第10話 再び獣人のメイド服の少女との出会い

「おい、ラッディお前、前歩け。」


 もしもの時のために、ラッディを前に行かせる。…後、何か真後ろにラッディみたいな柄の悪い男にいられると、急に刺されないか不安というのもある。


 ラッディは不審そうな顔をしたが、特に何かを言うでもなく、俺の言葉に従った。


 それから、路地裏をしばらく歩くと、大通りのような場所に出た。


 ぱっと見は、前回の貴族となった世界と同じように見える。


 …というか、全く同じようにしか見えない。あちらこちらにある店はどれも見覚えがあるものだった。よくよく辺りを見渡してみても、前回の世界との相違点は見当たらない。


 まさか、これって同じ世界に転生してきたのか。そんな事はあり得るのだろうか。けれども、この現実に説明が付けられるのは、その仮定以外にあり得ない。


 正直、信じられない気持が強く、何とかその仮定を否定できる材料はないか、辺りを見渡していると、見知った人を見つけてしまった。


 マルズだ。前回の世界で、俺の使用人をしていた獣人の少女。そのマルズがメイド服で通りを歩いていたのだ。


 最初に浮かんだのは、確信だった。マルズを見つけたことにより、この世界が、前回の世界と同じだと言うことを確信した。しかし、すぐに違和感に気づく。


 …どうして、マルズは生きているんだ?


 俺の記憶が正しければ、マルズもあのパーティーで死んだはずだ。最後まで、俺の身を俺の使用人として案じ続けてくれた彼女の死を忘れるはずがない。


 気づけば、俺は彼女に喋りかけていた。彼女と話すことによって、この疑問が解決されることを期待したのか、あるいは、ただ生きていてくれた彼女と話をしたかったのかは定かではなかったが。


「マルズ…だよな?」


 俺がそう呼びかけると、自分の名前を呼ばれたことに気づいた彼女は立ち止まって振り返った。


「…どなたですか?」


「覚えてないのか?ほら、貴族でお前の主人をしていたシュートだよ、シュート。」


「申し訳ないのですが、あなたが何をおっしゃっているのか分かりません。」


 マルズは困惑に満ちた表情をして、そう返した。


 嘘を言っている様子はない。間違いなく彼女は俺の事を知らないのだ。


 生きている彼女を見た時から、その可能性を思い描かなかった訳じゃない。ただ、その考えがそう簡単に信じられるものではなかったというだけで。


 タイムリープ…おそらく、俺の死がトリガーとなって時間が戻っている。そう考えると、俺がこの世界にいることも、マルズが生きていることも説明がつく。ただ、一つだけ疑問となるのが、どうして俺は貴族じゃないのか、と言うことだ。


 ただ、それに関しては、俺の方がイレギュラーな存在であることから納得できないこともない。元々、俺はこの世界に転生してきた存在であり、貴族ではなかったのだから。


 この考えを確信に至らせるために、俺はマルズに重要な質問をした。

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