49.やっぱりこうなる
「それではこちらが冒険者証となりますので、なくさないように気をつけてくださいね」
アリエッタから渡された、勇馬と同じ『5級』と刻印されたプレートを、フィーレとルティーナは首にかけた。
「とりあえずこれで登録は完了だな。それじゃ依頼を探して、早くここを出るぞ」
「ユウマは何をそんなに急いでるんですか?」
「そうだよー、初めてなんだからじっくりゆっくり依頼を選ばせてよねっ!」
「いやぁ、じっくりゆっくりはなぁ……」
フィーレ達は周りの目をまったく気にしてない様子でそう言うが、勇馬としては面倒なことになる前にさっさと組合を出たいところなのだ。
「――あ、これなんていいんじゃないですか?」
莉奈が掲示板に貼られた1枚の依頼書を指差し、笑顔で振り返った。どうやら、彼女も周りの目線にはまだ気づいていないようだった。
「ふむ、ウルフの討伐か。いいかもしれないな。フィーレ様、ルティーナ様、初の討伐でしたら少し素早いですがウルフならちょうどいいかもしれません。群れに襲われるという危険もありますが、ユウマ殿やリナもいますし、もちろん私達もお守りいたしますので安心して戦っていただけるかと思います」
「ティステがそう言うのなら安心ね。ルティ、私はこれでいいと思うんだけど、どうかしら?」
「うん、ボクもこれでいいよっ! こんなに心強い味方がいれば楽勝楽勝!」
「ルティーナ様、魔物は魔物ですから油断は禁物です。このリズベットも油断したせいで怪我を負って、フィーレ様にご迷惑をお掛けしたのですから」
楽勝宣言をするルティーナを戒めるネタとして使われたリズベットは、「ちょっ……私を例にしないでくださいよぅ」と、事実ではあったため小さな声で抗議していた。
「よし、じゃあ決まったな。アリエッタさんのところに行って受注しよう」
「もー、ユウマはせっかちだなぁ。初めてなんだからもっとゆっくりさせてよー」
「それはまぁ……すまんが、ここを出てからゆっくりしてくれ」
ぶーぶー文句を言うルティーナを宥めつつ、勇馬達は依頼を受けて冒険者組合を後にするのだった。
◆◇◆
「――やっぱりこうなると思ったんだよなぁ……はぁ」
勇馬は、目の前にいる男達を眺めながら大きくため息をついた。
冒険者組合から出てすぐ、後ろを気にしていた勇馬は、後を付けるように何人もの男達が組合から出てくるのが見えた。この時点で1つため息をついたのだが、街の中で問題を起こすわけにもいかないのでとりあえず放っておいた。
街を出るまでの間は特に問題なかったが、外に出てウルフのいる森に向かおうとしたところ、件の男達が下卑た笑みを浮かべながら声を掛けてきたのだ。
その内容は、「冒険者になったばかりで調子に乗るな。ちょっと依頼をこなしてるからって調子に乗るな。女ばっかり仲間にして調子に乗るな」というイチャモンを勇馬につけてきたのだ。
そして話を要約すると、「女は俺達が面倒みてやるから金だけ置いてとっとと消えろ」という、まるでいつぞやの山賊のようなことをのたまったのだ。
「おい! てめぇ、何をうだうだ言ってやがる! こっちの話をちゃんと聞いてんのかッ!?」
目の前の男は、勇馬のため息を挑発ととったのか、必要以上の大声で凄んで見せた。
「いや、こんな近くでそんな大きな声を出さなくても聞こえてますけどね……それよりも、あなた達冒険者じゃないの? こんなことしてるのバレたら、組合追放どころかお縄になりますよ、マジで」
ちらりと勇馬は横にいる女性陣を見た。
そこにいるのは、領主の娘×2、軍の兵士×2、そしてJKサバゲーマーという、どう考えても彼らにとって色々な意味で分が悪い面子に思えた。
「はぁ? お前立場わかってないようだな。そんなこと話したらその女どももタダじゃおかねぇぞ!!」
今度は別の男が勇馬に突っかかってくる。
「さっきから聞いていれば、貴様らはいったいどういうつもりだ。私達はこれから依頼をこなしに行くんだ、邪魔をしないでもらいたい」
「そうですよぅ、あんまりオイタしてると、碌な目に合わないんですからねっ」
「おうおう、この女達なかなか強気だな。まぁ俺は嫌いじゃないぜ?」
「というか、この女達上玉すぎじゃねぇか!? 女冒険者でこんな見た目が整ってるのなんて滅多にいねぇのに……この野郎ホントふざけんじゃねぇぞ!!」
ティステとリズベットの忠告を取り合おうともせず、男達は好き放題言っていた。なんなら、最後は羨ましさのあまり勇馬にキツく当たる始末だ。
勇馬はフィーレとルティーナをちらりと見るも、2人とも自分達の正体を教えるつもりはない様子だった。組合でも本名を明かさなかったことから、領主の娘ということは隠し通したいのだろう。
「別にふざけてるわけじゃないんですけどねぇ……それはそうと、あなた達は何級なんです?」
「あぁ? お前が5級だってことは知ってんだぞ。ハッタリかまそうったってそうはいかねぇからな!」
「まあ、確かに俺は5級ですけど、この2人は違いますよ。もっと言うなら、こっちの女性はあなた達よりも確実に格上だと思いますよ」
「はぁ? 馬鹿にしてんじゃねぇ! 俺様はこの中でも1番上の等級の3級なんだぞ? 女なんかが――」
「2級」
「あ?」
「彼女、2級ですよ」
「……は?」
最も大柄な3級の男は、勇馬の言葉を上手く飲み込めていないようだった。
「ぶっ、はっはっはっ! お前、嘘をつくならもう少しマシな嘘を――ぶあッ!?」
ティステがそっと胸元に入れていた冒険者証を取り出すと、それを見た男達は一斉にぎょっとした顔をするのだった。
「ね、本当でしょ?」
「これ以上絡むのならば……覚悟はできているんだろうな?」
「うぐっ……」
ティステの一言に、男達は何も言い返すことはなかった。
「行こうか」と勇馬は促し、その場に男達を放置して森へと向かった。
勇馬が後ろを振り返ると、悔しそうにこちらを睨んでいる3級の男と目が合い、これで終わりそうにない予感がするのだった。
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