50.SIG SAUER P230

「それじゃあ、まずは2人の武器を探してみるよ」


 勇馬は『ミリマート』を開き、『初心者はまずここから! ハンドガン特集!』というバナーをタップした。毎回狙って出てくるのだがもはや何も言うまいと、勇馬はフィーレとルティーナに合いそうなハンドガンをチョイスする。


(やっぱ女の子だからあまり反動が大きくないのがいいよな。威力は低くなるけど、それでも殺傷能力はあるわけだし、安全重視でいこう)


 資金に関しては今のところ十分にある。なぜなら、クレイオール家に出してもらえることになったのだ。

 砦奪還の件で、勇馬はキールから感謝と謝罪の気持ちを込められた報奨金という形で、500万リアという大金をもらったのだ。

 それだけでなく、今後軍事的またクレイオール家に関わるものについての出費は、その一切の資金を勇馬に提供するということになった。

 これはキールからすれば、軍事的に協力してくれた勇馬をこのまま繋ぎ止めておきたい狙いがあるからだ。

 もちろん勇馬もそれはわかっていたが、そうなる覚悟を決めてフィーレに協力したため、今となってはすっきりした気持ちで彼らに協力することができた。


「やっぱりここはワルサーPPKか? いや、P230やP232なんてのもありだな……」


 勇馬が悩んだ銃は、かなり小さめの半自動式セミオートマチックのハンドガンで、フィーレやルティーナでも持ちやすいサイズのものだった。


「莉奈、フィーレとルティの銃を選んでるんだけど、どんなのがいいと思う? 一応、ワルサーPPKとP230、232辺りがいいかなって考えてたんだけど……」


 ここは女性の意見も聞いといたほうがいいだろうと、勇馬は唯一この中で銃について理解している莉奈に聞いてみた。


「そうですね、確かに持ちやすいし撃ちやすい気がするんですけど……」


「けど?」


「狙って簡単に当てれますかね?」


「あぁー……」


 勇馬は、「言われてみれば確かにそうだ」と莉奈の言葉に納得した。

 実際サバゲー経験者である莉奈でさえ、勇馬の9mm拳銃を試し撃ちしたときの結果は散々なものだった。小型のハンドガンならば多少狙いやすいだろうが、それにしたってある程度上達しても咄嗟の時は上手くいかない可能性のほうが高いと思えた。


「とすると、照準器を取り付けられるもののほうがいいかもしれないなぁ。さっき挙げたやつにも付けれるかもしれないけど、俺は知らないしな……それだったらレイルが最初からついてるやつのほうがいいのかな……うーん」


「まずは『慣れる』ことが大事かもしれませんね。それだったら最初は小型のものを使用して、慣れてきたタイミングでドットサイトやレーザーサイトを取り付けれるようなものに変えたらどうですか?」


「なるほど、確かにそれもありだな。――よし、それじゃあこれにしよう!」


 勇馬はウィンドウに表示された『SIG SAUER P230』を2つ購入することにした。ついでに、『.380ACP弾』という弾薬も500発入りの箱を1つ購入したのだった。


「フィーレ、ルティ、これを持ってみてくれ」


「わっ、ユウマが持っていたものと同じような形ですね。これも大きな音で狙った相手を倒せるものなんですか?」


「うん、そうだよ。だから、くれぐれも必要でないときに人に向けたりしないでくれな。誤射したら取り返しがつかないからさ」


「もっちろんだよ! でもこれって、小さいのに見た目以上に重いんだね。ユウマみたいに上手に持てるかな?」


「それまだ弾が入ってないぞ。だからもっと重くなるからな」


「うぇ……」


 どうやら、ルティは伯爵令嬢らしく、あまり重いものを持ったことがないようだった。


「それじゃあまずはマガジンに弾を込めていこうか。2人の持つ銃は『SIG SAUER P230』、通称『P230』っていうんだけど、これに使える弾がこの『.380ACP弾』なんだ。マガジンには7発込めれるからこの箱から――」


「ねぇ、ユウマ」


「ん? どうした、ルティ?」


「『弾』とか『マガジン』って……なに?」


「あ」


 そこで勇馬は、自分が彼女達に一切『銃』について説明していないことに気づいたのだった。

 実際に使用しているところは何度も見せていたため、てっきり『銃』のことは理解されているものだと思いこんでいた。だが、これまで1度も勇馬は教えたことがないため、当然彼女達には銃がどのような構造かはもちろん、どうやって敵を倒しているかすら分かっていなかったはずだ。

 勇馬は「これは1度しっかり説明しておいたほうがいいだろう」と、ある程度仕組みがわかったほうが安全だろうとその場にいる銃を知らない4人に説明することにした。


「あ、そうだ。ちょっと待っててくれ」


 勇馬は『ミリマート』を開き、書籍が載っているページを表示した。そこには、ずらっと人気のガン雑誌や書籍があり、勇馬がよく読んでいた月刊誌もあった。


「おっ、これなんかいいかな」


 それは『ガンのすべて』という1冊の本で、これなら勇馬がうろ覚えの知識を披露するよりも詳しく書いてあるだろうと、1500リアで購入した。


「あ、これって私がサバゲー始めた時に1番最初に買った本です! 確かに銃についてはすごく詳しくかいてあるんですけど、実銃についてなんでサバゲーとはまた違ったんで後で買いなおしたんですよね」


