第33話 彼女の居ない1日
何とか別れるという最悪の事態は回避することが出来たのだが、1日距離を置くだけでもこれほど気分が落ち込むものなのか。
凛音が居てくれるからなんだかんだやれていた体育祭の練習もとにかくサボりたい気持ちだけが私の心の中に溢れていた。
「春香、何か元気無いね?」
「私も同じ事思ってた」
「朝倉先輩と何かあったの?」
「ちょっと、ね……。喧嘩とかじゃないんだけど」
「それは……ショックだね。私、恋愛経験とか無いけど、辛かったら何でも相談してね。人に話すだけで楽になる事ってあるらしいし」
「陽実は優しいね。ありがとう」
「私は?」
「可憐は別に……」
「ええ~っ」
結局その日はただひたすらに脱力感に襲われ続け、久しぶりに可憐と陽実と私の3人で食べた昼食も全く味を感じなかった。
ストレス性味覚障害とかそういうものではないのだろうが、私の意識が料理の味に向かなかったのだろう。
あっという間に今日は放課後を迎えてしまった。
凛音も今同じような気持ちなのかな。凛音がまた暴走したりとかは多分してないよね。
今日は可憐と陽実が一緒だけど、それでも凛音が居ない寂しさを拭うことは出来ない。
「春香はほんとに朝倉先輩のことを大事に思ってたんだね」
「もちろんだよ。あんなに可愛いところ見せられたら大事にしてあげたいって嫌でも思っちゃうでしょ」
「私も朝倉先輩の可愛いところ見てみたい~」
「凛音は多分、陽実ともまた一緒に遊びたいって思ってるよ」
「それほんと?」
「ほんと、凛音が陽実のこと優しい人だって言ってたよ」
「嬉しい~」
「陽実は誰から見ても裏表がなくて、明るくて、優しい人に見えるよね」
「実際そうだもんね」
そんなことを話していると、スマホの通知音が鳴った。
―――――――――――――――――――――
寂しいいいいいいいい
凛音!?
もう我慢出来なくなったあああああああ
落ち着いて
はい
何の用?
今日、春香の家行ってもいいか?
我慢出来なくなっちゃったんだね。いいよ
ありがとな
―――――――――――――――――――――
「誰からのLINE?」
「凛音」
「内容は?」
「秘密~」
「何か嬉しそうだね」
「分かっちゃう?」
「そんなにあからさまに声に出てるとね」
「ねえねえ教えてよ~」
可憐が私の右肩を両手で揺らす。
「凛音が後で遊びに来る」
「おお」
「関係持ち直すチャンスじゃん」
「別に悪くなった訳じゃないってばぁ~」
「もうここでお別れだね」
「楽しく話してると時間はすぐに過ぎていっちゃうよね」
「また明日も一緒に帰る?」
「それは凛音次第かな」
ここでよく凛音と別れていたなあ。そんな事を考えながら1人でほんのりと夏の気配が残る帰り道を歩いていく。
住んでいるマンションのエレベーターの前まで来たが、凛音とは会わなかった。
まだ着くのに時間がかかるのだろうか。
それともやっぱり無理! ってなって帰ってしまったのだろうか。いや、そうなった場合、凛音なら連絡くらいくれるはずだ。
エレベーターが開いた。
とりあえず凛音が来るまで漫画でも読んで適当に時間を潰していよう。
エレベーターから曲がり角を曲がり、自分の部屋のドアへ目を向けると、そこにはドアの前でしゃがんでいる凛音が居た。
「ふふん、待ってたぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます