10 勇者の条件



 ヒヨリコについていくと、デッカイ建物に入っていった。

 周りの建物とは毛色が異なり、やたら高そうな資材で立てられた赤色横長建築。 

 この建物は王立学園。勇者の育成と支援が目的の学園だ。


 ここらで『勇者とはなにか』を見ていこうか。

 少し長くなるが、付き合ってくれ。


 『勇者』ってのは何百年、下手したら何千年か前に現れた救世主みたいな存在。

 魔王っていうバケモノと相打ちになり、この世界を救った英雄……ってのが御伽噺やら何やらで聞く話だ。

 じゃあ、今日の出征祭にいた勇者であったり、俺とフェイを歩いてるこの赤髪の少女──ヒヨリコがその『勇者』なのかというと、それはまた異なる。

 

 ヒヨリコを含めて、今の勇者と呼ばれる者たちはを有している。

 その素質を見出し、ここの王立学園に招き入れ、教育と訓練を施し、王様が『勇者』だと認定して送り出している訳だ。

 勇者の目的は魔王軍の残存勢力の撃退、人類活動圏の拡大。

 言ってしまえば、敵をバッタバッタなぎ倒し、人が往来できるくらいの治安の確保をすれば良いだけ。だから、勇者ってのは腕っぷしが基本的に強い訳だな。

 

 で、その勇者の素質とは何かって話なんだが、それが『魔力』と『闘氣』の二つを有すること、と言われている。どうも、御伽噺の勇者が『剣と魔法』で戦っていたというのが謂れとされているらしい。


 普通は『魔力』か『闘氣』のどちらか1つしか持ってない。

 ……いや、ちょっと誤解を招くか。一般の人ってのはそのどちらも持っていない。

 なもんで、魔力や闘氣のどっちかでも持ってる奴は、それすなわち『戦闘の才能がある』と見ていい。


 だから、そんな才能を二つ持ってる奴ってのはかなり稀。もはや、種族が違うんじゃないかってレベルで能力が違うし、王様や有力貴族が『勇者』と持ち上げるのも納得が行くって訳だ。

 

 これが今、俺たちが生きる時代の『勇者』という存在への認識。

 別呼称で呼ばないのは大人の事情だ。察してくれ。

 王都から離れた場所、情報の交換が頻繁に行われない場所の民から支援をしてもらうためには、慣れ親しんだ呼称ほど使い勝手が良いものはないだろうからな。


 そんな『勇者』だと呼ばれているヒヨリコなんだが──




「勇者とは認められん」


「うげー! なんでぇ! なんでっ、なんでよぉ!」


 ヒヨリコはウガー! と怒り、偉そうなおっさんの机を叩いた。


(なんなんだコレは)


 王立学園の偉そうな部屋に入り、偉そうな奴と話始めたと思うとヒヨリコが「勇者とは認められん」と言われて怒ってる。

 お前、勇者じゃなかったのかよ。勇者候補、よく言えば「末席」だな。

 で、なんで俺とフェイはここにいるんだ……と思ってると、尻を叩かれた。


「ほら! 勇者の過程、ちゃんとクリアしました! 私っ! ねっ!?」


「知らん」


『知らない』


 急に勇者の過程とか言われても知るか。そんな目で見てくれるな。

 そう思うと、ヒヨリコはグイと袖を引っ張って耳打ち。


「話っ! 合わせてくれるって話! そっちの子も!」


「あ、その話ね」


『わかった』


 おっさんに背中を向けて小声で言われてようやく理解が及んだ。


「ヒヨリコはちゃんとやったぞ」


『そーだ。ヒヨリコはやったぞ』


 そうサポートすると、彼女はデカい胸を主張して偉そうにふんぞり返った。

 こんなのでいいのか。いや、良くなさそうだ。あちらも呆れてるみたい。


「数合わせに呼ばれたのだろう。ソイツは問題児でな。元々組めんのだ」


「何やったんだよ」


「なにもやってないよ」


「……」


「なにもやってないってば」


 なにかやった顔だな。問題児か。


「悪いが、クソガキの応援なんてしねぇぞ」


「わたし、クソガキ、違うよ? ホント、ウソツカナイ。ヒヨリコ、すごいもん」


『クソガキだ。(¬_¬ )←こんな顔してるぞ』


 フェイのデフォルメされた自分の顔を見て、ヒヨリコは肩を落とした。

 そこまで分かりやすい顔をしてたらさすがにな。それにしても、クリーンヒットか。さすがフェイ。真面目な顔して性根が悪い。


「ところで、そこの君」おっさんは俺の方を見た。「見覚えがある。名前は」


「俺か? 国境警備をしていた。そこで見たんだろう」


 というと、おっさんは俺の顔を見て徐々に目が大きくなっていった。

 険しかった顔が段々と柔和な顔にもなっていった。


「いいや……いや、そうか。そうか。すまないな、彼のお兄さんか」


「? どこかで会ったか?」


「ノランさんの弟の引受人だった。顔が随分変わったから覚えてないだろうが」


「……アイツの引受人?」


 ──兄さん! もう行っちゃうの!?

 ──ああ。仕事があるからな。じゃあ、頼んだ。

 ──『ええ、仕事ですから』

 あぁ、アイツか。

 

「随分顔が変わったなぁ。偉くなったみたいで。学園の室長か?」


「時間だけはありましたし、弟さんの功績もありましたので」

 

 メガネを持ち上げ、優しく笑う。こんな顔をするやつだったか?

 それにしても良く覚えてたな。一回きりしか会ってないってのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る