時代錯誤の暴挙

時代錯誤の暴挙

　あんな事件が現実に起こるなんて、思ってもみなかった。

　驚きながら私は〝犯人〟を尾行する。

　そわそわと周囲を警戒する男子生徒、その背後から気付かれないように後をつける。

　見間違っていないか、奴が右手に持つ〝それ〟を遠目にじっくり観察しながら。

　犯人のことは知ってる。

　毎日のように白上（しらかみ）から奴について聞かされてたし。

　可愛く活発な白上。私の親友。

　半年前から苦しむ白上を見て、私も奴のことを知ったつもりになってた……

　なのに！

　奴にこんな行動力があったなんて！

　阻止する？白上に連絡する？今の時代にこんなことってある？

　でも何度見ても〝それ〟は、私がビビり散らすくらいに分かりやすい。

　予想される犯行は確定的だった。

　悩みながら、息を殺して私も校舎の階段を降りる。

　日も沈みかけ人影も少ない……事（こと）を起こすにはうってつけの状況かもしれない。

＊

　信じられないことが起きた。

　奴が〝それ〟を仕込んだ場所。

　暴挙（ぼうきょ）に及んだ事件現場……それは……

「わ、両（りょう）片想（かたおも）いってやつじゃん！これ！」

　慌（あわ）てて走り去る〝犯人〟の小さくなる背中を見届（みとど）けながら、独（ひと）り言（ごと）が出てしまう。

　そうだ、白上にも教えてあげないと！

　早く下駄箱に！って。

『私はいま、事件の現場に来ています』