第36話 帰ってきた日常
今日はこれまでのように凛音と普通の1日を過ごすことになっている。
衝動を抑える方法は結局まだ見つかっていない。
今一緒に居ても心の距離を感じてしまいそうだ。
もしそうなったら、心の距離があることが怖いが、それ以上に心の距離を感じてしまう自分が怖くなってしまうのだろう。
これまでずっと一緒に居たのに、私も凛音をだんだん人間として見られなくなってきている。
吸血鬼とはいえ、血を吸うこと、毒を持つこと以外は身体能力が高いだけの普通の人間と遜色無い。
今日1日を普通に過ごせればそんな見方も無くなってくれるだろう。
というか無くなってくれないと困る。
こんな後ろめたい気持ちを抱えながら凛音と一緒に居るのは嫌だ。
「春香ーーーっ!」
「うわあっ」
後ろから全速力で走って来た凛音にそのままの勢いで後ろから抱きつかれた。
「凛音!?」
「ふふん、今日は幸せな朝だ」
「まさか……」
「そうだ、そのまさかだ」
「見つかったの?」
「ああ、見つかった」
「これからも一緒?」
「これからも一緒だ」
「やったー、よかったよーっ!」
気持ちが抑えきれずに凛音を強く抱き締めた。
「痛い痛い、力入れすぎだぞ」
「あっ、ごめん」
「やっぱりあの2人は最高だね」
2人が抱き合ってるところとかめっちゃ尊い。
こうして2人を観察することは私の新しい日課となっている。
「あのー、何してるんですか?」
「ふぇっ?」
電柱の影から2人を眺めていると、私やあの2人と同じ制服を着ている女子から話しかけられた。
2人に気を取られ、後ろから話しかけられることに気づけなかった。
「あははっ、えっとー、そのー、あれです。私が陰キャすぎて人の横を歩けないだけです」
「へえー、そ、そうなんですね」
「……」
私としたことが、とても見苦しい言い訳だ。
相手もドン引きしている。この反応は私がストーカーしていることに気づいているのだろう。
「内緒でお願いしますね?」
「……はい」
口の前で人差し指を立ていたずらな笑顔を見せ、誰にも言わないでとサインを送る。
あの2人はこれからどうなっていくんだろうなぁ。楽しみだなぁ。
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