第13話 屋敷の偵察
「兄貴、急に走り出して、あの女と話し込んでたみたっすけど、知り合いっすか?」
「…ああ、そんなところだ。」
ラッディの問いかけに生返事を返す。
このままだと、あのパーティーに参加する人は皆死ぬ。かといって、それを信じてもらうことが不可能なのは、今のマルズとの会話で思い知った。
だとすると、残された選択肢は二つだ。一つは、自分には関係の無いことだと見過ごす。そして、もう一つは、直接、屋敷に乗り込んで、あの惨劇を止める。
考えるまでもない、あの地獄を知って、見過ごすことなんてできない。
何としてでも、あの惨劇を回避しなければ、それこそが俺が過去に戻ってきた理由なのかもしれない。そんな使命感を抱きながら、あのパーティーが行われた屋敷へと歩き出す。
「ちょっと、待ってくださいよ、兄貴ぃ。」
ラッディは、俺の様子を不審に思いながらも、ついてきてくれる。そんなラッディに少し申し訳なくなる。
ラッディが兄貴と慕うのは、おそらく俺のモデルとなった別の誰かだ。それは、決して俺じゃない。意図してこういう状況にしている訳ではないが、騙しているようで悪かった。
しかし、だからと言って、ラッディにこの事を説明しても、混乱させるだけだろう。
結局、ラッディとは会話をすることもなく、目的の屋敷に辿り着いた。
「兄貴、どうしたんすか、こんな屋敷に何か用でもあるんすか?」
「どっか、入れる場所でもないかなと思ってね。」
そう言って、俺は屋敷の外壁に沿って、歩く。
「流石に、この屋敷に盗み働くのは、まずいですって。」
ラッディは焦った様子で、俺を止めようとする。実際は、盗みを働きたい訳じゃないが、どのみち不法侵入したいことは本当なので黙っておく。
どうにかして、この屋敷に侵入しなければならない。
現状、最大の問題となっているのが、殺害方法が不明であることだ。あの感じから言って、毒に近いものだと思うが、確証はない。だから、早めに侵入経路を確保して、殺害方法の特定から始めなければならない。
理想は、パーティーが始まる前に、殺害に使う何かを見つけて、皆が殺されるのを回避することだ。
思考を巡らせながら、外壁をつぶさに見て回ったが、これと言って侵入に使えそうな場所はなかった。
玄関の門には、衛兵のような武装をした人物が数人立っている。
なるほど、セキュリティは万全のようだ。
ひとまず、今は打てる手がないので、帰ることにする。下手に疑われるのだけは避けなければならない。
「ラッディ、帰るぞ。」
「はい、分かったっす。流石に兄貴でも無理っすよね、この屋敷は。」
そう言って、ラッディは安堵した表情で、俺についてくる。諦めた訳ではないので、何となく申し訳ない気分になる。
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