第二話
あの子は、いつも偉そうなんだ。
私があの子を、小さいころからずっと、あの子の記憶が確立される頃よりずっと前から、世話していただなんて、きっと信じないだろう。
でも、なのにあの子は私を、食って掛かるような目で見ている。
それが気に食わなかった、けど、それだけだった。
別に、死ぬことなんてないじゃない。
「………。」
隣に座る母は茫然とした様子であいつの写真を見ている。
私は、そんな母に代わって、色々なことを取り仕切っていた。母は、昔からそうだった。何か良くないことがあると心がストップしてしまい、それを誰かがカバーしなくてはいけない。そして愛想を尽かした父は、もう家にはいない。
キッ、と、あの子の写真を見つめる。
まだ中学生だったあの子、どうして。そう思ったけどどうしようもならないということは、多分私が一番よく分かっていた。
私はいつも冷静だった。
母なんて、いつも理想の世界ばかりを望んでいて、現実に必要なことは何一つこなそうとしない。だから、そんな人間にはなりたくなかった。
だから、だから。
はあ、もう、いいわよ。
重い空気に耐えきれなくなり、私は席を立った。
若い人間が死ぬということは、何か複雑な重みをもった出来事になってしまうのだ。
そもそも、弟は、夕貴はなぜ、死んだのだろうか。
何者かに襲われていた、という。
全身に殴られたような跡があり、それを原因にして亡くなった。
しかも、家の前で。
仕方ないじゃない、家の中にいたんだし、でもそんなことがあるのだろうか。
いくら家の中にいたって、こんなにボロボロになった弟が、何の物音もたてず玄関の前に横たわっていることなど考えにくい。
じゃあ、どこかで負った傷を引きずりながら家まで帰って来たのか、しかし、それなら血痕が、道路に落ちているはずだと警察は言っていた。
じゃあ、何なのか。
なぜ、弟は死んだのか、私には、分からなかった。
しかし、
ふところからひょっこりと、ヘビのような顔をした爬虫類が現れる。
「大人しくしてたね。」
本当に、驚いてしまう程だ。
弟が死んだその日、この子は私の部屋にいた。
なつく、というのだろうか。出て行こうとはしなかったし、最初は怖かったけれど、撫でてみると大人しく、そこに座っていた。
「まだ時間かかるの、ごめんね。」
私は、またふところにその子を入れ、母たちがいる場所へと、向かった。
「戻りました。」
私は愛想のいい笑顔を浮かべ、親戚たちに顔を見せた。
そして、ふところにいる羽が生えたトカゲのような生き物は、ただじっと黙ってそこから動かない。
なぜ、私から離れないのかは分からなかった、けれど私は、この生き物が怖かった。そもそも、爬虫類は苦手だった。けれど、どうしても離れず、ずっと掴まっているから、もしかして、弟と、弟の命がなくなったその日に現れたこの子は、もしかしたら弟の魂が乗り移ったなにか、なのかもしれないだなんて、馬鹿げた妄想が頭の中をよぎる。
私は、どうかしている。
それは、ずっと分かっていたの。
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