#3-4 石川 智也

石川 智也いしかわ ともや

28歳。O型。

広告代理店勤務。

独身(彼女アリ)。


 陽介の通夜で再会した瑛莉華えりかは言葉にできない程キレイになっていた。喪服のワンピースからスラリと伸びる黒いストッキングと黒くて高いヒールの足に目が奪われた。オレには付き合って1年半の彼女がいる。でも瑛莉華には敵わない。彼女と別れることになっても、28歳の瑛莉華とも交わりたい。

18歳の頃、彼女のベッドの上でオレに感じていた瑛莉華と今目の前にいる大人になった瑛莉華を頭の中で合成した。オレの妄想は止まらない。

 瑛莉華は高校卒業してグラビアアイドルをやっていた。それを機にオレはフラれた。街でスカウトされた彼女は事務所に所属して、少年誌や雑誌にときどき載っていた。瑛莉華の事が忘れられないオレは適当な女の子と付き合ったりしていたが、瑛莉華のグラビアは必ず買っていた。水着姿や乱れた服のセクシーな瑛莉華を見ては昔を懐かしんでいた。

しかし瑛莉華は数年でグラビアアイドルを辞めてしまう。

彼女に何があったのかずっと気になっていた。

今夜やっと再会できた。どうにかしてオレはこの通夜会場から瑛莉華を連れ出したい。


 とりあえず飲みに誘おうと、瑛莉華を人気ひとけのない場所に連れて行った。友人達がいる場所で誘うと、みんなで行こうということになって面倒だからだ。

暗がりで瑛莉華と向き合ったオレは、勇気を出して話し始めた。

「この後さ───」

「瑛莉華とセックスしたいの?」

彼女はオレの言葉を遮って、耳を疑うようなことを言った。

「うん、したいけど」

突然のことで驚いたオレは素直に答えてしまった。

瑛莉華はオレの方に近づきながらまた質問をした。

「おっぱいじゃなくて足フェチになったの?アタシの足見てたでしょぉ」

「今もおっぱいは好きです」

またオレは正直に答えた。彼女はそのおっぱいをオレに身体を押し付けてオレの首に腕を巻き付けた。図星だったのと大胆な瑛莉華に圧倒されてオレは微動だにできなかった。

「チューで感じさせてくれたらエッチしてもいいよ」

瑛莉華はニッコリと笑顔を作って言った。

あまりの衝撃ですぐにその言葉を理解できなかった。

18歳の頃少し触れただけで顔を赤くして恥ずかしがっていた瑛莉華がまさかこんなことを言うなんて信じられない。

今オレの目の前にいる瑛莉華は、オレが18歳の時付き合っていた瑛莉華と同じ人物なのだろうか。

別人でもいい、今はこの瑛莉華と交わりたい。

 オレは丁寧に瑛莉華にキスをした。瑛莉華もオレの唇を受け入れている。少しすると瑛莉華は小さな声をもらした。オレは唇を離して「どう?」と、聞いたら「合格ぅ。」と、瑛莉華は小悪魔な笑顔で言ってオレの頬にキスをした。

自分の事を『アタシ』と言うようになった瑛莉華は変わった。


 オレ達は早速ホテルに入った。高校生の頃は安いラブホテルにしか入れなかったが、今なら多少の贅沢はできる。東京タワーが見えて夜景のキレイな上品な部屋に入って早速シャワーを浴びて、2人でベッドに腰を掛けた。

「なんだか彼氏いるっぽいこと言ってたじゃん、いいの?」

あまりにもあっさりオレと夜を過ごすことを決めたので念のために聞いた。

「いいよ、今ケガしてて2週間してないし。ケガする方が悪いんだよ」

「そうなんだ。瑛莉華はオレに彼女いても気にならないの?」

「うん。だって智也はいつだってアタシとエッチしたいでしょ?」

「うん。したい」

確かにそうだが、謎の理論だし、ケガをしている恋人には申し訳ないが、今更オレは止められない。

10年ぶりに俺達は交わった。


 行為を終えてベッドの上で並んで仰向けになって息を整えていると、瑛莉華が勢いよく身体を起こして背中を見せた。そして顔だけ俺の方に振り返って口を開いた。

「智也、イク時『結婚しよ』って言うのやめた方がいいよ。キモイから」

「え、オレ言った?」

「うん、高校生の時も言ってたし。今の年齢だとシャレになんないよ」

確かに感極まったオレはそう言いがちだ。自覚はしていたが恥ずかしいので気づいていないフリをした。でも、18歳の瑛莉華はそう言われて『智也と結婚するぅ』と涙を貯めながら声を震わせて反応していた。その瑛莉華がかわいすぎてオレは耐えられなかったのを覚えている。それに本気で瑛莉華と結婚したいと思っていた。28歳の瑛莉華には『キモイ』と言われた。

彼女は変わった。

 そして瑛莉華はそのまま何も身に付けずに立ち上がって冷蔵庫まで歩いていき、ペットボトルの水を取り出して飲んだ。スタイルの良さを誇るように堂々と歩きベッドまで戻ってきた。サイズ感は変わりないと思うが、色気を放つようになった彼女のなまめかしい身体にくぎ付けになっていた。寝転がっているオレの目の前に大きなおっぱいを晒したまま「飲む?」と聞いた。おっぱいから目を離さずにいると、「飲むの?!」と、強い口調で水のペットボトルをオレの顔の前に出した。我に返ったオレはその飲みかけの水を飲んだ。

 18歳の瑛莉華は制服の胸元のボタンをいくつか外しただけで照れていた。オレがつい見とれてしまうと『恥ずかしいから見ないで。』と、言っていた。28歳の瑛莉華は『どうぞ見てください』と言わんばかりにつややかで色っぽい裸を隠そうともしない。

やはり彼女は変わった。

 水を置いたオレはまた仰向けになって瑛莉華の方を見た。

瑛莉華は視線に気づき、オレに半身を乗せて左手でオレの右頬を触った。そして軽いキスを繰り返しながら

「実はアタシ、この顔に、チューされると、キュンキュンしちゃうんだぁ」

と、途切れ途切れに喜ぶべきなのか微妙な事を言った。

付き合い始めた頃、身体が目的じゃないかとオレの事をだいぶ疑っていた瑛莉華だが、彼女こそオレの顔面が目的だったのか。

まだオレの唇に短いキスを何度も繰り返している瑛莉華の肩を押して唇を離して言った。

「オレの顔が目的だったのかよ」

「そうだよ?」

「はぁ?」

「でも、ちゃんとスキだったよ。優しいとことか、ちょっとバカなとことか」

「なんだよそれ。」

瑛莉華は顔をくしゃっとさせてケラケラと笑いだした。

「ごめん、ごめん。天然なとこね。智也の天然かわいいから」

「なんか微妙なんだけど。」

「アタシ、本当に智也のことスキだったよ。顔込みでね」

18歳の瑛莉華はオレに『スキ』と何度も言ってくれていた。オレは言われる度に幸せを感じていた。少しふてくされたオレを瑛莉華はまだ笑っている。またオレをスキになってはくれないだろうか。またオレを幸せにしてくれないだろうか。

「怒ったフリしてぇ、もう1回シたくなってんじゃん」

瑛莉華が布団の中に手を入れてオレのを確認した。18歳の瑛莉華は絶対こんなことはしない、こんなことも言わない。

彼女はかなり変わった。

オレも10年経って変わったのだろうか。

18歳のピュアな瑛莉華も大好きだったが、今のエロくて小悪魔な瑛莉華もすごく好みだ。

28歳のオレも瑛莉華にハマりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る