第6話 マッドマックス的なアレ
外が騒がしかった。
なにか爆音が通りのほうから響いていた。
「カワカミサン?起きて!」
「あーはいはい!いま起きるからね~」
浴衣のうえに羽織をまとってドアを開けた。アナが血相を変えて立っていた。
「どうしたの?何かあったの?」
「賊の襲撃だよ!」
廊下は慌ただしかった。
アナのあとについてラウンジに降りると、お客さんたちは立ち上がってエントランスに集まっていた。壁の時計によると真夜中。
そして、表には爆走するバイク集団。
「なに?暴走族が来たの?」
だれかが答えた。
「サカドを襲った野党じゃないかな……半グレの」
「ありゃあ日本再生派に雇われてる反社だ。あいつら治安維持の必要性を訴えてるだろ?ヤラセなんだよ」
アナが首を振った。
「くそっ!どこもやるこた同じだわ……」
「どうする?俺たちで対抗しようか?」テッドが言った。
「いや、ちょっと様子見しようよ……奴らも魔導律いくらか持ってるかもだし、ここのレンジャーが駆けつけるかもしれない。なんにせよここを戦場にできないし……」
言っている間にも通りから逃げてきた人が旅館に駆け込んでくる。どこかで窓が割られて、悲鳴が上がった。
騒々しいバイクにまたがった連中は、我が物顔でゆっくり通りを流しながら、けたたましいクラクションを鳴り響かせていた。
「あいつら~貴重なガソリンを無駄に使いやがって」
ナツミはやや幻滅していた。イグドラシルに来てもこんな連中がいるなんて……
数分後、暴走集団は下流方向に去って行った。
人々は通りに出て、壊された屋台や荒れた通りの片付けを始めた。
「追跡すべきかも」テッドがまた言った。
「そうだね……」アナもうなずいた。「奴ら、どこかでUターンしてまた戻ってくるはず。幹線道路はここ一本だけだし」
「それじゃ出発しよう。トム、町役場に行ってトランシーバーがあれば借りてきて。それから賊を追跡すると伝えて」
「オーケーアナ」
「ほかのみんなは追跡の準備しよう」
それで、ナツミは浴衣から服に着替えてラウンジに戻った。
「ちょっとまってカワカミサン、なんであなたが加わる?」
「だってわたし……」うまく言えなくて手のひらを振った。「とにかく邪魔はしないから」
アナは通りを見回して溜息をついた。血気盛んな連中が 賊を追いかけようと棒きれを片手に走っていた。
「あたしたちは急がないと、騒ぎになる」
チーム・レイブンクローはたしかに急いだ。ぽんぽん跳躍してあっという間に行ってしまった。
ナツミは彼らを追いかけたけど、走るのなんて久しぶりだった。慣れない動きで足がもつれそうになった。
(杖なしで歩くのもちょっと怖いくらいなのに)
町の境界を越えると真っ暗だった。
行く手には懐中電灯の光が瞬いていた。
賊を追いかけていた人たちはいまは徒歩で、ナツミは何人か追い抜いた。
視界の片隅でなにかが目に止まって川に顔を向けると、水面上空100メートルくらいを凄いスピードでなにかが飛んでいた。
音もなく飛ぶその物体には見覚えがあった。
魔法の絨毯!
それから10分ほど走ったり歩いたり……ナツミは汗だくになって、立ち止まって息を整えた。
いつの間にか人の気配がなくなり、光は対岸の鉄道敷設工事の灯火だけになっていた。周囲は足元までほぼ真っ暗闇……
だんだん不安になってきた。道は一本だけなのに迷子になった気分だ。
賊とアナたちと魔法の絨毯が飛んでいった方向に向かってたつもりだったが、どこかで道を間違えたか……
さらに五分ほど進むと、行く手に究極の選択が現れた。道が二本に枝分かれしていたのだ。一本は川沿い、もう一本は直角に曲がって森に向かっていた。
「あれまあ」
もう町に戻る頃合いかもしれない。本能はそうすべしと訴えてくる。
ナツミが決断しかねていると、森のほうの道からヘッドライトの光が差し込んだ。ナツミはハッとして物陰を探したけれど、どこにも身を隠す間もなかった。
光の主は小さな電気自動車だった。賊の一味ではなかった。ナツミの姿に気づくとストップして、パワーウインドが下がって男性が顔を出した。
「あんた!ここにいちゃいかんよ!暴走族が――」言ってるうちに背後からけたたましい爆音が響き始めた。
「あんたも乗って!}
とはいえ自動車にはもう四人乗ってて、ナツミが乗り込む余地はなかった。
「わたしはいいから早く逃げてくださいな!」
「しかしだな――」
「いいんです、早く!」ナツミは土手に向かって走った。
自動車が走り去って、ナツミは草むらに身を伏せた……どう考えても隠れきってるとは言えないけど。
暴走族は交差路で止まった。町を通過した全員ではなく、10台くらいだろうか。
(最悪)
あの自動車を追いかけると思ったのだが。
賊たちはバイクを降りてなにやら相談していた。
「戻ってもうひと暴れするう?」
「えー?ちんけな町だぜ?酒と女はともかくガスがねぇんだよ」
「ションベンしてくる」
ひとりが土手を降りてナツミのほうに向かってきた。おかげでナツミはあっさり見つかってしまった。
「アーアー、女みっけ~!」
「まぁじで~?」
ナツミは立ち上がって逃げだした。
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