5.やるしかない

 助けを求めた少女はララと名乗った。猫の獣人族だ。

 彼女の話をまとめると、村が盗賊に襲われて被害にあったらしい。

 そして、ララの双子の妹――ルルと共に盗賊に連れ去られ、運良くアジトから抜け出すことのできたララは、これまた運良く見つけた勇馬達に助けを求めたのだ。


「――ということのようです。フィーレ様」


 ティステがフィーレへと事の内容を報告する。

 ララとルルはまだ9歳の双子で、どうやら盗賊達は奴隷として売るつもりだったようだ。

 それを聞いたフィーレは、悲しげな顔でララをちらりと見て、怒りを露わにした。


「許せません。奴隷自体は、クレイオール領でも正規の手順であれば重要な労働力となりますが、無理やり連れ去って奴隷にするなど……絶対に許されることではありません」


 そう述べたフィーレは、馬車の中で会話した幼い見た目とはまるで違う、別人のように見えた。

 彼女の年齢は15歳と、まだ若い。

 他の国は違うかもしれないが、少なくともエリアス王国では、15歳というと成人扱いになるらしい。

 とはいえ、勇馬のうような日本人からすると、15歳という若い年齢は子供っぽさが残る年齢という認識であった。

 勇馬は自分が同じ歳の頃と比べて、フィーレの堂々とした様子に驚いた。


「盗賊の規模はどれくらいなの?」


「夜襲だったようで正確ではありませんが、襲ってきた者だけでも10人以上はいたと言っています。アジトに残った者、村の外で見張っていた者を含めると、おそらく20人は下らないかと」


 その人数を聞いてフィーレは顔を顰める。

 親衛隊の人数が5人に対して、盗賊の人数が最低でも20人以上という。親衛隊が戦いのプロとはいえ、相手も人を殺すのを厭わない連中と考えると、あまりにも戦力差がありすぎる。


「フィーレ様。我々はクレイオール家親衛隊であり、今はフィーレ様をお守りすることを任務としています。もお守りしなければなりません。盗賊を制圧するだけの人数もおりません。ここは、援軍を仰ぐべきかと」


「わかってる……けど、このままでは逃げられてしまうかもしれないの。……私も戦うわ。これでも訓練は積んでるんだから」


「い、いけません! それだけは何卒ご容赦ください……」


 ティステの言うように、実際に勇馬とフィーレを守りつつ制圧するというのは人数的に無理がある。援軍を求めるのは至極当然のことだ。

 また、フィーレの言うように時間を置いたら戻ってこない盗賊をおかしく思い、場所を移されてしまうかもしれないというのも十分にあり得ることだ。

 だからといって、守るべき対象のフィーレが戦いに参加するなど以ての外だ。

 今のティステは、胃か頭が痛くなっているかもしれない。


 それに、彼女達は求めてこない。圧倒的な力でウルフを倒した勇馬の助力を。

 フィーレが勇馬を家に招待し、ティステはお客様と言った。

 であるならば、彼女達が勇馬に助けを求めるはずがないのだ。


 勇馬としても、職業軍人でもないただの一般人なため、これ以上戦うことは躊躇われた。それは、先ほどの盗賊の最期を見たことも理由の1つではあるが。


(といっても、避けられる状況じゃないよなぁ……)


 勇馬は心の中で嘆息した。

 このまま放っておけば、どちらにせよ夢見が悪い状況になるだろう。それを避けるには、ウルフ退治と同じことだ。

 ――やるしかない、と。


「あの、すみません」


 勇馬が手を軽く挙げながら言うと、全員の視線が一斉に集まる。


「どこまで力になれるかわかりませんが、私もお手伝いします」


 その言葉に一様は驚いた顔をする。


「でも、命の恩人であるユウマ様を領内の問題に巻き込んでしまうのは……」


「それに、先ほどは見事でしたが、賊は20人以上はいるでしょう。それだけの人数を相手にすることは可能なのですか?」


 フィーレとティステがそれぞれの思いを口に出す。

 1つ目の問題に関しては、勇馬次第なのでいいだろう。しかし、問題は2つ目だ。

 これに関しては、自身の装備を見直す必要があると勇馬は考えた。


「彼女の妹を救う最善手は、きっと私も参戦することでしょうから。この武器は遠距離から攻撃出来るので、戦いを有利に運べると思います。ですが、もちろん皆さんの力がなくては十分に力を発揮できませんし、相手によっては武器を変える必要もあると思います。なので、詳細な相手の人数や武器などを知りたいですね」


「ユウマ様……」


「……では、ララからもう少し詳しく聞いてみます」


 フィーレにとって、これ以上勇馬に迷惑を掛けたくないという思いもあったが、実際のところその力で助けてくれるのは有り難かったために、断ることはできなかった。


「私も一緒に聞きます」


 盗賊のアジトの詳細を聞くため、勇馬はティステに付いて行きララの話を聞くことにした。

 勇馬達が会話していた間、リズベットがララと一緒にいたため、今は比較的落ち着いていた。


「――ふむ、森の中に小屋まで建てて、その周囲には見張りも2人いるというわけか。見張りは弓を持っていると……。正確な人数まではわからないのだな?」


「は、はい。30人はいなかったと思いますけど……。馬も1頭いて、盗賊の頭領が乗っていました」


 盗賊の人数までは正確に割り出せなかったが、見張りの人数と武器がわかっただけでも有力な情報だ。

 ララが地面に描いた配置図を見ながら、作戦を組み立てていくことにした。


 この作戦は、勇馬の武器で倒すことをメインとすると、如何に敵を外に誘き出せるかが重要となってくる。外に出してしまえば、狙撃で倒すことも可能だろう。

 妹のルルを人質にされないように、短時間で倒すべきだ。


 勇馬は、どんな武器を使うべきか思考しながら口の中で『ミリマート』と呟き、ネット武器屋を開くのだった。

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