6.初めての購入

『ミリマート』で購入するにはどうすればいいのか?

 それはすぐにわかった。

 ページの右上に『65,051リア』と、残高クレジットが表示されていたのだ。

 これは、勇馬がこちらへ来る前に所持していた日本円の金額と一致する。

 フィーレに聞いてみると、『リア』というのはエリアス王国の通貨単位であり、この場合、1円が1リアとして変換されたようだ。

 その横には『レベル1』と表示されていた。

 条件はわからないが、レベルを上げる方法がありそうだ。


 ではこれを使って、89式小銃よりも効率的に倒せる武器を購入しようと『M24 SWS』と呼ばれる狙撃銃を購入しようとして指が止まる。

 金額が30万リアとなっていたのだ。

 安いと思うのだが、足りない。全然足りない。


 よく考えてみれば、たった6万程度でM24を買えるはずがない。

 しかし、よく見てみると、商品ページの中に『中古品はこちら』というボタンがあった。これはと思い指でタップしてみると、そこには中古のM24があった。

 だが、それらも手の届かない金額であり、最も安いもので7万リアであった。

 勇馬は思わず頭を抱えた。

 物価が違うのか、かなり安いとは思うのだが、それでも金が足りない。


 フィーレ達からすると、うんうん唸りながら指を動かし、終いには頭を抱える勇馬は大分アレな人である。

 勇馬はティステからの訝しむ視線にも気付かず、再度、手の届く範囲の武器を探し始めた。

 銃自体はかなり安く買えるものはあるが、勇馬としては狙撃に使えるものが良かった。それに消音器サプレッサーも付けたかったので、いまいちピンとくるものがなかった。


 そこで勇馬は狙撃銃を諦め、89式小銃に使えるサプレッサーと弾薬、そして30連弾倉を2本追加で購入することにした。考えてみると余程遠い距離でなければ、ホロサイトとブースターで事足りるだろうと踏んだのだ。


 ウルフを退治したときに30連の弾倉内はほぼ空に近く、残り5発しかない。初めから持っていた弾倉入れには2本の弾倉があったが、それらを合わせても65発なため、絶対に弾切れを起こさないように500発買い足した。

 運良くセールだったため、89式小銃用サプレッサーは中古で8000リアのものをカートに入れた。5.56✕45mm NATO弾は、500発7500リアの1発当たり15リアで、弾倉は2本で2000リアだ。

 勇馬は、あまりにも安すぎるとは思ったが、安くて悪いということもない。

 これで残り47000リアほどとなる。


「よし、購入っと……」


 購入ボタンを押して、カートに入れたものを購入した。

 すると、『選択してください』と、購入した商品画像と共に表示された。

 どうやら購入した商品はその場に出現させたり、『収納ボックス』に収納したり、果てには弾薬を直接弾倉に装填することもできるようだ。

 こりゃ便利だなと、とりあえずサプレッサーを『召喚』してみる。


「おっ」


「「!?」」


 選択したサプレッサーは勇馬の手の平に出現し、その様子を見ていたフィーレ達は目を見開いて驚いた。

 同様に、購入した弾倉に弾薬を装填して召喚する。


「また……」


 フィーレがぽつりと呟く。

 説明は後回しにして、まずは購入したものを整理する。

 89式小銃の弾倉は念の為外してあったため、その中へ購入した弾薬の装填ができるか試してみる。


「おぉ」


 手に持つ弾倉の重さが変わった。弾薬が装填されたみたいだ。


(あれ? これができるなら、もしかして弾倉交換リロードは必要ないんじゃ?)


 装填速度で考えれば、ウィンドウで選択して装填するよりも自分でリロードした方が速いが、弾倉に装填するという点においては確実に速い。

 こういった使い方もできるのかと思いつつ、あることを思い付く。

 購入した弾薬の余った分を『収納ボックス』というカテゴリに収納したのだが、その欄にはこれまでに購入したものと既に所持している武器などが載っていた。

 つまり、89式小銃や9mm拳銃も収納できるということではないだろうか。

 勇馬は、早速ウィンドウから89式小銃をタップして、現れた収納ボタンを押してみた。


「今度は消えた……?」


「なんと……」


 見たことのないものが現れ、今見ていたものが一瞬のうちに消えてしまう。その場にいる全員が驚きを露わにする。

 サプレッサーを装着するために、もう一度89式小銃を出現させる。


「すごいですね……これは魔法ではないのですか?」


「うーん、魔法の定義がよくわからないのであれなんですが……ちょっと特殊な力みたいなもんですかね。私もまだよく思い出せなくて……」


 勇馬は弾倉を4本ポーチにしまい、1本は本体に装着。銃口の先端には発射炎の抑制をする装置『フラッシュハイダー』と呼ばれるものがあり、それを外してサプレッサーを取り付けた。


「では、準備が整いましたので作戦を詰めましょう。まず、自分が見張りを遠距離から狙撃します。2人倒したらきっと外に出てくるでしょうから、フィーレさんの護衛を残して皆さんで仕掛けてください。自分は援護射撃します」


「わかりました。フィーレ様の護衛にはリルゥが付いてくれ。いつでも馬車を出せるようにしておくんだぞ。ロイン、カイン、リズベットは、私と共に盗賊を誘き出してから突撃するぞ。……ユウマ様、敵の数は多いのですが本当に大丈夫なのですか?」


 ティステがてきぱきと仲間に指示を出し、最も不安に思っていることを「本当に大丈夫なんだろうな?」と瞳に込めて勇馬に問い掛けた。

 彼女達からすれば至極当然のことで、勇馬の援護が相手の戦力を削げないのであれば、無駄死にともいえる特攻になってしまう。親衛隊副隊長という立場からも、他の隊員が死んでしまうことは避けなければいけなかった。


「出し惜しみせず全力を注ぐつもりです。少なくとも、皆さんが盗賊達にやられないように援護させていただきます」


 そのために弾を大量に購入したのだ。

 そして、相手を出来るだけ近付けないよう、セミオートではなくフルオートで弾丸をバラ撒くつもりだ。


「承知しました。疑うような無礼をお許しください」


「いえ、部隊を預かる方であれば当然のことですから……お気になさらず」


 ティステは頭を少し下げて謝罪し、「ご理解いただき、感謝いたします」と言った。

 そういえば、彼女の話し方が敬語になってるなと勇馬はふと思ったが、きっと勇馬のことを客人だと認定した証だろうと考えた。


「それではフィーレ様、我々は盗賊共を殲滅し、村娘を救出してまいります。しばしこちらでお待ちください」


「わかりました。くれぐれも気を付けて。のご加護がありますよう……」


 フィーレはそう言いながら、ちらりと勇馬を見た。たぶん無事を祈ってくれたのだろうと勇馬は解釈した。

 ティステ達親衛隊は胸に右手を当てた。きっと、これがこの国の敬礼なのだろう。

 親衛隊女性隊員のリルゥがフィーレの護衛として残り、勇馬達はおおよその場所をララから聞き、盗賊のアジトがある森へと向かって歩き出した。


(どうかお救いください、使徒様……)


 そんな彼らの姿が見えなくなるまで、フィーレは手を合わせて祈るのだった。

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