士って認められてねぇのに?」

「うう。じゃ、じゃあ、今からいってみよう! 結果ははやいほうがいいもん!」


 そうそう、引きのばしてもいいことはないからね。

 でも、もしもダメだったら、どうしよう?

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