私デーモンになっちゃったよ〜!
次の日の朝。
幸いにも仕事は休みだった。
父と兄が出勤して家からいなくなったのを確認してから、
「えぇ……!? うっそぉ〜……えゔぃん」
顔を触ってから胸を自ら揉むなど、大げさな驚き方ではあったがそれほど大事だったのだ。
角も、コウモリの翼も、スペードや矢尻のような尻尾もある。
やはり金髪の悪魔のままだ。
更に、均整がとれていたが悪く言えば平坦なボディは、豊かでグラマラスなものへと変わっていた。
……これについては、彼女はむしろ喜ぶべきだったのかもしれない。
元々背は高かったので、城ヶ崎家の男たちのお下がりでも使えば、着るものには一応困らない。
「コスプレに目覚めてわたしを驚かせたかった、とかじゃないのね……」
「それにしちゃ作り物っぽさがないじゃん。完璧に本物だよこれ、認めざるを得ないじゃん……。翼は重いし肩凝りそうだし!」
広々としたリビングのテーブルに腰掛けて話をした後、母の前で頭を抱え、悲痛な叫びを上げるがどうにもこうにもならない……。
「つらいけど、お母さんから何もしてあげられないわ。なるようにしかならない」
「それじゃあ、私これからこんな体で……どうやって働けばいいんだ!!!」
望まぬ変身を遂げた我が子の身を案じる母を前に、やり場のない怒りと悲しみが食卓にぶちまけられた。
発散したところで、次のステップに進むにはまだ何かが足りない。
「体調不良につき療養中ってことにすればいいじゃない」
「でも私の代わりに働いてくれる人って……いたわ!」
忙しい中ではあったが、何度か、「しんどい時は会社のことは気にせず休んでほしい」と、ありがたい助言をもらったことがあったことを友梨那は思い出した。
比較的裕福な家で育ったのと、家族と友人と上司と同僚に恵まれていたのは、不幸中の幸いか。
「それにお母さんも最初はコスプレって見間違えちゃったもんね……。外歩けるかも」
「うんうん。前向きに考えてもいいじゃない」
希望が潰えて暗くなっていた友梨那の表情もどこか緩んで、母としても喜ばしいことだ。
「もしもし城ヶ崎です……」
母からの提案通りに仕事先への連絡をきちんと行なってから、友梨那は気分転換のために「行ってきまーす」と、散歩にでも出かけることに決めた。
😈
「飛べた? すご〜い……!」
当分戻らない、二度と戻れないのかもしれないのなら開き直るしかない。
……と思って、彼女は体を慣らすべく雲の上から大都会を見下ろす。
このように今なら空だって飛べるのだ。心を躍らせ調子に乗っていたら危うく落ちかけたので、近くに不時着したが。
「今ならアブないお店にだって入れちゃうかも!?」
その先で、どちらかと言えばもっと大人向けのいかにもなバーや怪しげなクラブなどが並んだ区画に立ち入ろうとしたが、そこで我にかえる。
周りからも奇異の目で見られてしまったが、一応差別的なものではなかった。
だが友梨那にとっては深刻だ。
「はっ! なんでこんなバカなことやってんだろう私……」
高台の公園にあるベンチに座って少し休憩だ。
一喜一憂というか、アップダウンが激しくなったように感じられたのは、悪魔になって感情の抑制が効かなくなったためなのか……と、推察した友梨那が落胆する。
「なにエンジョイしてるんだぁ……?」
刹那、空間のほころびから誰かがやってきた。
友梨那の後ろに立つは昨晩、己をこんな体にした張本人――。
相変わらずのボンテージファッションで、首を傾げて不敵に妖しく笑っているものの、どこか不機嫌そうだった。
「だ、大悪魔システィーナッ」
苦々しい顔をして、彼女はその名を呼んだ。
「キレんなよぉ」
「あんたのせいだ! あんたが乱暴したせいで私はこぉ~~~~んな……」
「乱暴に乱暴で返すわけ!?」
気だるそうに見下す表情と声色に腹を立てた元人間の少女が、立ち上がった途端に女悪魔をビンタする。
胸倉をつかまれて更に仕返しされそうになり、それは勘弁だと思ったシスティーナは友梨那を制止する。
これでタコ殴りにされるという、最悪の事態は阻止された。
「友梨那、聞こえてるのならリベンジはやめてちょうだい。耳寄りな話がある――」
「誰が信用できるかっつーの!!」
「ほ~~ん? 知りたくないんだ。あなたの悪魔の力を浄化して、人間に戻す方法」
焦りを見せるもすぐに余裕の表情を見せつけるシスティーナ。
嘘か誠か定かではないが、彼女に突きつけられ、一瞬沈黙したがそれを破って友梨那は問う。
「ガチぃ……?」
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