#2-3 阿部 草太

阿部 草太あべ そうた

3年C組。18歳。B型。

身長178センチ。

家族構成:父・母・弟・ネコ2匹


 俺も瑛莉華えりかの事が好きな男の1人だった。

友達の智也ともや陽介ようすけも、口には出さないが瑛莉華を好きなのは気づいていた。

きっと1番最初に瑛莉華に惚れたのは俺だ。他の2人だけじゃない、学年の中で1番最初に瑛莉華に目を付けたのは俺だ。

 入学式の日に同じタイミングで校門を入った瑛莉華に一目惚れしたからだ。

俺の左側で茶色の髪の毛が風でサラサラしているのが視界の隅に入り、イイ香りがした。そちらに顔を向けていい香りのサラサラの髪の持ち主を見ると、とてもかわいい女の子がいた。彼女に吸い寄せられるように後を付いて歩き、下駄箱で靴を脱ぐしぐさに見とれていると目が合ってしまった。

彼女は厚い唇の口角を上げてニコリと微笑んでくれた。

あまりにもかわいいその笑顔に俺は心臓が止まってしまうかと思うほどドキっとした。その瞬間から俺は瑛莉華に夢中だ。


 高校2年の時、幸運な事に瑛莉華と仲良くなった。瑛莉華の友達のしのぶと同じクラスになって、偶然彼女と同じバンドが好きで話すようになったのがきっかけだ。

忍が瑛莉華と真帆まほを連れてきて、俺が智也と陽介を連れて行って、6人で遊ぶようになった。

開放的でちょっと天然な智也はわかりやすく、どこに行っても必ず瑛莉華の隣に座って話していた。

そこまでではないにしろ陽介も自分から話しかけてたし、常に彼女を目で追っていた。

2人が瑛莉華を好きなのはすぐにわかった。俺はシャイなので積極的な2人がうらやましかった。

 自分の性格のせいでもあるが、瑛莉華のせいでもある。

彼女は話すとき相手の目をしっかり見る。あの大きな瞳に見つめられると俺の心臓はみんなに聞こえてしまうのではないかと思うほど高鳴る。それだけならまだしも、身体の一部が反応しそうになる。最悪な事態を招きかねない。

だから俺は瑛莉華の隣に座る事も2人で目を見ながら話すこともできない。

瑛莉華はかわいすぎて俺は瑛莉華がキライだ。そんなふうな自分もキライだ。

瑛莉華は俺を狂わせた。


 3年になった時、瑛莉華と同じクラスになった。智也と陽介は違うクラスなので1歩リードできるかもしれないチャンスだった。

せっかく瑛莉華の斜め後ろの席になったが、シャイな俺は何も行動できない。つまらない授業の時、窓際の席の瑛莉華は頬杖をついて窓の外を眺めている。その憂いをおびた後姿が艶めかしくて、それを眺めて思いを募らせるだけだった。

 ある日の休み時間、俺が自分の席でスマホを見ていると

「草太、かわいいの付けてるぅ」

瑛莉華が俺の顔を覗き込んで言った。俺が驚いて彼女を見ると、彼女は俺に付いていたウチのネコの毛を手にしていた。

「草太んち、ニャンコいるの?」

「おぅ、2匹ね」

「まじで!?瑛莉華んちにも1人いるよ」

それでお互いの飼いネコの話になった。あいかわらず彼女はまっすぐに俺の目を見てくるが、俺は彼女の目をチラっと見て、逸らす、を繰り返しながら話した。

「草太んちの子の写真送って?瑛莉華んちのも送るし。」

瑛莉華にそう言われたので、俺は家に帰ってすぐにネコ達を膝にのせて自撮りして瑛莉華に送った。

夜になると、瑛莉華に片手で前足の下を抱かれて後ろ足をダラリとさせて伸びている彼女のネコの写真が送られてきた。

<ウチの子、長いでしょ。>

と、メッセージが付いていて笑った。

 しかし肝心な瑛莉華が写っていない。首から下しか写っていない。俺はネコと3ショットを撮ったというのに。

<ネコかわいいけど、瑛莉華、写ってないじゃん。>

と、メッセージを送ると

<瑛莉華、お風呂上がりだし。髪ヘンだし。>

<いいよ、ヘンな瑛莉華も見たいし。>

<実は瑛莉華、メガネっ子だし。>

<メガネの瑛莉華も見たい!>

俺は口では絶対言えないような事をメッセージで送った。

風呂上がりの瑛莉華の写真は送ってくれなかったが、ネコを抱きしめて押しつぶされて盛り上がった彼女の胸を夜中よるじゅう凝視ぎょうししていた。

 俺にはこれがあると気が付いた。メッセージでなら何でも言える、恥ずかしくはない。

それから俺はウチのネコだしにして積極的にメッセージを送るようになった。瑛莉華も必ず返答してくれて、普段緊張してしまう分この手段で彼女との距離を縮めた。


 しかし瑛莉華は智也が勝ち取った。

俺は彼女に思いを伝えることもなく失恋した。

でも友情は壊したくないので6人で遊びには行く。カップルになった瑛莉華と智也を見るは辛かった。

 夏のある夜、花火を見に行った。真帆と陽介は塾の合宿で参加できず、瑛莉華と智也のカップルと俺と忍の4人。

すごい人混みでうまく場所取りができず離れ離れになってしまい、俺と忍は隣り合っていて少し前に瑛莉華と智也が寄り添っていて花火を見た。

瑛莉華は智也の腕に抱き着くようにして、笑顔で彼を見上げて何か話している。その幸せそうなかわいい横顔が花火に照らされているのを、俺は花火も見ずに見ていた。

「まだ引きずってんの?」

右隣に立っている忍が言った。

「なにを?」

「瑛莉華。好きだったんでしょ?」

仲の良い忍にはお見通しだったようだ。だけど俺は花火の音で聞こえないふりをしてその質問を無視した。

忍は聞こえるように俺の右腕を掴んで自分の方に引っ張って

「ウチら付き合えばいいじゃん。失恋したもの同志」

と、俺の耳元で言った。

「はぁ?おまえ、大学生の彼氏は?」

「あぁ、それじゃない。アイツとはだいぶ前に別れたし」

冷静な口調で忍は言った。彼女は2年の時から大学生と付き合っていたがいつの間にか別れていた。淋しいのだろうか。俺は突然の申し出に戸惑ってまた花火を見ているフリを続けた。

花火の下では瑛莉華と智也がキスをしている。

俺は嫉妬と欲望の入り混じった複雑な感情を抱え、目を離せずにいると

「ウチらもしよ。」

そう言って忍が俺の手を握った。

 我に返り彼女を見ると、顔を赤くして俺を見ていた。今まで見たことのない忍の表情だった。忍と目を合わせても瑛莉華と目を合わせた時ほどの胸の高鳴りはないが、かわいいと思った。

俺と忍は、2人を見失ったことにして、花火会場から離れてラブホテルに行った。


 忍と交わっていても瑛莉華が脳裏をよぎる。最低な行為だが今の俺は忍にすがるしかなかった。瑛莉華を忘れる為に。

それから俺と忍は付き合い始めた。

彼女とは元々気が合ってイイ友達だったし、一緒にいるのは楽しかった。それに経験豊富な忍は彼女としても最高だった。

智也達とよくダブルデートをしたが、幸せそうな瑛莉華の顔を見ても忍のおかげで心が苦しくなることはなくなった。



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