第9話 目が覚めたらただのチンピラ
目が覚めた。
立ちくらみのような感覚に襲われて、倒れてしまいそうになるのを、何とかこらえた。
「…ここは?」
周りを見渡すと、暗い路地裏のような場所だった。
意味が分らない状況に呆然として、立ち尽くしていると後ろから声がかかった。
「どうしたんすか兄貴、急に立ち止まったりなんかして。」
「…誰?」
思わず、声が漏れた。後ろを振り返って見やると、そこにはいかにも柄の悪そうな目つきの鋭い人物がこちらを見ていた。
聞き間違えでなければ、この男は今俺の事を兄貴と呼ばなかっただろうか。もちろん、俺は、この男に兄貴と呼ばれる心当たりはない。
…一旦、落ち着いて情報を整理しよう。突然の出来事が多すぎて、情報の渋滞が起こっている。
まず、俺は、異世界転生で貴族になったのではなかっただろうか。そう、それで、豪遊して過ごしていて、パーティーに招待されたのだ。そして、そのパーティーで色々な人と知り合って…。
…うっ。
思い出したと同時に、凄惨な光景が脳裏によみがえり、吐き気を催す。そうだ、人がどんどん倒れていって、最後には俺も…。
…死んだはずだ。間違いなく、死の感覚が俺を襲った。あの状況から、万に一つも生き残れる可能性など無いだろう。
となると、これは…。
異世界転生か。
すでに二度目となるからか、その考えには妙に納得がいった。つまり、俺は、あの時に死んでしまって、再び異世界転生したと言うことではないだろうか。だとしたら、あまりに短いスパンでの転生である。転生してから、三日で再び転生だなんて、そんなに転生を安売りして良いのだろうか。
混乱した脳が、一つの答えを得て次第に落ち着いていく。そして、ようやく後ろから声をかけられ続けていることに気がついた。
「…ちょっと、無視しないでくださいよ兄貴、ほんとどうしちゃったんすか?」
「ああ、悪い、それで何だった?」
「いや、さっき俺の事誰とか言ってませんでした、ラッディですよ、ラッディ。記憶喪失とかマジで勘弁したくださいよ。」
どうやらこの男はラッディと言うらしい。そして、この柄の悪い見た目と、俺の事を兄貴と呼んでいる事からして、俺はおそらくチンピラに転生したのだろう。
貴族から、チンピラとは、あまりに大きなグレードダウンである。死ぬのが早すぎたあまりに、ペナルティでも受けたのだろうか。
「もちろん、覚えてるって、ラッディなラッディ。」
そう言って、何でもい風に装う。そうすると次第に、自分がチンピラであると言うのが当然のことのように思えてきた。この感覚は、前回貴族に転生したときと同じ感覚だ。チンピラとしての振るまいを脳が勝手に理解している感覚。喧嘩の仕方から、恐喝の方法まで、知りもしないし、経験もしたことないことができる感覚。まあ、チンピラとしての能力など、どこで役に立つのか分らないが。
よし、とりあえず現状は把握できた。次は、この世界がどんな世界なのかを把握しよう。ラッディの見た目は、ただの人だし、チンピラなんてものがいるから、俺の知っている世界と大した違いは無いと思うが、最悪の場合、世紀末なんて可能性もあり得る。とりあえず、注意して進もうと決意する。
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