悪魔化のひみつ……?
天使や悪魔が現実にいることを知る者はわずかだ。
差別してしまう者もいれば、彼らの存在を受け入れるための基盤を作るべくコミュニティを築いた器の広い者も、当然いる。
後者に当たる物好きが異文化交流の場としても経営しているのが、システィーナたちが行きつけの店とする路地裏のバーだ。
妖しげながらもしゃれた雰囲気を醸し出していた。
「お客さーん、その辺にしときなよ〜……」
「うっっっっさ! 自己管理くらいできらぁ!」
彼女たちが友梨那と別れた後の晩。
酒を浴びるように呷る彼女を見たマスターが心配するも、当のシスティーナは知らん顔だ。
ビールのジョッキをカウンター席のテーブルに叩きつけたため、ひどい酔い方と合わさって周りをドン引きさせた。
「マナちゃんにイヴちゃんよお! かーっ! なぁ〜〜〜〜に余計なことしてくれてんだこのクソ天使ども!! あいつはこのシスティーナ様と契約して、眷属になってくれるかもしれなかったんだぞ!? へたっぴちゃんのあたしを支えてくれる名コンビ結成できた可能性もあったのになあああああ〜〜〜〜〜〜ッ!! あたしに合わせて悪魔化を治すフリしてくれると思ってたのに、ホントのマジで治しやがってよおおおおおおッ!! 正義のヒロイン野郎のあんたたちにはあたしの苦労なんてわかんないでしょうねえ!!」
おそらくこう言いたかったのだろうが、途中から呂律が回らなくなっており、マナエルやイーヴリンをはじめ、周りの者にはありえないほど汚く醜い罵声を発し続けているようにしか聞こえなかった。
「ダメだわこりゃ。こいつ既に少し錯乱している」
バケツに入れた水を借りて、頭上からぶっかけ黙らせると……イーヴリンはため息混じりに酔っ払いの大悪魔のことを分析した。
「手違いだったから治して、おねがーい♪ って、頼まれてませんでしたっけ? 友達として私恥ずかしいわ……」
「それより! ……システィーナが言いたいのって、そんなおバカなことじゃないでしょ!」
「雰囲気が似てたって話だったわね。魔界の女王陛下に」
気が立っていたシスティーナを落ち着かせ仕切り直しをしたタイミングで、話題は友梨那が知らぬところで密かに相談していた件へと変わっていく。
「う、うん? 確かにあの友梨那の姿は、【デーモンクイーン】様に似てた。イヴちゃんはどう?」
「私には【アスモデウス】様にも似ているように見えたかな」
両者がその名を話題に出したものたちは、どちらも魔界においてとても高位な身分についている悪魔で、女の視点から見て魅力的な女であるとだけ、記しておく。
「どちらにしても、何かしら近かったというわけですね」
「もう何が何だか……ウアーッ」
「飲みすぎで頭が働かないんだねぇ。お水とお薬飲んできてちょーだい」
まだ荒れている友を見て、気遣うイーヴリン。だが、誰の手元にも酔い止めはない。
「……それだけじゃない……。あの子がよからぬ連中に狙われる可能性もあるから、契約しときたかったの」
「眷属にすることで守りたかったと?」
「かぁーん違いしないでもらえる? あの子を守りたいんじゃなくて、ペットやおもちゃのようにしてやりたかったのよ。それに、あーんなおバカだけど面白い子を他のやつらにとられちゃうのが嫌なだけ!」
これも悪魔らしさというものか、悪びれもせずにシスティーナは堂々とその独占欲を打ち明けた。彼女としては、しんみりしたところを長々と見せたくなかったのもあったが。
「あんた方も大変だよなアー。まあ気張りな」
「ねえマスター、今身内と喋ったことはくれぐれもご内密に……。ね?」
「しーっ」と顔の前で人差し指を立てながら、システィーナはこの店のマスターを脅迫……もとい、彼と約束を交わした。
「友梨那さんを支配したがってたみたいだけどさ? ほどほどにしなさいよ」
「イヴちゃんの言うとおりだわ。心に留めくだけにしておいたほうが、あなたのためになるかもよ」
……そして、マナエルとイーヴリンはそれぞれ呆れた顔をしながら、調子に乗っている友人に釘を刺したのだった。
「い、言ってみただけだっつーの……」
😈
「【光炎の戦士トモエ】の再放送の最終回に間に合わせなきゃ。徹夜でエンディングまで進めてやる〜!!」
その頃の城ヶ崎家にて。システィーナが杞憂と悪巧みをしていたとは知らず、友梨那はサブカルグッズに囲まれた自室で鬱憤晴らしも兼ねてお気に入りのアクション・アドベンチャーゲームを遊び倒していた。
独りごちながらも巧みなコントローラー捌きとプレイヤースキルを発揮していたが、なんともう、同じゲームを3周もやりこんでいたようだ。
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