第4章 神様にも理不尽はあるみたいです -7-
* * *
「いや理不尽! ザ・理不尽!」
言ってやりたいことは山ほどあったが、まとめると、理不尽の一言だ。
「お兄さんは真面目に仕事をして暮らしていただけなのに、弟の我儘で大事な仕事道具をなくされるわ、ようやく道具が戻ってきたと思ったら、外野の神様まで弟の味方をして呪いじみたことされるわ、挙句の果てに海で溺れて死にかけるなんて……踏んだり蹴ったりじゃん」
「全く恥ずかしい限りだ。海を相手に生きていた者が、潮にのまれて溺れかけるなど、面目が立たん」
「いや、なんでこの話の流れでお兄さんが反省しちゃうの」
理不尽な目に遭った張本人が、申し訳なさそうに眉を八の字にしている。
「兄さんは真面目だから。そんな責めないであげて」
「お兄さんのことは責めてないから。僕がお兄さんを非難してるみたいな構図にするのやめて。そしてあなたは反省して」
理不尽なことをした張本人が、他人事みたいに兄の肩を擦って慰めている。これではまるで、優月が悪者みたいだ。どこまで理不尽なんだ!
「なんで名前に海が入っているお兄さんの海幸彦さんじゃなくて、山幸彦さんの味方したんだ、海の神様は……」
「ボクが、たまに海に捧げものしてたからかなあ」
「捧げもの? 例えば?」
「狩った猪の食べられない部分とか、リンゴの芯とか」
「ただのゴミじゃん。しかも、それたぶんポイ捨てだよね?」
海の神様、なんでこいつに協力したのか教えてくれ。あなたのテリトリーがめちゃくちゃ汚されてますけど。
「ワタシは海の恵みを享受するばかりで、何の御返しもしなかったからな。神がお怒りになるのも無理はない」
「いやいやいやいや、お兄さん、弟の話に流されすぎだから! 普通は、海を汚してる方に怒るから!」
このお兄さん真面目過ぎる。
「カア。真面目は必ずしも長所にならないということだナア」
「そういうところも含めて理不尽!!」
「カア。世の中は理不尽だらけダア。現実を見るんだナア」
そう言うと、カーッカッカッカ、と、どこぞの黄門さまみたいな笑い方をした。本場は揉め事が解決したらその笑い方が出るんだけど、このカラスの高笑いは真逆のタイミングだ。
だが、カっちゃんの言ったことが事実であることは、優月は痛いほど実感している。ここ数カ月だけでも、宝物を処分されそうになったり、ちょっとぶつかっただけで(本人ではなく取り巻きに)追い回されたり、大事なものを借りパクされたりと、なかなかの目に遭っている。
そういえば、某ポケットサイズのモンスターのゲームでも、まじめな性格は不利だなあと優月は思い起こす。そのゲームでは、プレイしている者同士で、育てたモンスターを対戦させることができる。対戦ではモンスターのステータス――攻撃力、防御力といった能力――が勝敗を左右すると言ってもよく、高い能力を生かした戦法を取るのが基本だ。
どのステータスが高いかはモンスターによって決まっている。しかし、そこに性格という概念が加わる。モンスターの性格によって、ステータスの補正が入るのだ。例えば、「さみしがり」なモンスターは攻撃力が1.1倍になるが、反対に防御力は0.9倍になってしまう。
そのため、プレイヤーは勝負に有利な性格になるようモンスターを厳選する。もともと攻撃力が高いなら、さらなるパワーアップのために、攻撃力が上がりやすくなる性格を選ぶ。守りに特化したいなら、防御力が上がりやすくなる性格を選ぶ。
そう言った事情があるので、スタータスが何も変わらない性格は必然的に選ばれにくくなる。ステータスに補正がかからない性格のひとつが、何を隠そう「まじめ」なのだ。「まじめ」の他には、「がんばりや」、「すなお」などが補正なしの性格となる。
つまり、「まじめ」や「がんばりや」や「すなお」といった性格は対戦環境では選んでもらえないのだ。
これはあくまでもゲームの中の話だが、この話を人間に当てはめても、そういった性格の人が不利益を被る世の中のように優月は感じる。正直者が馬鹿を見る、とはよく言ったものだ。
「世知辛い……」
世渡りスキルは大切だけれども、清く正しく生きている人が割を食う世の中は間違っていると信じたい。
「カア。心配するナア。実直な人間ナラ、神は見捨てないんダア。他人を蹴落として生きてるような奴ナラ、死ねば終わりダア。せいぜい生きている間にいい思いをさせておけばいいんダア」
そんないい言葉を投げかけてくれたカっちゃんを、初めて神様らしいと思った。世の中の理不尽にさらされ、同じ人間にも利用され、裏切られ、その上神様にまで見て見ぬふりされたら、それこそ神も仏もないもの。
やっぱり、真面目に生きるべきだよね。真面目に生きていれば、最後にはいいことがあるはずだもの。真面目に生きよう。そうだそうだ。
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