3.アルテナ
『ミリマート』――それは勇馬がサバゲーのものをよく購入していたミリタリーショップで、その豊富な品は日本一といってもいい。
ガンや服などサバゲーで必要なものだけでなく、携行食や飲み物、本など未だに増える品数が特徴的だ。
――それが何故か今勇馬の目の前に現れている。
そこには、いつもと変わらない慣れ親しんだトップページが表示されていた。
「もう、何がなんだか……」
もはや、勇馬には不可解な事が起こり過ぎて意味不明である。
『ショップが開放されました!』というメッセージは、この『ミリマート』のことだろう。
なぜ今出現したのかは全くもって理解はできないが。
「す、すまない。いいだろうか?」
勇馬が頭を悩ませていると、いつの間にか銀髪の女騎士は目の前におり、恐る恐るといった顔付きで話し掛けてきた。
「あ、はい。大丈夫です」
勇馬は慌てて手で掻き消すように振ると、ショップ画面は音もなくすっと消えた。
「失礼。私はクレイオール家の親衛隊副隊長のティステ・フルーレだ。ご助力感謝する。あの数のウルフを相手にするのは、さすがに死を覚悟したよ」
そう言ってティステは右手を差し出した。
少し切れ長で吸い込まれそうな深い青色の瞳が印象的で、その長い銀髪と顔立ちは明らかに日本人とは違う。
「なんとか倒せて良かったです。私は坂本勇馬といいます。ところで――」
「――リズ!!」
勇馬が握手を交わしていると、馬車から先程の少女――フィーレが飛び出してきた。
肩よりも長く伸びた金髪を振り乱しながら走り、翡翠色の瞳は不安げに揺れている。
「すぐに治すからね……!」
フィーレは赤毛の少女――リズベットに駆け寄り、怪我をしている腕へ向かって両手をかざした。すると、両手の周りにいくつもの小さな光の玉が浮かび上がり、輝きを増していく。
「すごい……」
勇馬はその幻想的とも言える光景に目を奪われ、自然と口から感嘆の声が零れ落ちた。
光を纏った腕は、じっくりとだが確実に回復していっていた。
「ユウマ殿は回復魔法を見るのは初めてか?」
「え? ええ。あれって魔法……なんですか? あの、ここって一体どこなんでしょうか? 日本……ではないですよね?」
望み薄なのはわかりきっているが、それでもと勇馬はティステに問い掛ける。
「ふむ……こちらも色々伺いたいことがあるが、先に答えよう。あれは魔法で間違いない。フィーレ様が得意とする治癒魔法だ。次に、ここはエリアス王国のクレイオール領になる。ユウマ殿の言うニホンとやらではないな」
ティステが勇馬の質問に丁寧に答えてくれる。それは間違いなく日本ではないというものだった。
「それではここは……この星は、地球ですか?」
動悸が激しくなる。
この答えによって今の状況がはっきりするからだ。
「……この世界のことか? ――『アルテナ』だ」
ティステは怪訝な顔をしながら答えた。
(異世界確定、だ)
心の準備はしていたつもりだが、それでも精神的ダメージは相当なものだった。
「ではこちらも1つ伺おう。――ユウマ殿は、何者だ?」
そう言ったティステの感情は、無表情で読み取れない。
なんて答えるべきか。当然、正直に言ったところで納得してくれるわけがないし、そもそも理解できないだろう。
かといって、嘘をべらべら言うのもボロが出そうだ。
勇馬が頭の中で必死に答えを作っていると、リズベットの治療を終えたフィーレが近付いてきた。
「フィーレ様っ」
「大丈夫よ、ティステ」
フィーレは勇馬の前まで来ると、振り返ったティステを手で制止するようにして言う。
「私はクレイオール領主の娘、フィーレ・クレイオールと申します。この度は危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
フィーレは、少し目尻が垂れ下がった翡翠の大きな瞳で勇馬をしっかり見据え、桃色の唇の広角を少し上げて礼を述べ、頭を下げた。
簡素だが上等な布を使われているだろうドレスを見るに、領主の娘といった高貴な身分なのも頷ける。
「いえ、たまたま迷っていたところに出くわしただけなので、お気になさらず。私は坂本勇馬と申します。魔法すごいですね。あんな怪我を治してしまうなんて」
「……ユウマ様も、先ほど魔法を使われていたのではないのですか?」
勇馬は気付かなかったが、フィーレが勇馬の名前を様付けしたところで、ティステがぴくりと反応した。
「ええと、あれは魔法ではなくてですね、これが1つの武器なんです」
そう言って、勇馬は89式小銃を少し持ち上げて2人に見せる。
フィーレはウルフを倒した攻撃を、どうやら魔法と勘違いしているらしい。
「私は旅をしていたと思うのですが、どうやら迷ってしまったようで……。実はどうしてここにいるのか、先ほど森の中で目を覚ましたのですが、記憶が抜け落ちてしまっているのです……」
勇馬は本当に困ったような表情を作り出す。
下手に嘘をついてもバレるだろうし、本当の事を言っても信じてもらえないのならば、記憶喪失とでもしといた方が楽だ。
「あれが武器……そうでしたか。では、よろしければクレイオール家へいらしてください。ええ、それがいいわ。絶対」
「フィ、フィーレ様!?」
「だってそうでしょう? ここにいる全員の命を救ってくださったのよ? 是非お礼をさせてください」
フィーレは「それに
「お誘いはとても嬉しいのですが……私自身今の状況が把握できていないですし、帰り道を探さなければ――」
「まあっ! では、尚更お任せください。クレイオール家でしたらこの森のことは熟知しておりますし、ユウマ様のお力になれると思います。まずは是非とも我がクレイオール家でお礼をさせてください!」
勇馬は元の世界への道を探そうと固辞したが、どうにもフィーレは礼をしたいらしく、譲ってくれそうにはない。
「……わかりました。そこまで仰るなら、是非お邪魔させてください」
これ以上、首を横へ振るのも憚られるため、勇馬は縦へと振った。
勇馬とフィーレ、そして1人の侍女が馬車に乗り、一路はクレイオール家へと向かったのだった。
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