第39話 本気を超えて
2走の速かった人以外、前との距離を縮めることができずにもうすぐアンカーの凛音にバトンが渡る。
「また距離ちょっと離れちゃったね」
「1組のアンカーって確か陸上部じゃなかったっけ?」
「凛音、勝てるかな……」
100メートル12秒は普段運動をしていない人間の場合は陸上の才能があると持て囃されるだろうが、高校の陸上部ともなると12台秒はちらほらと出てくるらしい。
1組のアンカーである陸上部の部員も凛音と同じ、またはそれ以上に速いかもしれない。
「朝倉さんっ!」
「まかせろ」
ゆっくりと前に走りながらバトンを受け取った瞬間、凛音は一気に全速力で走り始めた。
1位との距離の差は約10メートル。果たして凛音に追い付けるほどの運動神経はあるのだろうか。
「やっと先輩にバトンが回ってきたね」
「まだちょっと離れてるし追い抜けるかな?」
「先輩だから大丈夫だよ」
全力で走っているものの、1チームは抜けそうだがもう1チームは抜ける気がしない。
せっかくのアンカー、春香に良いところを見せたいと思っていたのに。
既に私が走らなければいけない距離の半分を走った辺りで既に抜けそうだった方は抜き去っている。
もう一方は微妙に距離が縮まったような気がしなくもないくらいだ。
このままのペースで抜くのは不可能だろう。
ああ、ダメか。
「凛音ー!」
春香の私を呼ぶ声にテントの方へと振り向く。
「がんばれ凛音ー!」
愛しの彼女からあれだけ応援されてしまうとなにがなんでも負けるわけにはいかない。
とにかく足を動かすこと、走るフォームと呼吸を乱さないことに意識を集中させて走る。
先ほどまでは一切抜ける気配が無かったのに急に私なら絶対抜ける、1位を取れるという自信がわいてきた。
そして、私は勢いそのままにゴールテープを切った。
この時、私は誰かを思う心があればいつも以上の力が出せることを知った。
ゴールしてすぐ、春香の方へ手を振った。春香は笑顔でそれに応えてくれた。
綺麗な逆転劇を決めて1位になることができた。
これは私にとっても春香にとっても忘れられない思い出になるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます