第8話 パーティーの終わり、貴族の終わり
「ルリノアさんは、どうして三人を探しているんですか?」
「それが、偶々まだお話ができていなかったのが、その三人とシュートさんだけだったんです。だから、見つけて挨拶だけでもできたらと思っていたんです…。」
地味に後回しにされていた事実に傷つく。しかも、三人を探していたと言うことは、本当に最後の最後の予定だったのではないだろうか。
まあ、部屋の隅っこで隠れるように食事を取っていた俺に責任があると言えばあるのだが。
「なるほど…。力になりたいんですが、残念ながら直近だと見てないですね。」
一応、マルズにも確認してみるが、俺と同様の答えが返ってきた。
それにしてもマルズは、メイドのプロらしくずっと俺の一歩後ろで、何も言わず立っていた。俺が、食事を勧めても断っていたし、俺が部屋の隅っこで隠れるようにしていても、文句の一つも言わなかった。今も、俺の質問に最低限の答えを返して、また押し黙ってしまった。
「そうですか…。すみませんお手数をおかけしてしまって。」
俺がマルズについて考えていると、落ち込んだ様子の声が聞こえた。意外と感情が態度に出やすい子である。
しかし、そんな風な様子を見せられると、何だか、力になれなくて申し訳ない気分になってくる。
探すのを手伝ってあげるべきか、俺が悩んでいると、急に前方から誰かが倒れる音が聞こえた。遅れて、食器が床に落ち、割れる音が響く。
あまりに突然の出来事に、皆絶句し、一瞬、会場は静寂に包まれた。
しかし、その静寂も長くは続かなかった。
次々に、人が倒れ始めたのだ。
ドミノ倒しのように、人がどんどん倒れていく。
…なんだこれ…。
理解不能な現実に、初めに浮かんだのは、誰かが倒れたら、自分も倒れなければならないというこの世界特有の決まり事でもあるのか、という現実逃避だった。
もちろん、そんな決まり事で倒れている訳ではないのは倒れた人の顔を見れば分る。全員白目をむいて、泡を吹いている。
壊れてしまった人形のように痙攣している人もいた。
先程まで穏やかなムードだったパーティー会場は、一瞬のうちに、地獄とかしていた。
…何なんだよ…これは…。
恐怖、困惑、戸惑い、逃走、疑問、焦燥、怒り。様々な感情の奔流が容赦なく俺を襲う。
思考が停止寸前まで追い込まれる。
「ご主人様お逃げください!」
その時、自分からは一度も声を発さなかったマルズが、叫んだ。その声で、停止しかけていた思考が戻ってくる。
「できるだけ、早く…。」
マルズは、最後まで言葉を言い切ることなく倒れた。
「…マルズ…。」
情けない声が口から漏れる。当然、俺の呼びかけに対して、マルズは答えない。
周りを見ると、立っているのは、俺とルリノアさんだけだった。
まるで、それは滅亡してしまった世界で二人だけが生き残ってしまったかのように感じられた。
ルリノアさんと目が合う。
ルリノアさんは、何かを言おうと口を開きかけて…
…そのまま、倒れてしまった。
俺は、倒れていくルリノアさんを支えようと、手を伸ばした。瞬間、俺の世界が反転する。
急に世界が上下逆さまになったかと思うと、次には衝撃と痛みが俺を襲った。
…なるほど、俺も例に漏れず、皆と同様に倒れてしまったのだ。急速に体の力が抜けていき、衰弱していくのが分る。
ああ、俺死ぬんだな。
どうしてか、それははっきりと理解できた。
あまりにも早すぎる死。俺が階段から落ちて、死んでしまってから、まだ三日しか経っていない。
俺はこの世界に来て、結局食べることくらいしかやってなかった。まさか死の間際になって、思い出すのは食事の事ばかりとは。それではあまりに哀しすぎる。
だから、自然と、隣で倒れているルリノアさんに手を伸ばしていた。
せめて、食事の事以外で何かをした証が欲しくて、助けられるはずもないのに、ルリノアさんを助けようとしていた。
伸ばした手がルリノアさんに辿り着く前に意識が途切れる。
途切れる最後の瞬間、俺の手にルリノアさんの手が触れた気がした。
それだけで、俺の心は救われたように感じられた。
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