#3-5 松井 瑛莉華

松井 瑛莉華まつい えりか

28歳。AB型。

大手企業・秘書室勤務。

独身(彼氏アリ)。


 アタシは高校を卒業してから大学に通いながら一時期グラビアアイドルをやっていた。高校の頃スカウトされた事務所に入ったが、そう簡単には売れなかった。

業界の大物というオジサンと一晩過ごしたら、仕事が来るようになった。枕営業だと後から気がついた。そのオジサンはイケオジだったし、ヘンなプレイはしなかったし、紳士だったので後悔はしてない。

 しかし、この先この仕事を続けて、トップまで上り詰める為にはキモイオジサンと枕営業しなくてはならない日がくるだろうと思って、グラビアアイドルは大学時代のお小遣い稼ぎだけで辞めようと決めた。

それで真面目に勉強して就活をして就職した。

今のところ希望通りの人生を歩めている。


 先日亡くなった同級生の陽介ようすけの通夜で元彼の智也ともやと再会してまたセックスをした。10年ぶりの智也は相変わらず顔もスタイルも好みだった。

 アタシにはプロレスラーの彼氏がいる。アイドルレスラーで顔はイイし、身体もマッチョ過ぎずにセクシーでセックスもうまい。アタシのことを愛しているのはわかっているが、彼は仕事柄チヤホヤされてモテるので最近は浮気してる気がしている。それなのにケガをしてセックスはできないし、近頃なんだかうまくいっていなかった。

 そんな状況だったし、今の智也はどんなセックスをするだろうと興味が沸いたし、智也もアタシを誘おうとしていたので、一晩過ごした。


 そしてまた今日も同級生たちと一緒に葬儀に参列した。

「このノートさ、陽介の。読んでみ」

草太そうたがアタシと智也に陽介が高校時代に書いたというノートを差し出した。

「何書いてあんの?」

と、智也が聞くと

「いや、あのぉ……。なんか事実に基づいた妄想?小説?っていうの?」

と、しのぶが気まずそうに答えたのでアタシがさらに質問した。

「なんの妄想?」

「エロいっていうか、エグいっていうか、キモい」

「グロは?」

「グロくはない、いや、ある意味グロいかも」

そう聞いて智也は興味深々だったが、アタシは別にどうでもよかった。男子高校生の妄想なんてだいたい想像がつく。

「瑛莉華は気分悪くなるかも。話したいことあったら連絡して」

と、草太はアタシの事を心配していたので、多分、陽介の妄想の相手はアタシなんだと察しがついた。グラビアアイドルをやっていたアタシはそれくらい別になんとも思わない。

みんなが偽名で出てくるらしく、登場人物の誰が誰なのかの教えてもらってノートを受け取った。


 智也はそのノートを一緒に読む為にまたホテルに行こうと誘った。

「どんだけアタシのことスキなんだよ」

智也に言うと笑っていた。アタシは昔から智也の笑顔がスキだから

「今日は1回しかしないよ?」

と、念を押してホテルに入った。

2人共シャワーを浴びてバスローブを着て、缶ビールを飲みながらベッドの上に座って陽介のノートを広げた。

 1ページ目を読み終えた智也がつぶやいた。

「エロくね?このエリナってのが瑛莉華なんだろ?」

「らしいね、ウケる。アタシこんなんじゃないし」

まったくアタシとは違う18歳の女の子と彼氏との初体験が書いてあった。

でも智也は疑っている。

「瑛莉華、これ本当じゃないよな?」

「智也ホントにバカなの?アタシおっぱいに出されたらマジギレするよ?」

「そうなんだ」

「あ、智也、今、出したいのにとか思ったっしょ?」

智也は目をそらしてまたノートを読み始めた。

 何ページにも渡ってエリナことアタシが陽介らしい男に犯されて喜んでいた。その他にも、複数の男の子と楽しんだり、課題を免除してもらうために教師に迫ったりしていた。その度に大きな胸を弄ばれて卑猥ひわいな言葉を言わされているアタシが描写されている。

智也はそれを読んでいるアタシの顔色を伺っている。アタシはこんなことくらいでは動じないのに。むしろ陽介の想像力の豊富さに驚いて、アタシをこんな風にしたかったのかとわかっておもしろかった。

