リーンカーネーション

ゆあ

一章 死神

第1話

 ——父ちゃんが死んだ。

  

  

  

 齢十一歳になる少年の目の前で父親はトラックに轢かれて高々と飛び、大きな音を立てて地面に落ちた。

 堅いが良く中肉中背のついた父親は息子からしたらとても大きくて怖い存在であったが、めいいっぱいに愛されていたのは感じていたし、息子も父親を愛していた。

 体罰ありきの生活だったがそれなりに楽しい日々だった。

 少年、サムは父親と二人で過ごした日々を思いだしながら血まみれになった父親に抱きついて声を上げて泣いた。

 よく父親に言われていたのは「奪われる前に奪え」という言葉だった。

 そんなあんたが命を奪われちゃダメじゃないか。

「オイ」

 どんどんと冷たくなってくる父親に絶望しているとサムはあるモノに声をかけられた。その瞬間、周りの喧騒など聞こえない真っ白な空間に突然飛ばされたような感覚がした。

 そして、ゆっくりと父親から顔を上げると、目の前で浮遊する化け物がサムの目に映った。

 紫色のデロデロとした体をして棘をあちこちに生やし、口から黒い涎を垂らした小さなソレは口の端を上げて笑った。

「ヤリナオシタイか?」

 ヤリナオシタイ?

 やり直したいかだって?

「父親がシナネエようにヤリナオシタイか?」

 サムはそのデロデロとした化け物の言葉に頷いた。

「父ちゃんが生き返るならやり直したい」

「ソウカ。ならその代償をモラウぜ」

 え、代償?

 それは何なのか聞こうとする暇なく、化け物は二メートルにもなるノースポールという花へと姿を変え、大きな口を開けて父親とサムを一緒にガブっと飲み込んだのだった——。

 

 

 

「うわああああっ!」

 はあはあと息を荒くしながらサムは自室のベッドの上で目を覚ました。

 夢だったのか?

 サムはバクバクと激しく波打つ心臓がある左胸に手を当ててゆっくりと深呼吸をしてからチクチクと静かな自室で針を進める時計に目をやり、今は深夜の三時であることに気が付いた。

 水でも飲もう。

 カラカラに喉は乾き、嫌な夢を見た自身をリセットさせる為に自室から出ようとベッドから足を投げ出した時、サムはある違和感に気が付いた。

 足が短くなってる……?

 いつもはベッドから足を出せばすぐに床に着くのに足は宙を浮いたままだった。

 まさか……!

 サムはドタドタと慌ただしく部屋から出て洗面台までに行き、自身の姿を鏡で確認した。

 小さくなってる⁉︎

 正しくは若返っており、十一歳だった自分は六、七歳ぐらいの子供に戻っていた。

 父ちゃんは⁉︎

 サムは急いで父親の部屋へと向い、ドアを勢いよく開けた。

 父親には口硬く部屋に入るなと言われており、一度サムが勝手に部屋に入った時はボコボコに殴られながら怒られたことがあった。それから近付くことなかったその部屋にはなんと先程トラックに轢かれて死んだはずの父親がいびきをかきながら寝ていた。

 ああ、父ちゃんが生きてる……!

 サムはそんな父親の姿を目に映し、安堵したのか部屋の前で声を上げて泣き始めた。

「……んあ? どうしたんだ、サム?」

 父親は息子が泣く声に目を覚まし、勝手に自室の部屋を開けた事を怒る事を忘れて心配そうに声をかけた。

「と、とうちゃ、生きてる……! 死んで、なかった……!」

 目を擦り、しゃくり上げながら泣く姿をある人物と重ねた父親はフッと笑ってからベッドの端に座って両手を大きく広げた。

「来い。怖い夢でも見たのか?」

 サムは最近では父親との触れ合いをわざと避けていたのを忘れ、勢いよく父親の胸の中に抱き着いた。

「おお、力強くなったな」

 ハハッと笑いながら力強く抱きついてくるサムをそっと抱きしめ、その小さな背中をゆっくりと撫でながら父親は「大丈夫だ。俺がお前を置いて死ぬわけねえだろ?」と、サムが泣き止むまで声をかけ続けた。

 そして泣き止んで鼻を啜る息子を自身のベッドに招き入れた父親はその後すぐに寝た。

 そしてサムも今は禁煙したはずの父親から再びタバコの香りがする中、再び眠りにつくのだった——。

 

 

 

「おいサム、朝飯できたぞ。遅刻する前に起きてこい」

 チュンチュンと鳥が囀る中、父親がカーテンを開けて入ってきた朝日によってサムは目を覚ました。

 あれ、今日の朝飯は俺の当番じゃなかったっけ?

