第4話 お付きのメイドの名前

 次の日は予定通りに、メイドさんに服装を着付けてもらった。見た目は黒のタキシードのようだった。どうやら、異世界でも正装は元の世界とあまり変わらないらしい。


 着付けが終わると、パティーの会場に向かうことになる。昨日と一昨日のように、メイドさんの同行を断るわけにもいかず、メイドさんを連れて、向かうことになる。


 馬車に乗ると、狭い空間で、メイドさんと二人きりになる。初日に俺の近くに居た獣人のメイドさんだ。


 何となく気まずいので、喋りかけた。


「貴族のパーティーなんて緊張しちゃうな。君はどう?」


「私ですか?あまり緊張はしません。慣れてますので。ご主人様も貴族なら何度も参加したことがあるでしょう?」


 まずい、墓穴を掘った。あまり、望ましくない方に会話が転がる。俺には貴族の記憶なんて無いから、そっち方向話には合わせられない。

 

 強引に会話の軌道修正を図る。


「そ、そういえば、君の名前ってなんて言うんだっけ?」


「私の名前…ですか?マルズですが…。」


 随分と不審そうな顔をされた。当然のことだ。まさか、自分のおつきのメイドの名前を覚えていない主人なんて想像もつかないだろう。


 軌道修正をしたはずなのに、また墓穴を掘った。


 …まずい、俺はこの世界の事を知らなさすぎる。このまま、会話を続けていたら、墓穴だらけになってしまうだろう。


 結局、俺は口を閉じるしかなかった。マルズの方もメイドらしく、聞かれてもいないこと自らしゃべり出したりはしない。


 狭い馬車の中は、会話を始める前よりも重い空気で満たされていた。



 ようやく、パーティーの会場に着いた。馬車から降りて、外の新鮮な空気を吸い込む。それにしても、息苦しく長い時間だった。マルズの方も、同じように感じていないのかと思い、ちらりろ彼女の方を見ると、彼女は平然な顔をして、俺の後ろを歩いていた。流石は、プロのメイドだと感心してしまった。


 パーティー会場の屋敷は、俺が住んでいる屋敷よりも大きかった。どうやらこのパーティーの主催者は、かなりの有力者らしい。となると、今夜のパーティーは小規模な身内同士で行うようなものではなく、様々な人が参加する大規模なものだろう。


 良かったと、安心する。もし、小規模なパーティーであったら、確実にぼろが出て、疑われかねなかった。俺の能力なのか何なのかは分らないが、俺も含めて全ての人間が俺がこの立ち位置にいることを当然のことのように感じている。


 だからといって、確実に疑われないという話でもない。マルズのように、よく分らない事を聞かれたりすれば怪訝そうな顔をする。どの程度までは、許容されて、どこからが俺の存在を疑われるのかが分らない以上注意することに越したことはない。


 最悪の舞台ではないが、気は抜けない。一時は安心で緩んだ心を引き締め直す。とりあえず、今日の目標は、当たり障りなく、美味しい食事を頂くことだ。

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