「陽介、瑛莉華のことよっぽど好きだったんだな。オレ無神経にラブラブな話とかしてたから、傷つけてたのかなぁ」

智也は本当に優しい。アタシの事をピュアだと言ってたけど彼こそ本当にピュアで他人を傷つけるようなことはしない男の子だった。アタシは智也のそういうところも好きだった。

「智也、わざとじゃないでしょ?きっと陽介もわかってくれてたよ。それにノートの中では智也とはしないようなヘンタイなエッチをアタシとしてるし」

「そうだな。しかしエロイなぁ、この瑛莉華」

ノートを読みながら2人で笑った。忍や草太が心配する程のモノではなかった。

 しかしページが進むにつれてアタシ達の笑い声は減っていった。そしてページをめくる音だけが部屋に響いた。

読み終えると明らかに不機嫌になった智也が低い声で聞いた。

「瑛莉華、オレとが初めてじゃないんだ?」

「うん。っていうか、初めてって智也に言った?」

「え?! いや……わかんね。ハッキリ言ってたかどうか……」

「アタシそんなウソつかないし。智也と違って」

アタシの初めての相手は智也ではない。何故智也がアタシがヴァージンだったと勘違いしているのかはわからない。

 だけど智也はウソをついていた。

初めての日、彼はアタシにハッキリと『はじめて』と、言った。しかしそれはウソだとしばらくして告白した。

『ウソついてごめん』と、泣きながら何度も謝っていたが、どうせアタシに軽い男と思われたくなくてくだらないウソをついたあげく、良心がとがめて耐えられなくなり自白したのだ。ちょっとバカでピュアな智也らしかったので攻めはしなかった。それにそんなことどうでもいい。

「あの時はさ……」

「今更いいよ。相手は初耳だけど?問題だね、これ」

「ごめん」

「まぁいいや、智也は結局、アタシに夢中だったし、アタシが1番だもんね?」

彼は素直に「うん」とうなずいて、この件を蒸し返すのは終わった。

 こんなノートなど忘れて、大人になってアタシの喜ばせ方が上手になった智也に身を委ねたいのに彼はまだノートの話を続けた。

「いや、ちょっと待てよ、瑛莉華、おまえ、オレのことめっちゃ裏切ってんじゃん」

智也はノートに書かれていることをぜんぶ鵜呑うのみにしている。

「はぁ?アタシ、智也の事ちゃんと好きだったけど?!」

「なんなんだよこれは」

「智也に『愛してる』っていっぱい言ったし、エッチだっていっぱいしたじゃん。めっちゃラブラブだったじゃん」

「そうだけど……」

部屋には気まずい空気が流れていた。くだらないこんなノートのせいで。まさか複数の同級生や教師とシてるなんて本気で信じているのだろうか。あの頃は週4日くらい自分がアタシとシてたくせに。

「真帆とは?」

智也が友人の真帆の件に触れた。

「それは答えないよ。アタシのこと知りたいんだろうけど、真帆のプライバシーでもあるからね」

「お、おぅ、そうだな……」

 陽介が真帆の性的思考について書いている。でもそれはアウティングだ。真帆本人が高校時代にカミングアウトしてないのに、他人が言っはいけない。陽介はこのノートを誰かに見せるつもりはなかったのだろうけど、せめて奥さんはこのページだけでも破るべきだった。アタシはこのノートの内容なんてどうでもいいが、唯一その点に腹がっ立った。


「なんかオレ、ショックっていうか……疲れたわ」

智也がしょんぼりした顔をして寝転がった。

「瑛莉華と智也は愛し合ってたのは事実でしょ?」

と、仰向けになってる智也の腰辺りにまたがって座った。

「まぁ、そうだな」

「またラブラブしよ?ノートの中よりエッチなコトするぅ?」

アタシが誘うと智也はとびきりの笑顔になってすぐさま身体を起こしてアタシの身体に腕をまわして聞いた。

「おっぱいに出すのは?」

「智也のがんばり次第」

「了解」

さっきまでノートに翻弄されていた智也はもうアタシのことで頭がいっぱいだ。

イイ男なのにあいかわらずな天然がかわいいし、アタシの言いなりでかわいいし、セックスもちょっと上手になったし、今でもアタシのこと大好きだし、智也はアタシの好みのままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る