 サムはボーっとする思考の中でそう考えて周りを見渡すと、ここが自身の自室でない事に気が付き、父親の部屋にあるカレンダーに目をやった。

 その日付と年数に驚きながらベッドから這い出ようとするが、自身の思っている長さがない足にもつれながらそのままベッドから転げ落ちてしまった。

「おいおい、まだそんな時間じゃねえよ。落ち着けって」

 遅刻するのではないかと慌てたのかと勘違いして駆け寄る父親に縋るようにサムは恐る恐る質問した。

「きょ、今日って何年?」

「はあ、何言ってんだ?」

「と、父ちゃん、お願いだ。教えてくれ……」

 真剣な眼差しでそう尋ねてくる息子に疑問に思いながら父親は今年の西暦を教えてあげた。

 ——四年もタイムスリップしてる……。

 サムは父親の作る美味しくも不味くもない朝食を食べながら小さくなった自身の体に違和感を感じていた。

 テレビから映る朝のニュースから四年前、いやタイムスリップした今に流行っている音楽を聞きながらチラッと父親を見た。

 サムが十一歳の時より少しスリムであり、銀髪の髪を後ろに流した父親はコーヒー片手にタバコを吸いながらニュースを眺めていた。

「父ちゃん、禁煙してなかったっけ?」

 七歳のサムからしたら一年後、十一歳のサムからしたら三年前の時。

 サムは母親の面影を探して父親が不在の時に部屋に勝手に入って何かないか探したことがあった。

 物心ついた時からサムはザルベーグ国の治安の悪い街、チーコ町に住んでいた。

 チーコ町は一度はワープ国との戦争でスラム街にまで落ちたが、少しずつ町として復興してきた場所であった。

 そんな町にボロい家に住むサムには母親がいなかった。

 母親が恋しい年齢であるサムが何を聞いても、「あいつは浮気をして出て行った。そんなやつのことなど知ろうとするな」と、一点張りで何も教えてくれない父親を無視して何か手がかりがないか探していたのだ。

 箪笥の奥から父親がいつも吸っている銘柄ではないタバコを見つけたその時、ちょうど父親が仕事から帰宅してその場面を発見した。

 それからサムは隠れてタバコを吸おうとしていたと勘違いされ、顔がパンパンになるまで殴られて何時間も説教されたのだった。

 それから父親は愛煙家だったがサムが二度とタバコに手を出さないようにと家にあるタバコを全て捨てて、自身も禁煙したのだった。

 愛されているのは分かる。でもあそこまで殴らなくてもいいのに。

 それから父親と気まずくなり、家でも会話が減っていた数年を思い出しながらサムは意を決して質問をした。

 そんな未来のことなど知るはずもない父親は「なんだ急に?」と、首を傾げた。

「なんだ、臭いか?」

「いや、そうじゃなくて……」

 そう言い直しながら、「いや、なんて言えばいいんだ?」と、自問自答するサムに父親は頬を指でかきながら謝罪してきた。

「すまなかったな。今度からは換気扇の下ででも吸うわ」

 灰皿にまだ長さのあるタバコを押しつけて火を消した父親はポンポンとサムの頭を撫でた。

「あ、ごめん。ありがとう……」

 こんな風に甘やかしてくれるなんていつぶりだろうか。

 父親とのスキンシップに胸を弾ませ、頬を緩ませるサムに父親は満足したのか食べ終わった食器を片付けて仕事に向かった。

「戸締まりはちゃんとできるか?」

「できるよ」

「じゃあ頼む。今日も学校頑張れよ」

「父ちゃんもお仕事頑張って」

 自身より早く出る父親を見送ったサムは洗面所に向かって自身の顔をまじまじと見ながら再確認した。

 父親譲りの小麦肌は変わらずに健全。

 しかし、十一歳の時には父親に似てきてキリッとしてきていた目は幼さ故に丸みを帯びてくりくりとしていた。

 そして父親に切り揃えられた桃色の髪はツーブロックに纏められ、右端は剃り込みが入れられていた。

 これのせいで女子と先生受け悪いんだけどな……。

 そんな事を子供ながら遠慮して言えないサムはそのまま父親の言う通りにした髪型をブラシでまとめてから自室に戻り、リュックに教科書やプールの授業で使う水着を入れて自身も学校に向かった。

 時間割の通りに入れたけど、忘れ物ないかな……?

