11 ドヤ顔エルフは歩く貞操帯

 



「なになになに? 弟さん? 勇者だったの?」


『ノランの弟さん?』


「いまは俺の話はどうでもいいだろ」


 キョロキョロと俺とアイツを交互に見る2人に手を振っておいた。

 別にここで話すようなことじゃないしな。おっさんは話したそうだが。


「隣の子は? また金の卵でも連れてきてくれたのかな?」


「コイツは、フェイ。俺の後輩だ」


「後輩、か。それはそれは……」


 っと、お偉いさんなら丁度いいか。


「こいつの喉を治すために旅をし始めたんだが、協力してくれないか?」


「喉を治す……? 傷でもあるのか?」


 ふむ。外傷はないが、話すためには顔を見せた方が早いか。


「フェイ、フードを」


『わかった』


 ぱさ、とフードを脱いで、首元まで上げていた服を鎖骨まではだけさせる。


「……!」


「!!?」


「外傷はないんだが、呪いらしい。呪いに詳しい伝手は?」


 と聞くと、おっさんは言葉を発さずにフェイをガン見。いや、見惚れてるのか。

 エルフってのは自分の貞操を守るために自分に魔法を施す。

 言い換えれば、それくらいしないとだめなくらい美しい顔をしているってこと。

 俺はある程度見慣れたが、初めてみる奴は驚く。エルフは滅多に見ないし。

 

「…………かっわ、イッ、いいいいいい……」


 なんて隣からもヒヨリコの小さな悲鳴が聞こえてきた。

 でも、一々反応されたら話が進まん。割り切ってもらおう。


「それで、話の続きなんだが──」


「失礼します」


「失礼しますって──」横を向くとヒヨリコがフェイを小脇に抱えていた。「え」


「え」


『オォ』


 ──バァン! タタタタタタタタタタタタタタッ……。

 全員から声が漏れると、そのまま扉を蹴飛ばし、廊下を全速力で走っていった。


「……人攫い?」


 あまりにもどストライクだったのか。ヒヨリコがフェイを連れ去っちまった。


「おーい! 気をつけろよー!」


 走っていた方に声を投げるとフェイの言葉がにょんと伸びてきた。

 

『👍』


 まぁ、本人が大丈夫そうだからいいか。

 足音が遠くなっていくと、俺はゆっくりと室長を振り返る。


「顔は見えたか?」


「ああ。エルフか。珍しいな」


「で、なんだアレ。俺の相棒が連れ去られたんだが」


 聞いてみると、俺よりも若い室長はくたびれた様子で手を組む。


「……彼女がパーティーが組めていない理由をお話しよう」


「問題児なんだろう?」


「それ以外にもあるのさ」


 適当に椅子を引いて座った。おお、尻が沈む。

 さすが王様が直々に作った学園だ。置いてるもんに妥協はせんか。


「勇者ってのはありとあらゆる欲望が深いのは知っているだろう」


「ああ。英雄色を好むって言葉があるくらいだからな」


「ヒヨリコもその口でな。女性に手を出すのだ」


「へー…………え?」


 気のせいか? オレが弾力で遊んでたから聞き間違えた?


「あー、恋愛対象が女性って感じか」


「厳密に言うと、男も女もいける。そのせいで、パーティーから追放されたんだ。チームの和を乱すからと言ってな」


 色々と察すが、でもなぁ。


「あれくらいの年代ならそういうのも仕方ないんじゃないか?」


「ノラン殿の弟もそうだったか?」


「アイツはな」と肩を竦める。「堅物だから」


「腕は立つが、そういう面でヒヨリコは……な」


「才能が有る奴が癖が強いのは当然だ。そんなのアンタらが良く知ってることだろ」


 才能があり、それを見出された奴らなんてのは癖が強いに決まってる。

 学園じゃあ品行方正を叩き込まれるが、そんなので直ったら世話がねぇ。

 昔は女勇者が一つの村の男を食べ尽くしたとかも聞いたことがあるし、男勇者でメスの魔獣とそういうことを致した奴もいると聞く。だから特段珍しい話じゃない。


「……まぁ、そういうことだ。すぐに追いかけた方がいい、後輩を心配するなら」


「問題ない。俺が心配してるのはどっちかっていうとヒヨリコの方だ」


「え?」


「フェイ。あいつなんていうか、歩く貞操帯でな」


 なんて説明をしたらいいのか分からないから言葉を濁した。

 フェイのことだ。上手く誤魔化すか……いや、強引にしてくる奴には問答無用で呪いを吹っ掛けるか?

 善人そうな顔をしているが、2年も過ごせばフェイの性格は何となく分かる。


「なんだかんだ性格が豪胆なんだよ」


 頬杖を突いてどこか遠いところを見つめた。


「じゃあ。もうちょっと情報収集でもしてくるわ」


 そう言ってソファから体を持ち上げると、


「いや、まだ話があるんだ……」


「?」


 そこからは室長の話を聞きながら、情報の交換会に入っていった。

 アイツの兄ってこともあり、色々と話しやすいのだろう。

 フェイの呪いのこと、ヒヨリコのことに関しての話などたくさんした。

 まぁ、俺から言えることは大変なことが多いね、ってことだ。


 そうしてその日の夜、寝泊まりしている宿にめそめそ泣いてる女勇者ヒヨリコドヤ顔エルフフェイがやってきたのはいうまでもない。

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