悪魔の印は知らぬ間に!?

 嵐が去るように問題は片付いて、友梨那たちは場所を変えた。

 別の公園の近くの橋の上で、そこからは夕陽と茜雲がよく見える。


「振り回してくれてありがとう。楽しかったけどつまんなかったわ。じゃーね、システィーナ。好きだけど嫌いだから、もう会いたくない」


「そっちが会いたくなくても会いに行きますよー。うふふふ」


「ではお元気で。また会いましょう」


 片や右目を大きく開けて左目で鋭くにらみ、片や両目を見開き眉毛は吊り上げて……。

 互いに悪態を突き笑ってやったところで、友梨那は今日はマナエルに家までワープ移動をさせてもらった。

 不思議な光が彼女を包み、自宅まで瞬間的に届けたのだ。

 一仕事終えた顔をした天界の二人とは違い、魔界の大悪魔はまたも悪巧みしていそうな微笑みをたたえていた。


「ずいぶん、友梨那さんにご執心ですよね」


「あいつがぜーんぜん、あたしの思い通りになってくれないからよ。それより、トロークたちに事情聴取しないの?」


「その件は魔界の警察や、デーモンクイーン様の親衛隊の仕事。わたしたちのような素人が出張るべきではないわね」


「【グリプス隊長】は今頃、さぞお忙しいんでしょーね」


 夕陽も沈んで夜が近づいてきた時、彼女たちは街の中を散策しながら話し合っていた。

 各々が天使や悪魔でなく人間の姿をとっていたとはいえ、周りの目を少しは気にしたが、意外なほど人々は彼女たちのことを見ていなかった。

 けれども、見とれていたものはいたかもしれない。


「ねえ、システィーナ。これで懲りたら、もう友梨那さんに手出しするのはやめといたら?」


「あきらめないわよ。あの子で遊び尽くすまでは」


 盗んだのではなく、コンビニで買ったコーヒーやボトル入りの紅茶を飲みながら、天使と悪魔たちは話し合っている。

 システィーナは自分ではそうそう飲まないが、相手がコーヒーを飲む時は砂糖を思い切りぶちまけて甘ったるくしてしまうタイプだ。


「明日にはビックリして腰抜かすわよ。城ヶ崎友梨那……、うふふふ」


 そんな中で、魔法陣の形をした【悪魔の印】を手の甲に浮かび上がらせ、システィーナはせせら笑う。


「趣味悪いなー……」


「うっせ!」


 このあと、システィーナたちはアミューズメント施設でしばらくボウリングやカラオケなどを楽しんで行ったという。


「【恐れ】の力が足りないなあ……」


 ビルの上から誰かが見ていた……?

 双眼鏡を構えた女性のようだが、今は何もわからない。



 😈👼👿👼



 翌朝……。



 AQモバイルショップ、それは城ヶ崎友梨那が通う職場である!

 彼女は日々、この星芒市の一角の支店で接客や事務などをせわしなく、しかし気前よく担当しているのだ。


「お騒がせしました! 急に休んで、申し訳ございませんでした」


 開店前、スタッフ以外立ち入り禁止の綺麗に整えられた事務室内にて。

 スーツ姿に着替えた友梨那が真っ先にやったことは、いつも世話になっている上司や同僚たちへの謝罪だ。


「いいんだよー、ゆっくり休めてもらえたのならそれでいい。今日のお仕事もリハビリみたいなもんだと思ってもらえたら」


 ごく平凡な容姿ではあるが、見るからに人の良さそうな中年男性が笑顔で許し、それどころか友梨那を労う。

 もちろん、ほかの仲間たちも彼に続いた。


「そうだ! 君に負担をかけないために今日から新しい人に来てもらうことになったんだ」


「店長やめてくださいよー、用済みになったからクビにするなんて!」


「違うってェ」


 これは、店長も友梨那もお互いのことをよく知っているからこそ成り立ったやりとりだ。

 冗談を飛ばして笑い合う中、重要なのはこれからである。

 話題に上がっていた新入社員が姿を見せて、ある者は喜んで受け入れ、またある者は驚くあまり腰を抜かしそうになった。



 その理由、というのは。



「はじめまして。本日からご一緒させていただくことになりました……、【イーヴリン・ローズウッド】と言います! よろしくお願いします!」


「はい。……えぇ〜〜〜〜!?!?!?」


 こともあろうか、その新入社員は天界の悪魔であることを隠し、人間の姿に変身したイーヴリンだったからだ。

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