第3章 鬼退治をする羽目になりました
第3章 鬼退治をする羽目になりました -1-
とある日の夕方。学校から帰った優月は、ペットになった神様トリオを連れて散歩をしている。カっちゃん曰く、ガチャで呼び出されたとはいえ、役目を終えれば無理に人間の世界に残る必要はないらしい。けれど、神様の世界に帰るかどうかは呼ばれた神様の自由らしく、すっかり優月宅に居ついてしまった。
「カア。お前、次はいつ温泉に行くんダア?」
頭の上からカっちゃんが聞いてくる。温泉というのは、優月がアルバイトをしている温泉施設のことだ。施設内のレストランでホール係として働いていて、働いた後は無料で風呂に入ることができる。露天風呂があって、露天なのをいいことに、カっちゃんが外から勝手に入りこんで、勝手に入浴している。
「明日シフトが入ってるよ」
「カア。それなら明日行ってみるカア」
ダメだと言っても聞かないから、もはや何も言わない。幸い、カっちゃんの存在はクラスメイトの翔太にしかばれていないけれど、他のお客さんだっているんだから、ヒヤヒヤさせないでほしいものだ。
近所の公園を過ぎて、本屋の前を通りかかった時だった。
「ウー」
突然、ポチが唸った。そうかと思えば、突然走り出した。
「え、ちょっと!」
子犬ほどの体躯でも、中身は神様だ。その力で引っ張られたら、優月が抵抗できるはずもなく、ほとんど引きずられる勢いで一緒に走ることになる。ただし、こういう時のポチはただはしゃいでいるわけではなく、困っている人を見つけているのだ。以前、
ポチはやがて空き地へと入っていき、再び唸った。ポチが見据える先に目を向けると、制服を着た二人の男子がいた。一人は長身で、シャツのボタンをほとんど止めずにだらしなく着崩しており、中に着ている派手なインナーが見えている。
もう一人は学ラン姿で、一番上のボタンまでキッチリ止めた眼鏡の気弱そうな少年だ。
眼鏡の少年の方は知らない顔だが、長身の方は優月もよく知っている人物――
同情はするけれど、優月としてはできるだけ関わりたくないのだが……。
「ウー」
ポチが唸って気づかれないはずもなく、二人の顔が優月たちの方を向く。眼鏡の少年は、救いの神が現れたといった表情になり、「助けて!」と手を伸ばしてくる。対する優月は、内心「あちゃあ」と思ったけれど、気づかれてしまった以上、ここで見捨てるわけにもいかない。神様トリオを引き連れて、彼らの方に歩み寄る。
「外野は口出しすんじゃねえ」
殺気を込めた視線と言葉で先に牽制され、優月はビビってしまう。カっちゃんなんて、優月の背後に隠れてしまっている。自称とはいえ神様のそんな姿は見たくなかった。仕方がないので、怖いけれど対話を試みる。
「えっと、宇良くん。乱暴はやめた方がいいと思うなあ……」
「同じことを二度も言わせる気か。すっこんでろ」
言葉の圧が違う。目力が違う。もう回れ右して帰っていいですか。
「ウー」
なんでお前はビビりもしないで唸れるんだよ、ポチ。ペットの監督不行き届きを謝罪して、すたこらさっさと逃げたい。でも、リードを引っ張ってもポチは動いてくれない。
「カっちゃん、キー坊。仲間の不始末は連帯責任ってことで、どうにかしてもらえる?」
「カア!? お前なにを訳の分からないこと言ってるんダア!」
「だって、神様のポチがここに連れてきて、しかも状況を悪くしたんだもの。同じ神様なんだから、どうにかしてよ」
「カア! 虫がいいこと言うナア!」
「高いブドウ買ってあげるから!」
「カア! 行くゾ、猿田彦!」
渋っていたけれど、食べ物で釣ったらやる気を出してくれた。こんなちょろい神様でいいんだろうかとは思うけれど、ひと安心。カっちゃんはキー坊と一緒に宇良に向かって行って、同時に飛び掛かった。
「うぜぇ」
腕を振り払っただけで、攻撃を仕掛けたカっちゃんとキー坊が吹き飛ばされた。
「うそぉ!?」
足元に落ちてきた
――神様がたった一人の不良に負けたぁぁぁ!?
さすがは番長、とんでもない力だ。しかし、神様ズの犠牲は無駄ではなかった。攻撃でできた隙をついて、眼鏡の少年が宇良から逃げ出したのだ。このまま彼が逃げたら、優月がカツアゲ失敗の責任を取らされて財布ごと持っていかれるんだろうか……。
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