第30話 凛音の異変

 「凛音、大丈夫だよ」

「……」

凛音を横から抱き締める。

とにかく凛音を落ち着かせるのが最優先だと私は判断した。


 私は医者でも看護師でもないし、その道を志しているわけでもないので、本人の口から話してもらわないとどういう状態なのか分からない。

凛音が話せる状態に持っていけるように全力を尽くそう。


 「先生呼ぼうか?」

運悪く今は周りに生徒も先生も居ない。

でも、凛音を1人にするのは怖い。ていうか、凛音が1人にされるのを怖がるかも。


 「……春香」

「話せる? 凛音、今どうなってるの?」


 「……もう我慢……無理……」

「え?」


 突然、凛音がいつものように首筋と肩の間辺りに噛みついて来た。

その瞬間だけは、凛音のルビーのような美しい瞳が赤黒く、血塗られているように見えた。

周りに人居ないけど学校でこれはやばい、やばすぎるよ。


 「凛音!? 流石に場所が……」

「……」

私の言葉は凛音に届いているのか。それも分からないほどに凛音は私の血を吸うことに集中している。

今の吸血は凄く衝動的なものに見えた。疲れたから血が欲しくなったのかな?


 「朝倉先輩!? 何やって……」

「可憐!?」

血を吸っている凛音に夢中で可憐が近くまで来ていることに気づかなかった。

「春香、首噛まれてる!?」

「あ、あははっ、こっ、これは……その……」


 こんな状況になっても凛音は血を吸うのをやめようとしない。

正気じゃない。凛音は今、衝動に支配されているのか。


 可憐が手が届くほど近くで凛音が血を吸っているところを見てしまった。

これは……終わったか?


 「化け物……」

そんな可憐の言葉に反応したかのように、凛音は私の肩から口を離し、可憐の方を向いた。

凛音が吸いきれずに溢れた血が私の肩からも凛音の口からも垂れていた。


 「……はっ」

凛音がはっ と小さく声を出した。血を吸ってようやく正気に戻ったようだ。

今更もう手遅れだが。


 可憐が茫然と立ち尽くしている。

「可憐ちゃん!? あー、これは、うーん、と……夢だ。可憐ちゃんは夢を見てるんだ」

「絶対嘘ですよね!?」

いつもの雰囲気に戻った凛音が話しかけたことでフリーズしていた可憐はようやく動き出した。


 「……ごめんなさい」

「謝れてえらい。でも、あんなことした理由は後でしっかり聞かせてもらうからね」

「はい……」


 「ねえ春香、私にも分かるように説明して欲しいんだけど……」

「どうする? 凛音」

「映画とかドラマみたいに正体がバレたから消すってわけにもいかないしな。説明するしかないよな」

「是非お願いします。後、口拭いてください。血、いっぱいついてますよ」

「結構派手にやってしまったな……」



 可憐に昼食を食べながら、凛音が吸血鬼であることを説明した。


 「吸血鬼……朝倉先輩が……」

「私と同じような反応してる~」

「信じてくれるんだな」

「あんなの見たら信じるしか無いですよ」


 「春香、さっきの件の詳しい話は帰りにする」

「私も一緒に聞きたいです」

「うーん、まあ、仕方ないな。今日は3人で帰るぞ」

「ありがとうございます」








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