第5話 荷物は半分こ
人目を避けて、神志名さんと別々に学校を出る。
校門を出て少し歩いたところで神志名さんと合流した。
「ねぇ、わざわざ一旦離れる必要はあったのかな?」
「一緒に下校するところを見られたら色々と噂が立ってしまうだろう?」
「そうだけどぉ……」
なぜだか少し不満そうにしている神志名さん。
頬を少し膨らませているところもさすがは学校のアイドルというべきか、様になっている。
「これからスーパーに行くんだよね」
「うん、スーパーに行ったらなんか食べられるものが見つかるかも」
「スーパーは食べられるものしか置いてないよぉ!」
「あっ……」
確かに、今の俺の言い方には語弊があった。
カップ麺以外で、俺でもなんとか調理できるものの意味で言ったのだが。
神志名さんは今日朝ごはんを食べてなかったみたいだし、なにか日持ちするようなものがあれば、俺がいなくても神志名さんがお腹を空かせたまま学校に来るという状況は回避出来る。
そんなことを考えていると、急に首筋に変な感触がしてびっくりした。
「いまわたしのこと忘れてるでしょ!」
どうやら、神志名さんが俺の首筋に吹きかけたらしい。
「わ、忘れてないよ。ただ……」
「ただ?」
「日持ちして朝に食べられるものがあれば、神志名さんがお腹空いたまま学校に来ることはなくなるのかなって」
「ッ―――!」
「どうしたの? 神志名さん」
「な、なんでもないよぉ!」
俺が変なことを言ったのか、神志名さんはなぜかそっぽを向いた。
人見知りな俺には、女心がまだまだ難しいと認識した出来事だった。
昨日一度来た坂のふもとに、割と大きめのスーパーがあった。
そこに入ると、今度は色々なコーナーが視界に映る。
正直、スーパーなんて普段は全然行ってない。
買い出しも料理もお母さんの専売特許だから、俺の出る幕はなかった。
久しぶりに入ってみると、食材の多さに軽く驚かされた。
「これがスーパーか、初めて来たぁ!」
「えっ? 神志名さんって今までスーパーに来たことなかったの?」
「うん! はじめてだよ!」
まあ、料理しないのならスーパーに来たことがないのもおかしくはないか。
それはそうと、コンビニと違って調理済みのものばっか置いてるわけじゃないんだね。
コンビニで弁当を買うのもいいけど、さすがに毎食それだと高すぎるし、栄養バランスもよくない。
「なににする? 真宮くん」
肉、魚、野菜のコーナーを順に見てきたけど、やはりどれも料理出来る気がしない。
「うーん……」
確かお母さんがチャーハンなら簡単に作れるって言ったっけ。
昨日神志名さんの部屋に行った時、確か炊飯器もあったような気がする。
「……チャーハンなら、いける気がする」
「やったー! チャーハン好き!」
神志名さんの反応を見てほっとした。
簡単に作れるからといって、神志名さんが喜ぶとは限らないのだ。
そうと決まれば、たまごとベーコンは決定事項だな。
あとは……。
「神志名さんの家って米ある?」
「あると思うの?」
「……なんかごめん」
念の為に聞いておいたのだが、結果は予想通りだった。
ならば米も買っておこう。
炊き方はスマホで調べればなんとかなるだろう。
晩御飯はチャーハンと決まったから、あとは早かった。
たまごとベーコン、それにネギをカゴに入れて、パンコーナーで神志名さんの朝食になるようなものを見繕って、最後に2キロの米を持ってレジに向かう。
会計が終わったあと、買ったものをレジ袋に詰める。
持ってみると、少し重いが持てなくはない。
「行こうか、神志名さん」
「待って」
「うん?」
荷物持って行こうとしたが、なぜか神志名さんは動かなかった。
「半分こしよう?」
「半分こ?」
「こうするってことぉ!」
俺の手を少しだけ開かせて、そこからレジ袋の一端を持つ神志名さん。
「は、恥ずかしいよ、神志名さん……」
もう高校生にもなって、こういうふうに荷物を半分ずつ持つのはさすがに恥ずかしかった。
「わたし家事できないからさ、せめてこれくらいはさせて? ね?」
またどきどきしてしまった。
見上げてくる神志名さんはあどけない笑顔を浮かべていた。
レジ袋の片方の端を俺が、もう片方を神志名さんが持って俺らはスーパーを出た。
「神志名さん……その、重くない?」
「大丈夫! 弓道で鍛えてるから!」
そう言う神志名さんは余ってる方の腕で小さく力こぶを作り、笑って見せた。
その笑顔は俺にはとても眩しく見えた。
昨日と同じ坂なのに、今は不思議と楽しく感じる。
「真宮くんってやはり優しいんだね」
「うん?」
「ほら、わたしに歩幅に合わせてくれてるからさ」
「あっ……」
特に意識してなかったけど、俺は無意識のうちに神志名さんの歩幅に合わせていた。
神志名さんはそこにちゃんと気づいてくれる。
そう思うと、胸がじーんとなっていく。
「着いたぁー」
アパートに着いたとたん、神志名さんは鍵を取り出してドアを開けた。
「ただいま!」
自分の家に駆け込むと、子供のようにはしゃいだ。
その姿はとても微笑ましく、見ていてなんだかほっとした。
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