第三話

 そんなことない、あの子が死んだだなんて、考えたくない。

 でも、

 「………。」

 私は愚かだったから、黙っていることしかできなかった。

 「お母さん、疲れたんなら休んでなよ。」

 「…ああ、うん。」

 なぜか、白子しらこは穏やかに、大人のような対応をとっている。いつも反抗期のようにイライラし、周りもずっと気を使っていたというのに。

 なのに、なぜか、と思ったけれど、多分、この子は外ではこういう子なのだろう。気配りができて、愛想がいい。

 しかし、家の中にいる間は決してそんなそぶりは見せなかった。

 弟が死んだことが、やっぱり、白子なりにショックとして受け取っていて、いつも自分ではなく外面の作り物が表れているのかもしれない。

 そもそも、夕貴はなぜ、死んでしまったのだろうか。

 私は昨日までに夕貴と話したことを思い浮かべる。

 朝、「おはよう。」とか、そのくらいかな。特に浮かばない。私にとって夕貴は手のかからない子供だった。その分、姉の白子には手を焼いていた。なぜなら、白子は癇癪持ちというか、やきもち焼きで、夕貴が生まれた頃すぐに、赤ちゃん返りをしていたっけ。

 それで、もう大人に近い年齢だというのに、いつも急に不機嫌になって、周りに自分の相手をさせようとしていたんだ。

 そう、でさ、夕貴はそれをちょっと困った顔をしながらも、相手にしてるんだよね。

 弱いなあ、と思ったけれど、私には覇気がないから、もう自然と何とかなるかなあと思っていたのに。

 何も、解決しなかった。

 夕貴が死んでしまった。それも、得体のしれない死に方で。

 私はただ、知りたかった。

 なぜ、あの子が死ななくてはいけなかったのか、その理由が、分からなかったから。

 「…ねえ、白子。」

 「うん?」

 口角を上げ、作り笑いを作る。普段はぶっきらぼうな顔をしているのに、なぜか急に作り物めいた顔を作るところが、 

 嫌いだった。

 「白子、あなたよね。夕貴に嫉妬したんでしょ?言いなさいよ、お母さん、聞いてあげるから。」

 私は、確信していた。

 絶対に、白子だ。

 私を、私の夕貴を、あなたが殺したんでしょ?

 ねえ、お願い。

 私に理由を教えて欲しいの。

 もう、白黒つけないで微妙な顔をして全てを済ましてしまうだなんて、したくないの。

 お願い、あなたでしょ?

 私を責めないでよ、私のせいにしないで、お願い。

 ふっと呼吸が緩くなったと思って、前を見たら呆然とした顔の白子が私を見つめていた。

 私、多分間違っている。

 いつも取り返しがつかなくなって、手に負えないのだから。

 

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ちょっと待ってよ @rabbit090

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