「はは、確かに知識は得られるけど、サバゲーはトイガンだからちょっと違うしな。まぁ、まったく役に立たないわけじゃないだろうけど、サバゲー向けの雑誌買ったほうがいいのは間違いないな」


 本を開くと、フルカラーでかなり細かく初心者向けに作られていた。

 これならそのまま見せればわかるかもしれないと考えていると、


「わぁ、綺麗ですね! これって絵なんですかね?」


「いや、これは写真って言って、実際にあるものをそのままこうして紙に写すことができるんだよ」


「すごい技術ですね。でも……残念ながら文字が読めませんね」


「あー、そっか」


 勇馬は、フィーレ達が日本語が読めないことを失念していた。

 フルカラーの写真付きなのでそのまま読めればよかったが、そこは勇馬が写真を指差しながら銃の仕組みについて1から説明することにしたのだった。


「なるほど……これ、本当にすごいですね……」


「はい……そもそも『火薬』というものがとてつもない強さの源のようです」


 フィーレとティステの2人は飲み込みが早く、たった1度の勇馬の拙い説明で理解してしまった。

 それとは反対に、


「んんーーっ、全っ然意味わかんないよぉーっ!」


「大丈夫です、ルティーナ様! 私も同じくわけがわかりません!」


 ルティーナとリズベットの2人は、説明の途中から「まるで意味がわからない」といった顔をしており、最終的には理解することを放棄していたようだった。


「まぁ、さすがにそう簡単にわかるもんじゃないと思うぞ? むしろ、フィーレとティステさんが優秀なだけで、なんなら俺よりも理解力高いかもしれん」


「むぅ、リナもやっぱユウマみたいに詳しいの?」


「え? ……うーん、一応一通りは読んだけど、さすがに全部は覚えてないし、仕組みは一応わかるけど事細かに聞かれたら答えられないかも?」


「まぁ、それが普通だよな。俺だって全部を網羅してるわけじゃないし、日本あっちにいた時は、気になったらすぐに調べれば済む話だったからなぁ。これからはこの本を重宝することになりそうだよ」


「確かにそうかもしれませんね。私もまた後で復習したいんで読ませてください」


「ああ、もちろんいいよ」


 勇馬達がそんな話をしている間も、フィーレとティステは集中して本を見ながら議論していた。

 本に書かれている内容は、軍事的に超進化させることばかりなので、2人にとっては非常に有意義なものなのだろう。


(心配ないとは思うけど……一応、一言伝えておくか)


 勇馬は熱心に話し合いを続ける2人に、「あー、2人とも。大事な話なんだけどちょっといいか?」と、話を切り出した。


「なんです、ユウマ?」


「すまない、熱中しすぎてしまったようだ。どうした?」


「銃や火薬についてなんだけどさ、できれば軍のほうで開発したりするのは待って欲しいんだ」


「それはどうしてです?」


「んー、確かに俺がこうやって手を貸してエリアス王国に肩入れしてるのは事実だし、これからもそうだと思う。当然、そこには銃火器も関わってくるはずだ。だけど……なんていうかな、これらは本当に危険でこの世界の勢力図をガラッと変えてしまうほどのものなんだ」


「うむ、それは間違いないだろうな。こういってはなんだが、これがあればグラバル王国など簡単に滅ぼすことができるだろう」


「だろ? だから慎重になってほしいってこともあるし、俺はこの国を世界の覇者にするために手を貸したわけじゃないんだ。あくまで目の前で困っているフィーレやルティーナ達がいたから持てる術を使っただけだし、これを広めようとしてるわけじゃない。だから、少なくとも今はそういうのはやめて欲しいんだ」


 勇馬が銃火器を使うことによって、既にキールやバーナルドといった国の重鎮達にはその威力は知られている。だが、どうしてそれができるのかは説明していない。

 今ここにいる面子にそれを説明したのは、勇馬にとっても信頼できる相手だからに他ならないのだ。


「わかりました、ユウマがそう言うのであれば私はその方針に従います。きっと、これを使った世界で生きてきたユウマがそう言うのなら、それが正しい選択でしょうし」


「ありがとう、フィーレ。これの力は生まなくていい争いも生まれちゃうからな」


「私も承知した。リズ、お前もいいな?」


「もちろんです! というか、私は理解してませんので、聞かれても答えられません!」


「同じくっ!」


「ははっ、ありがとうみんな」


 勇馬は、自分の考えを真っすぐに受け止めてくれた彼女達に感謝し、話してよかったとほっと安堵するのだった。

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