08 勇者の出征式



 ──二日目。情報無し。

 幸い、路銀はあったので二人の懐事情はしばらくは気にしなくても良さそう。

 フェイの王都観光だと思えばまぁ……悪くはない。


(初めて来るって言ってたしな。色んなトコを見て回ったら良いか)


 観光名所っぽいところを案内すると、フェイは目ん玉をキラキラさせて燥いでた。フードがあって正解だ、マジで。

 ──そして、三日目。


「ン……ん、あ、……っ? なんだぁ、朝から……」


 宿外の人の声に起こされ、窓を覗き込み、くあ、と欠伸を放り出した。

 ひらひらと落ちてきた何かが鼻先に当たり、それをつまんで見る。


「紙吹雪……」そこでようやく頭がせっこらせっこらと働きだしてくれた。「って、マジか! フェイ! フェイ! 起きろ! 足で返事すんな!」


 酒を飲んで潰れていたフェイを引きずって、グイグイと目を開かせて外を見せる。

 むにゃむにゃ言いながらソレを見て、ぽけーっとしたままこちらを見上げた。


「凱旋だぞ……! 凱旋だ!」


『誰か帰ってきたのお?』


「いや、これから行く!……じゃあ凱旋じゃないか。出征、勇者の出征祭だ!」


 人々の波は手前と奥に分かれて、その街路の真中には人が通れるスペースが開かれている。そこを歩く勇者の後ろ姿が目に入ってきた。

 

「アイツが……今代首席の勇者か」


 勇者は何人かいて、それが成績が良い順に出征していく形になってる。

 おそらく今日は初日。だから、アイツが王様から最も期待をされている勇者だ。

 背丈的に男。年齢は青年とギリギリ呼べるほどの年齢。18くらいか。黒髪。

 朱色の耳飾り……。海の外の出か?

 民衆からの声に手を振り返している腕は──


「って、入れ墨が入ってんじゃねぇか! やんちゃなガキか! ハッハッハ!」


 その声が聞こえたのか、その勇者は立ち止まり振り返った。

 

「……」


「やっべ」


 愉快そうだった顔を不機嫌そうに曲げ、こちらを見上げている。

 まぁ、俺の姿はそこにはない。窓の下だ。

 

「聞こえた?」


『まさか。これだけ距離があるんだよ。聞こえる訳はない』


「だよな……ビビって尻もち着かんでよかったか」


 再び覗き見ると、デカい鎧と魔法使いらしき人物と僧侶の身なりの人に背中を押され、再び歩き始めた。

 彼らが歩き終わった道は人が道を埋め、彼らの後を追いかけていった。


「……でも、とうとう勇者が出発し始めたか」


『それってマズイの?』


「ああ。不味い。人がみるみる内に減っていくぞ」


 勇者は毎年複数人選ばれて、それが1日毎に旅に出るんだ。

 成績順に出発するから、これから3日間くらいは猶予があるだろうが……いや、3日もあるかどうかも分からん。


「最後の勇者の頃には、風の音しか聞こえないってのは聞き飽きた話だ。だから、タイムリミットはあと2日くらいだと思っていい」


『へー……もうちょっと寝ててもいいかい。まだ眠たくて』


「……」


 フェイに服を投げつけ、エントランスで店主にめぼしい場所を聞いておく。

 闇雲は辞めて聞き込み先を絞る必要があるな。傭兵組合に絞って調査しよう。

 眠たい目を擦って階段を降りてきたフェイを小脇に抱え、王都中を奔走した。

 呪いを解く方法。喉を治す薬を聞けど、誰が誰も知らない。

 教会に行けって? 既に行ったっての。

 死んだような目で「コレは治癒できぬものじゃ」って言われましたとも。


「くそ、ここも無理か。次が最後の傭兵組合の集会場だが……。ここがダメなら、明日は商人組合だな」


 城門から離れた場所にある集会場は荒くれ者が多いと噂されていた。

 その名も『ヨイミヤ亭』っていうらしい。近くに貧民街があり、治安が悪いのだと聞いた。そこで良い情報を得られるとは思ってはいないが、一応な。

 集会場に入るとジロリと注目を浴びた。噂通り、荒くれ者だらけだなぁ。

 情報を聞くには酒くらいは奢らないといけない。奢りがいがありそうな奴は……。


「誰がてめぇなんかと組むか!」


「その言い方は酷くないかい!?」


(なんだあれ)


 奥のテーブルでいがみ合ってる声。そう珍しいもんでもないが、女性と男性か? 

 長い赤髪の少女とおっさんが何か揉めているみたいだな。


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