 なんやかんやで今の状況を冷静に行動する自身に疑問に思いながら、サムは人生をやり直せているので結果オーライだからいいかと楽観的に受け入れていた。

 そんな時、あの化け物が目の前に現れた。

「ヨオ。ヤリナオシタ人生にはご満悦カ?」

「うわあっ!」

 紫色のデロデロとした体をした化け物はニヤニヤと笑いながらサムの目の前に突然に現れた。

「オオット。言っておくがオレ様のスガタは基本ダレにも見えねえから人前では喋りかけるナヨ? ヘンジン扱いされちまうゼ」

 じゃあなんでこんな登校中に話しかけてくるんだとイラッとしていたその時、「よお、おはよう!」と、友人のキースが話しかけてきた。

「お、おはよう」

 ぎこちない笑顔でそう返事してきたサムにキースは首を傾げながら学校までの道のりを一緒に歩き出した。

「なあ、今日はプールの授業だろ? 自由時間はサメの風船に乗って、ジュリアンに突撃しようぜ!」

「……突然ねえ」

 幼さ故にキースは片思いするジュリアンにキツく当たり、何度も泣かせてきていた。

 十一歳となった時にはもうキースはジュリアンに嫌われに嫌われ、修復するなんて無理だと思われる関係性になっていた。

 まあ、好きな子程いじめたくなる気持ちは今になれば理解できるけどな。

 少し精神年齢が上になったサムは「普通にジュリアンを誘ってビーチボールで遊ぼうぜ」と、キースに提案した。

「そ、そそそそんなこと言えねえよ!」

 顔を真っ赤にして否定するキースに若いねえと、おじさん臭く考えたサムの後ろでは化け物がずっと一人で喋っていた。

「オレ様はジュリアンをオソッテ、そのまま既成事実をツクッテしまえばいいと思うんダガ?」

 七歳児になんて事を言うんだこの化け物。

 出来るだけ無心になろうと努力しながらサムはなんとか無事に学校に着く事ができるのだった。

 サムが通うエレメンタリースクールは共学であり、一学年に七クラスもある大きな学校だった。

 この数年で人間と異能者は学校を分けることなく教育を受けることになり、クラス分けも綺麗に人間と異能者の比率が同じになっていた。

 しかし蓋を開ければ仲良くなるのはお互い人間同士と異能者同士であり、異能の能力によってはいじめに遭うこともしばしばあった。

 キースは武操化を持ち、サムは七歳という若さで武強化、倍力化、そして獣化の三つをグレード3まで使いこなしていた。

 そのことで人間には恐れられ、異能者には尊敬の眼差しで見られていることにサムは余り快く思っておらず、どうにか人間であうろが異能者でなかろうと仲良くできないる日は来ないのかと日々考えていた。

 こう見えてもサムは学業も優秀であり、十一歳の時は生徒会長を務めていた。

 俺は学はねえから分かんねえが、てめえが凄えのは分かるぜ。

 父親はそう言ってよくサムを褒めてくれていた。

 父親が子供の時に住んでいた町はこのチーコ町であり、丁度戦争に巻き込まれてスラム街になったここで孤児として暫く一人で過ごしていたらしい。

 その後拾われたらしいが、勉強できる場所でちゃんと育っていれば頭が良かったのではないかとサムは子供ながら父親に思うところがあった。

 そんなエレメンタリースクール、市立チーコ学校でサムは華々しい学園生活を送っていた。

 教員が黒板に書く内容をボーっと眺めながらサムは隣で浮遊しながら今だに喋りかけてくる化け物の事を考えていた。

 こいつ、俺と父ちゃんを食べたよな?

