第35話 救世主
このままどこにも行かず家に帰るつもりだったのだが、私の体は無意識の内に公園の方へと向かっていた。
それに気づいた今、家へと行き先を変更してもいいのだが、今は私の体に行動を任せ、公園へ向かうことにした。
夜になり寂しい雰囲気を放つブランコに座り、鞄を横に置いてこれからのことに想いを馳せる。
「やっぱり別れるしか無いのか……。何か他の方法は……」
結局衝動を抑える手段は全く見つからなかった。
同族の知り合いや親戚も居ないから本当に解決のしようがない。
「こんばんは」
うつ向きながら思考していると、何者かに声をかけられた。
この公園には私しか居なかった。これは私に向けての挨拶で間違いないだろう。
「……こんばんは」
顔を上げて挨拶した時、私の目の前に立っていたのはパーカーのフードを深くかぶり、マスクをした、顔の見えない女性だった。
「何か困ってることでも?」
そう質問すると、マスクを顎の辺りまで下げ、口を開けて牙を見せてきた。
こいつは吸血鬼だ。
そしてわざわざ牙を見せるということは私が吸血鬼であることも知っているのだろう。
「依存性の強い血を吸ってしまいました」
「衝動が抑えられないとか?」
「それです」
「依存性の強い血って厄介だよね~。珍しいから情報少ないし、吸ってからじゃないと気づけないし」
この声、なぜか聞き覚えがあるような気がする。それも最近聞いた声だ。
「解決する方法を知っているのか?」
「うん、知ってる」
「……教えてくれるか?」
「いいよ」
「条件は?」
「何も無い」
「いい人……吸血鬼だな」
「困ってる同胞がいたら助けたくなっちゃうでしょ」
「早速だが、教えてくれるか?」
「血を吸う周期を一定にすること」
「なるほどな。一定の周期と言ってもどれくらいの期間がいいんだ?」
「2週間から1ヶ月。周期を整え始める最初は結構地獄だから覚悟してね」
「憂鬱な気持ちでここへ来たが、解決法が見つかって元気が出てきたぞ」
「それはよかった」
「よし、もう帰るとしよう。ありがとな、綾」
「うん、ばいばーい」
私が南条綾だって気づいてだんだね。急に敬語を使わなくなったあのタイミングかな。
私は朝倉さんが暴走して春香ちゃんの首筋に噛みついているところを見ていた。
何かしらの形で教えてあげたいと思い、最近は半分ストーカーみたいな状態だった。
朝倉さんと春香ちゃんの恋愛は練乳にどっぷりと浸かった苺のように甘い。
こんな関係が失われてしまうのはあまりにももったいなさ過ぎる。
だから私はこの行動をとることにした。
フードを脱ぎ、マスクを顎まで下げ、両手を合わせて天に祈る。
「あの2人の甘い恋が成就しますように」
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