第2話 貴族で送る異世界生活

「あの、俺の過去のこととか聞いても良いかな?」


「急にどうされたんですか?先程から様子がおかしいですよ、ご主人様。」


「い、いやー、ほら自分の過去の功績を思い出して、前向きな気持ちになりたい気分というか…。」


「…分りました、ご主人様の命令であれば。」


 少女は渋々といった様子で頷いてくれた。確かに、これでは俺は、使用人に急に自分の功績を言わせる嫌な奴である。しかし、この際それは置いておく。今は何より状況確認が優先事項だ。


 そう自分の中で言い訳をして、ようやく、少女が押し黙ってしまったことに気づいた。


 …そんなに嫌だったかな。それとも、やっぱり俺に功績なんてものはないのか、と思っていると、少女がようやく口を開いた。


「…すみません、ご主人様の過去を思い出せません。」


「…え?」


 俺はこの異世界に来てから驚きっぱなしである。しかし、功績がないどころか、過去がないときたか。


 一応、もう一人の少女の方にも確認してみるが、返ってきた答えは同じものだった。


「…つまり、二人は俺の過去のことを何一つ知らないんだよな?だったら、何で俺に仕えているんだ?」


 もっともな疑問である。俺の事を何一つ知らないのだったら、今彼女たちがこうしている事実そのものがおかしいではないか。


「それは…。」


 獣人の少女が答えようとするが、言葉に詰まる。けれども、詰まったのはほんの一瞬で、すぐに言葉を紡いだ。


「…確かに、ご主人様の過去のことは覚えてないのですが、こうしていることに疑問はありません。私にとってこれは普通のことなのですから。」


 獣人の少女は同意を求めるように、もう一人の少女の方に顔を向ける。


 もう一人の少女も、当然であるように、頷いた。


 …何だか歪に感じる。俺がこの世界にやってきたことの帳尻を無理矢理合わそうとしている感じだ。しかし、歪なものだと感じながらも、どこか納得している自分もいた。それは単純に、俺はこの少女たちの主人として、何をするべきかを、当たり前のように理解しているからだ。自分の仕事も、この少女たちに頼む仕事も、給料をどのくらい払うのかさえ、頭の中で理解している。


 不思議なことだが、そもそも異世界転生自体が不思議なことなので、それもそういうものと受け止めて納得することにする。もしかしたら、これが俺の能力なのかもしれない。現実を改変して、自分の望みを叶える。俺は、無意識のうちにこういう豪華な屋敷に住んで、彼女たちのようなメイドが欲しいと思っていたのだろうか。


 しかし、もしそうなら、結構なチート能力だ。


 それならばと思い、俺は頭の中で、豪華なステーキがこの部屋に運ばれてくることを想像した。


 しかし、待てど暮らせどステーキはやってこない。メイドさんたちに、「ステーキは?」と尋ねてみたが、困惑に満ちた表情を返されただけだった。


 …どうやら、そんな単純な能力でも無いらしい。まあ、分らない事を悩んでいても仕方が無いかと気持ちを切り替える。生活していくにつれて、能力の詳細も分るようになるだろう。


 とにかく、今の状況が俺にとって都合の良いものなのは確かだ。お金も、なぜかたらふく持っている。だったら、やるべき事は一つだろう。


 俺は自分の心の中で、高揚感と共に宣言する。


 それじゃあ始めようか、転生したら貴族の俺が送る豪華絢爛の異世界生活を!

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