 それに代償とは何だったのだろうか。

 こんな幸せな日々に戻れたことに感謝しつつ、その代償はなんだったのか、何か知らぬ間に失っているのではないかとサムは恐怖していた。

 そんなサムの心を見透かしたかのように化け物はニヤニヤとした顔をしながら目の前に移動してきて、「父ちゃん、ウマカッタゼ?」と、笑いかけてきた。

「父ちゃんに手を出すなっ!」

 もう既に手を出されているのだから遅いのだが、サムは思わず立ち上がってそう叫ばすにはいられなかった。

「サム、どうした?」

 急に叫ぶサムに驚いた教員からそう問われ、顔真っ赤にしたサムは「な、なんでもありません……」と、大人しくそのまま席についた。

「なんだー、サム。お前、ファザコンだったのか?」

「パパー、パパー。ぼく、さみちいよってな!」

「お前、もしかしてまだ父ちゃんと一緒に寝てたりすんのか?」

 周りからそうからかわれ、更に顔を真っ赤にしたサムに満足したのか化け物は「ガハガハッ」と、下品な笑い声を上げたのだった。

 

 

 

 放課後の教室。

 サムは今だに隣で浮遊する化け物に辟易しながら帰り支度してたところにキースと同じく友人であるローガンが寄ってきた。

「サム! これから遊ぼうぜ。お前ん家でいい?」

 ローガンのその言葉にサムは「俺ん家はちょっと……」と、渋った。

「なんで?」

 渋るサムに質問するローガンにサムは顔を暗くした。

「ほら、俺ん家貧乏だろ? ゲーム機とかないし……」

 父親が何の仕事をしているか分からないが裕福ではなく、サムの家は生活ギリギリの状態だった。

 お世辞にも綺麗とは言えない一戸建てに男二人で整理整頓も碌にされていないし、来客用のジュースにお菓子もなければ娯楽用のゲームなんてない。あるのはオセロやトランプなどのボードゲームに年齢と性別に合わない可愛らしい人形ばかり。

 そんな恥ずかしい家に招き入れたくないサムに気を利かしたのかキースは「今日は公園でサッカーでもしようぜ」と、提案した。

「おお、いいな! じゃあ他にも誘おうぜ!」

 キースの提案にホッと胸を撫で下ろしたサムの近くで浮遊する化け物は何故か複雑そうな顔を浮かべるのだった。

 門限は十八時だぞ。

 躾には厳しい父親のルールを無視することなく、きちんと門限までに帰宅したサムは自宅にある人物が来ていることに気が付いた。

「サム、おかえり。久しぶりだな」

 そこには右足に義足をつけたカーボイのおっちゃんがいた。

「……カーボイのおっちゃん、いらっしゃい」

 サムは複雑そうな顔をしながらテーブルの上にある物に目を移した。

「サム来い。お前さんにプレゼントだ」

 ほら嬉しいだろと言いたげな顔でカーボイのおっちゃんが渡してきたのは可愛いらしいユニコーンの人形だった。それを受け取ったサムは顔を引き攣らせて「わーい。ユニコーンの人形だー」と、なんとか無理矢理に笑顔を作った。

 同じく顔を引き攣らせながら「いつもありがとうな」と、お礼を言う父親にサムは心の中でお礼言わずに男児のプレゼントに人形は違うと否定してくれと、祈った。

「ガハガハッ! てめえ、メスとカンチガイされてんノカ?」

 化け物の言葉に思わず頷きたくなるのを我慢し、サムは父親の作った美味しくも不味くもない夕食をカーボイのおっちゃんとの三人で囲んで食事をした。

「サム。俺は今からこいつと仕事の話しをする。部屋に戻れ」

「え、父ちゃん。今夜も家にいないの……?」

 今までに誰かしらが家に泊まることは度々あった。

 その度に父親は一晩家におらず、代わりに誰かがサムの子守りをするのだ。

 サムが十歳のある日。

 その時もカウボーイのおっちゃんが家に泊まりに来て父親が夜にいなかった日のこと。朝方に父親が大怪我をして帰ってきた時があった。

 その時はカウボーイのおっちゃんが療治化で父親を治療してくれたので一命を取り留めたものの、その時の恐怖をサムは忘れることはなかった。それに加えてサムは一度、未来で父親を亡くしている。

