ちょっと待ってよ

@rabbit090

第1話

 誰かが僕に言っていた。

 「見間違いだ」って、でもそんなはずはない。

 確実に見ていた、そこにいたのはあの小さな生き物、ドラゴンがいた。

 暇だったし、とりあえず声をかけてみた。

 「僕、夕貴ゆうき。君は?」

 通じるはずもないのに、声を出していた。多分、トカゲか何かかな、と本当は思っていたので、違和感とか恐怖を感じることは無かった。

 「………。キュー…。」

 小さく、鳴いている。てか、爬虫類って鳴くのか、と思っていたけれど、どうやら鳴くらしい。

 小さいし、子どもなのかな、と思ったけれどやたら体躯がしっかりしていて、顔立ちがはっきりしている。

 じゃあ、大人かな。

 とにかく奇妙な生き物だった。

 だから、無視をして通り過ぎることもできたけれど、

 「ねえ、帰ってんの?」

 「あ、ごめん。帰ったよ。」

 「…ふん。」

 姉が、いるのを忘れていた。

 姉は、僕が玄関の前でこうやってしゃがんでいるだけでも、しっかりと見ている。

 なぜなら、姉にはそれ以外にやることが無かったから。

 できるわけがない、と思っている。

 僕が姉に逆らったり、何かをするということを、姉は分かっていない。

 僕はでもきっと、あともう少し、姉の伸長を追い抜かすころになれば、全てが好転するような気がしている。

 「…あれ?」

 ふと姉がいなくなって、ドラゴンはどこ?と見回しても、いなかった。

 まあ、生き物だしな、そんなもんか。

 僕はため息交じりに腰を上げた。

 そして、ゆっくりと玄関の扉を開け、部屋へ入った。

 まあ、仕方ないよね。と、居間に居座る姉の目を避けるように、自室へ向かった。早く帰らなければ、また姉に出会ってしまう。

 もう、めんどくさいな。

 何か、この頃は自分がおかしくなっているような気がする。

 ずっと、姉の気性の粗さを、当然として受け入れていたのに、ここ最近は何か、何か違って、嫌だ、という気持ちが当然のように生まれてくる。

 僕は、そういう、何か自分が嫌いで、姉のことを見ないようにしていた。

 だから急いで自室に戻り、ベッドの上に寝転がった。

 ああ、はあ。

 一日がぼんやりと回っていく。学校での出来事とか、そんなことがぼんやりと、頭に浮かんでいた。

 けれど、 やっぱりなぜか、あのドラゴンのことが浮かんでしまう。

 それは多分、いや、見間違いだとは思うんだけど、あいつには、羽が生えていた。

 でも絶対に鳥ではない。あの奇妙な生き物は何なのだろうか。

 僕には、分からなかった。

 けれど、僕はそのまま、死んでいた。

 こんな日が命日になるのか、と辟易としていた。

 姉は、僕を憎んでいた。

 そして、僕の記憶はそこから先には進めない。

 

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