第4話 初めての料理

 土曜日、約束通り凛音に料理を教える日だ。




 午前9時、インターホンが鳴る。

待ってました、凛音は普段、無表情なことが多い。

やり方がわからなくなって泣きついてきたり、包丁で指を切って痛いよーとか言ったりしてる凛音を想像する。

ああ、夢が膨らむよ。


 「おはよう、来たぞ春香」

「おはよう、待ってたよ凛音」


 料理する準備をする。

凛音が髪を後ろで結んで、エプロンを着ている。

似合ってるね、可愛い。


 「ところで今日は何をつくるんだ?」

「卵焼きかな、簡単だし」

「簡単なのか、それは助かるな」


 「じゃあやっていこっか。まずは卵割るところからね」

凛音に卵を渡す

「緊張してしまうな」


 凛音が卵を割ると卵が粉々に砕けた。

中身が飛び散って凛音にいっぱいかかった。あらら、やっちゃったね、でもそんな不器用なところも可愛い。


 「……すまん、力を入れすぎてしまったようだ」

「大丈夫、これで拭いて」

凛音にタオルを渡す。

申し訳なさそうにエプロンと顔を拭いている。



 「今度こそ……」

今度はさっきよりも慎重にゆっくり力を込める。

パキッと卵が割れる音がする。

さてどうなったかな。


 凛音の後ろから確認してみる。

卵は割れてしっかりボウルの中に入っている。

……殻も一緒に。


 「うぅ……今度は殻が入ってしまった。こんな調子で卵焼きがつくれるだろうか」

「私がいるから絶対大丈夫、これで殻取り出して」


 菜箸を凛音に渡す。

「なんだこの長い箸、持ちにくいな」

凛音は菜箸も使ったことがないらしい。

殻が上手く掴めず悪戦苦闘している。

「殻は私が取るから凛音は見てて」

「すまないな、私が不器用なばかりに」

「気にしなくていいよ、私も初めて料理したときはこんな感じだったから」


 殻を全て取り出し終わった。

もう一度凛音に卵を渡す。

三度目の正直だ、これでダメなら卵は私が割ろうかな。

「これでダメだったら私がやるね」

「ああ、私もそうしてもらえると嬉しい」

凛音が卵を割る。果たして結果は……


 今回は綺麗に割れている。

ちょっとだけど成長したね。


 「できた……できたぞ!」

「まだ卵割っただけなのに喜びすぎだよ」

卵上手に割れて喜ぶ凛音可愛い。

赤ちゃんが立ち上がろうと頑張っているのを見ているような感覚だ。


 卵液に調味料を入れる。

「混ぜるのは凛音にやってもらおうかな」

「わかった、かんばるよ」



 「やはりこの箸は使いづらいな」

「凛音は持つところが下過ぎるんだよ、上の方持ったら混ぜやすいよ」

「うおぉ、本当だな、混ぜやすいぞ」



 卵液の準備が完了し、これから焼いていく。卵焼き器を準備し油をひいて火をつける。



準備ができた。卵液の3分の1を入れる。

その後固まってきた卵を巻いていく。

残りの卵液の半分を入れる。


 ここからは凛音にやらせてみよう。

「ここからは凛音にやってもらおうかな」

「わかった、これまで以上に緊張するな」



 「卵液が上手く広がらないぞ、どうする」

横から凛音の手を握る。

「こうやって卵焼き器を揺らしたらいいんだよ」

「なるほどな、助かったぞ」



 「今度は上手く巻けないぞ、助けてくれ~」

「菜箸を上手く使って、こう」

「少し形が崩れてしまったな」

「気にしなくていいよ、大事なのは味だからね」


 残りの卵液を入れ、固まったら巻いていく。

「3回目は難しいから私がやるね」



 色々あったが卵焼きが完成した。

ちょっと形は悪いけどね。

「結局私はただの足手まといだったな」

「ううん、凛音はよく頑張ったよ。早速食べてみよっか」


 2人分の箸を用意する。いざ実食。

「うーん、美味しい」

「いい味だな」

「形は悪いけど」

「形は悪いがな」

2人の言葉がシンクロした。

「あははは、シンクロした~」

「ふふふ、そうだな」



 そういえば包丁使わなかったな。

でも凛音の不器用さじゃ怪我どころじゃすまなさそうだったし使わせなくてよかった。















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