 サムは小さな体で必死に父親に抱きついて「行かないで」と、震える声で懇願した。

「おーおー、お前さん。好かれてるねえ」

「うっせえ。父親なんだから当たり前だろ? サム、今日はどした? そんなに怖い夢だったのか?」

 カウボーイのおっちゃんの茶化しをスルーして父親はサムの頭を撫でた。

 昨夜からいきなり泣いたり、今日は何年かと錯乱する息子を父親は本気で心配していた。

「うん、怖い。世界一怖い夢を見たんだ。父ちゃん、行かないで」

 困ったなあ。

 父親は助けを求めるように目の前にいる男に助けを求めた。

「サム。今日はおっちゃんがいるから我儘いうな。今日は俺が添い寝してやろう」

「添い寝はちょっと……」

 父親とはまた違う加齢臭には慣れていないサムはそう断った。

 そんなサムにショックを受けるカーボイのおっちゃんに父親は声を殺して笑い、サムに大人しくその人形で遊んでろと自室に追いやった。

 男の自分が人形遊びするわけないだろと目で訴えたのを無視した父親にサムは顔を俯かせながら、怒られる前に自室に戻ることにした。

「父ちゃんが死んだらどうしよう」

 それは自分の身を案じて思って言っているわけではない。

 世界で一番好きな父親が本当に死んで欲しくないと思ってサムは小さな頭をフル回転して考えた。

 しかしまだ子供ほサムが何か出来るわけなどなく、サムは窓の外を眺めながら手を組み、父親が無事に帰ってくるのを祈っていた。

「オイ、寝ないノカ? 明日もガッコウだろ?」

 ふわふわと浮遊しながら心配そうに声をかけてくる化け物にサムは「父ちゃんが帰るまで寝ない」と、返事した。

「フーン」

 そんなサムに何故か機嫌を良くする化け物をサムはジトッと睨んだ。

「ナニカ言いたいことあるならイエよ」

「……なんで?」

「テメエがジトッと見てくる時はナニカ言いたいことがあるトキだろ?」

 以前父親にも同じことを言われたな。

 果たしてそれが何歳の時かは忘れたが、自身の癖をもう見抜いた化け物にサムは質問した。

「化け物、お前は何者なんだ?」

「質問にコタエル前に。オイ、バケモノっつーのはこのオレ様のことか?」

 そりゃないぜ、と首を横に振ると化け物はある提案をした。

「オレ様は神と言ってもカゴンでもないチカラを持ってんだ。バケモノなんてナマエじゃなく素晴らしいナマエをつけて欲しいゼ」

 神?

 何を言ってんだこいつ。

 サムは鼻でそれを笑い、「神は神でも死神だな」と、皮肉を言った。

「失礼なヤツだな。テメエの父親をちゃんとイキカエラシタじゃねえか」

「正しくは生きてた時代に戻っただけ。生き返ってはない。それに昼間に言ってた父ちゃんが美味かったってのはなんだ?」

 父親とサムはこの化け物に一度は本当に食われたのだ。どういう理屈なのかと問うサムに化け物は頬を膨らまして顔をフイッと逸らした。

「フーンだ。オレ様が善意でヤッタのにシニガミだの言ってモンクいいやがって。ナマエつけてカンシャしてくれるまでオマエと話してやんねえカラナ」

「はあ?」

 まるで子供のように拗ねる化け物にサムは「女と幼稚な奴は本当に面倒くさい」と、実年齢十一歳とも思えない考えをしてからこの化け物の名前を考えた。

「デロデロ?」

 紫色のデロデロとした体を見て素直に出た感想をそのまま口に出してサムはしっくり来たのか、「デロデロはどう?」と、化け物に話しかけた。

「ネーミングセンスがないのは似なくてヨカッタのに……」

「ネーミングセンスないって……」

 そう否定され、誰に似てないのか気にすることなくサムは少し傷ついた。

 そんなサムに化け物、デロデロは「ソレデいいよ」と、その名前を了承した。

「じゃあ教えてよ」

「マテ、まだカンシャの言葉をキイテねえ」

 マジで面倒せえなっ!

 余りにも勿体ぶるデロデロに流石に怒りそうになったその時、誰かが帰ってきた音が玄関から聞こえてきた。

「父ちゃんだっ!」

 サムは倍力化の力を使って足に力を入れ、一瞬にして玄関に向かって走った。

「うお⁉︎」

 テレポートしたかのような速さで現れたサムに父親は驚いて声を上げた。

「父ちゃん、父ちゃん!」

 無事に帰ってきた父親にサムは目の端に涙を浮かべながらそのまま抱きついた。

「たくなあ……。何時だと思ってんだ。早く寝なさい」

 そう注意しながらも父親はサムを優しく抱きしめるのだった。

 その時サムは鼻を犬に獣化させ、父親からある匂いがしたことに違和感を感じた。

 血の匂いがする……。

 

 

 

 

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