07 王都到着
「道に迷うなんてなぁ〜……ガキン時ぶりだ」
『もー、ノランしっかりしてよね』
「元はと言えばフェイが山菜を取ろうって言い出したからだろ」
『人のせいにしないの!』
「するね! させてもらう! だってフェイのせいだから!」
伯爵領から南下していっている途中で、俺らは遭難した。
久しく旅なんてしてなかったしな。油断はしてなかったんだが。
いや、まさか遭難するなんてなあー……不思議なこともあるもんだ。
「太陽は南から北に落ちる……」
『西から東だよ』
「……東から西じゃなかったか?」
二人で指差しで確認しながら歩いていく。
一回、森に入ったのが悪手だったな。飯の調達をしようと思ったんだが。
フェイの言葉を信じるんじゃなかった。エルフだから森は家の庭さ、とかなんとかって自信満々に言ってたから信じたのにさ。庭で迷子になるなよ。
『最後の手段を使おう』
「オ」
『ちょっと飛んでくる』
「オ~」ふわっと浮かんで行くフェイを見上げながら「それ最初からしてくれ」
聞こえない声量で言ったつもりだったが『うるさい』と言葉が落ちてきた。
その言葉がふよふよと移動をしていくので、それに案内されて動くと街路に出た。
ついでに行商人が馬を走らせてたので、乗せてもらった。
『今度からどこか行くときには商人の荷馬車か、乗り合いの馬車を頼るべきだ』
「さんせー」
『乗せてくれてありがとう』──という言葉をガシッと捕まえた。
「御者の視界を塞ぐな。礼は俺から言っとくから」
不服そうなフェイだが、見たことがない奴は最初ビックリするんだよソレ。
行商人は王都まで真っ直ぐ行くらしい。周辺の街に寄らないから楽で良いな。
国境警備隊の服を見せると「警備をしてくれたら無償で乗せる」って言ってきたので快く承諾。しっかりと警備しよう。いってもここは『人類の生活圏』だから出てきてもせいぜい野盗か魔獣くらいだろうがな。
「そういえば、なんでフード被ってたんだ?」
フードの端っこをピンッと跳ねながら聞いてみると、むぅ、と唇を突き出して。
『エルフは珍しいし、あんまりこの喉を見られるの困るから。自分で言うのはなんだけど綺麗な顔らしい』
「男どもは黙ってないだろうな」
『普通の顔なんだけどなぁ……』
白銀の髪、藍色の瞳。どこが普通なんだか。
エルフってのは何回か見たが、あの姿かたちが普通なら俺ら人間なんか逆立ちで歩いてるみたいなもんだ。
それくらい品格が違うのだ。フェイに関しては兵舎暮らしで言葉遣いが色々と雑だから親しみがあるが、それでもだ。基本無表情だし。いや、無表情と呼ぶにはあまりにも透き通るような表情なのだが。
もしやソレも影響があるのか? この表情だから品があると思うのか?
「フェイは表情筋が固いな。もうちょっと表情を作れるようにしないとだぞ」
『え~? ノラン以外には顔を見せるつもりはないよ?』
「だったら尚更だ。ほら、ニィ~」
口端に指を当てて上に動かしてみると、歪な笑い顔になって思わず吹き出した。
ぽこぽこと殴られた。悪いことをした。
「王都まで暇だから表情を作る練習でもしとこうな」
『乗り気じゃないけど……』
「じゃあ、いま全力で笑ってみろ。あ、手は使わずにな」
唇を少しだけ突き出していたフェイは鋭利な歯が見えるまで口角を釣り上げ、持ち上がった口角が目を細めさせて──まぁまぁ怖い顔になった。
捕食者の笑い顔だ。怖いって。
『ど、どー? けっこう、ぷるぷるする』
「うーん。練習しような。わりと真面目に」
王都に着くまでの時間はひたすらフェイの顔のトレーニングをした。
その合間合間に行商人から呪いを治すための方法を聞いたり、魔獣を倒したり。
顔が筋肉痛になって不機嫌そうな顔のフェイが枕元に現れたときには死ぬほど驚いたが、昼間に聞いた行商人の怖い話を思い出したからトイレに着いて来いってことだった。なんだそりゃ。
そうして、フェイの笑い顔が捕食者の笑みから道化師の笑みになったくらいで王都が見えてきた。
『王都か。来るの初めてだなぁ』
「初めて? 初めてって言った?」
『うん。ずっと北側にいたからさ。ノランは?』
「うっ、にぃいいいいいいいいっ……」吐きながら二本指を立てた。
上機嫌で吐いてる訳じゃない。二回行ったという意味だ。Vサインじゃない。
直前に食いすぎた。いや、食いすぎたのは理由があるんだ。
「うわあ」
御者席から嫌そうな声が聞こえた。そちらにフェイが見に向かい、俺ものそのそと顔色が悪いまま這って移動をした。
王都の門の前には長蛇の列が出来上がっている。
これが俺がどか食いをした理由だ。それも今は地面の肥やしになったんだが。
「やっぱり並んでますねー……」
「仕方ないな、勇者が選ばれたんだし」
その勇者の姿を見に大勢が集まるのだ。かくいうこの行商人もその一人。
人が集まれば、物が売れるし、色んな事ができる。ここ少しの間は王都は人で溢れかえってる。
「我々が入れるのは夕方くらいですかね」
『ボクは蓄えたから大丈夫だよ』
「俺は散らしたばかりだから今は平気だ。あ、平気ではないわ、具合は悪い」
勇者が選ばれるのは何年ぶりだったか。10年は経ってない……か?
国境警備をしてた俺らからしてみれば勇者ほどありがたい存在はいない。なんせ、アイツラは敵をばったばったと倒して行ってくれるからな。でもなぁ。
「……勇者か、あんま得意じゃないんだよな」
『ちゃんと仕事しろやカスってこと?』
「口悪いなぁ。誰に似たんだか」
指をさしてきたからその指先を曲げておいた。俺のせいにすんな。
「勇者が、というより……なんというか」
言葉じゃ表しにくいから、手をまごまごとさせただけで終わった。
結局、俺らが入国できたのは夕方だった。行商人は時間を当てたのが嬉しかったのか、ちょっと誇らしげにしてた。
「みんなが好き勝手に小便するから……。ったく、だから王都の周りは臭いんだぞ」
『アレだけ並んでたんだから仕方ないよ』
「ちなみにアレを掃除するために雇われた奴もいる」
王都はなんでも有りだ。門に立ってる憲兵は一応は騎士階級の奴だからそういうのはしないが、雇われた奴、もしくはさせられる奴もいる。
そう思うと王都は怖いトコロだ。王様の力が一番強いからな。
「さぁて、情報収集だ。人が多いからたくさん話が聞けるぞ!」
『じゃあ、旅とかしてそうな奴らが集まるのがいいかな? 傭兵とか』
「商人とかな」
『そこから情報収集開始かな?』
「そうするかな?」
『そうしよう!』
そうやって意気込んだのが懐かしい。
結局、初日はそれらしい情報はなかったから、宿で溶けるように寝たのだ。
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