2.初戦闘

 勇馬が目覚めた場所は偶々開けていた場所のようで、森の中は陽の光が遮られるほど鬱蒼としていた。

 サバゲーの続きをするかのように注意深く走っていると、前方に人が見えてきた。

 勇馬は反射的に茂みに身を隠し様子を窺う。


「女性……の騎士? 対峙してるのは……犬? いや狼か?」


 勇馬の知っている狼よりもずっと大きく、虎ぐらい大きく見える。それが全部で10匹前後おり、数匹倒れている。

 剣と円盾を構える男女が2人ずつおり、1人の女性は腕を押さえて膝を付いているのが見える。その腕からは血が滴っており、恐らくあの巨大な狼に噛まれたのだろう。


「フィーレ様、危険です! 馬車の中へ!」


 先頭で剣を構える銀髪の女騎士は、馬車から顔を覗かせた幼さが残る長い金髪の少女に、凛とした声で注意を促した。


「でも、リズの怪我を治さないと!」


 少女は女騎士に反論するように声を上げる。


「今はそこから出るのは危険です。リズベット、大丈夫だな?」


「はいっ! フィーレ様、私でしたら大丈夫ですから。どうか馬車の中へ!」


 リズベットと呼ばれた赤毛の少女は、フィーレと呼ばれた金髪の少女に痛みを隠すような笑顔で返事する。


「ティステ……リズ……」


 その時、先頭にいた狼が一声上げて女騎士に襲い掛かった。


「――ハアッ!」


 一刀両断。

 女騎士の振り下ろした剣は狼の頭を綺麗に割り、その大きな体はゆっくりと倒れた。

 この一撃で狼達が逃げてくれればよかったが、警戒は強めたものの逃げ出すことはなかった。

 このままでは、いずれ一斉に襲い掛かれて彼女達はあの牙と爪に引き裂かれ、凄惨な結末を迎えてしまう。

 それを回避するには彼女達に加勢して戦うしかないかと、勇馬は思案する。


「でも、が本物じゃなかったら……」


 ちらりと腕に抱えた89式小銃を見やり呟く。

 元々、ただサバゲーをしていただけでこんな状況になっていることがおかしい。それは勇馬も理解しており、薄々よく創作物にある類のものではないかと考えていた。

 もしそうであれば、これらが本物に可能性は高いかもしれない。


「――マズい、囲み始めたぞ……!」


 勇馬が悩んでいる間に狼達は少しずつ移動し、前からだけでなく左右からも襲える位置取りをした。


「くそっ……悩んでる暇はないな。まずは、コイツで確かめてみよう」


 勇馬は89式小銃のコッキングレバーを引いて装填、切替レバーセレクターを『ア(安全)』から『3(三点射)』にした。

 同好会でハワイに行った時にハンドガンは撃ったが、アサルトライフルは撃ってないので、どれ程反動があるかわからない。

 抑えられないほどではないだろうと勇馬は思ったが、念の為フルオートはやめ、単発では不安があったので3点バーストを選択した。

 そして、実際に撃てることを確認した後に狼を一掃するため、ポーチからM26手榴弾を取り出し、投擲する準備をしておく。

 10匹前後いる狼を効率良く仕留めるには、ぶっつけ本番の射撃よりも爆弾の方が少しでも多く倒せると踏んだからだ。

 その後は残った狼をフルオートに切り替えて倒すという作戦だ。


「ふぅ……」


 勇馬はゆっくりと息を吐いた。

 ホロサイト越しに見える光点レティクルを狼の頭部に照準を合わせ――トリガーを引いた。


 タタタッ――!


 大きな破裂音を伴って発射された5.56mmの弾丸は、狼の側頭部を正確に貫通した。狼は声を上げることなく、糸が切れた操り人形のように静かに倒れた。


(うっ……発砲音のことを忘れてた……でも、いける)


 89式小銃の威力も問題なく、銃床から伝わる反動も想定した以上ではなかった。ただし発砲音のことを忘れていたため、思わず顔を顰めてしまったが……。

 しかし呆けている暇はない。

 勇馬は素早くセレクターを『タ(単発)』にし、タンッ! タンッ! と更に2匹の狼の頭を正確に撃ち抜いた。

 距離は20m程だが、この程度ならばサバゲーと大して変わらなかった。

 突然の発砲音と倒れた狼という出来事に、その場にいる全員が呆気に取られていたが、我に返って勇馬のいる方向に全員が顔を向けた。

 今だ、と勇馬はM26手榴弾を手にし立ち上がる。


「援護します! 耳を塞いで地面に伏せてください! 早く!」


「――! 全員伏せろ!」


 勇馬の姿を見た騎士達は一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、すぐに銀髪の女騎士は仲間に命令した。

 勇馬は全員が伏せるのを見届け、ピンを引き抜き投擲する。

 M26手榴弾の効果範囲はおよそ15m。実際の殺傷範囲は5m程度と言われている。

 一応安全のため、彼女達から最も離れた位置にいる狼達の中へ投げ込み、耳を塞いでしゃがんだ。

 彼女達も伏せているので、これならば被害が及ぶこともないだろう。

 M26手榴弾は狼達の中へ落ち、


 ――ドォンッ!


 爆発と轟音、そして土煙に包まれた。

 周りにいた狼達は5匹程倒れ伏しており、悲鳴にも似た鳴き声が聞こえた。

 しかし、爆発に巻き込まれていない狼が3匹おり、勇馬へ憎悪を向ける。牙を剥き出しにして唸り、駆け出した。

 勇馬は89式小銃のセレクターを『タ』から『レ(連発)』に切り替え、向かってくる狼に照準を合わせ、トリガーを引いた。


 ――タタタタタタタッ!


 フルオートで発射された弾丸は、まず先頭の狼を射抜く。

 小さく悲鳴を上げて崩れたらその次の狼、そしてまた次と、3匹を難なく倒した。


「フゥー……これで全部倒したかな?」


 辺りを見てみると全ての狼は倒れており、残ったのは女騎士達だけだった。


「おっ……と」


 膝がガクンッと崩れそうになる。

 どうやら初めての実弾による戦闘は相当堪えていたようだ。

 無事に救えてよかったと被っていた88式鉄帽を取り、ゴーグルを外して額の汗を拭っていると――、


『ショップが開放されました!』


 目の前に突然、パソコンのウィンドウのようなものが現れた。

 そこにはシステムメッセージのようなウィンドウともう一つ――、


「何なんだよコレ……」


『ミリマート』というネットショップサイトが立ち上がっていた。


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