第2章 神様はさまざまです -4-
「すっかり目が覚めた……」
「カア。さっさと起きて神棚作るんダア」
「分かったよ」
優月は気力を振り絞って立ち上がった。今更ながら下着姿だった自分に気づき、なんだか恥ずかしくなった。ジャージを着て、一階に下りた。カっちゃんも優月の頭に止まって、一緒についていく。早速風呂場で洗われているらしいポチの様子を横目で見ながら、台所に行って冷蔵庫を開ける。
「カっちゃんも何か飲む?」
「カア。カっちゃんと呼ぶナア」
「それなら母さんに苦情を入れようか?」
「カッ……」
八咫烏が初めて言葉に詰まった。神様でも怖いものはあるらしい。諦めた様子で、カっちゃん呼びを受け入れたのだった。呼び名についての話題は終わり、最初の質問に回答する。
「カア。日本酒出すんダア」
「カラスってお酒飲むの……?」
「カア。お前は
そういえばカっちゃんは一応神様だった。それなら大丈夫かと、父のお酒コーナーから飲みかけの一本を拝借して、お
「カア! 人間が飲んだ後の酒を神に出すとは何事ダア!」
憤慨して翼でぽかぽか叩いてくる。
「いや、さすがにまだ蓋を開けてないやつは、後で父さんにばれるからさ!」
それでも納得がいかないようで、頭の上での暴力が続く。そこへ、名付け親が登場。
「あら? カっちゃんご機嫌ななめなのかしら」
しっかり洗われ乾かされ、綺麗な毛並みになったポチを抱いた香織だ。カっちゃんが途端に大人しくなり、お猪口にくちばしを入れて酒を飲み始めた。
「カっちゃん、お酒飲んでるの!?」
「あー、うん。日本酒が好物らしいから」
「変わってるわねえ……。お父さんのお酒を勝手に飲んだら怒るかもしれないし、カっちゃん用の日本酒買ったほうがいいかしらね」
「買ってもらえると助かる! 未成年の僕じゃ売ってもらえないから」
「今日スーパーに行ったときに買ってくるわね。ところで、朝ご飯食べる?」
首を横に振ってNOの返事をした。優月は朝はあまりお腹が空かないので、飲み物やヨーグルトなどの軽食で済ますことが多い。今もそんなに空腹感はなく、オレンジジュースだけで満足だ。
「それなら、カっちゃんも水浴びさせるわね。せっかくここにいるんだし」
それを聞いたカっちゃんの動きがぴたりと止まり、お猪口にくちばしを入れた状態で固まってしまっている。ポチのはっはっという息遣いが、なんだか笑っているように聞こえる。
「それじゃ、お願い。僕はカっちゃんのための神棚を作ってあげないといけないから」
「そうね、居場所が無いのは可哀そうだからね。頑張るのよ」
「はーい」
カっちゃんの助けを求めるような視線を無視して、優月は部屋に戻った。カっちゃんが散らかした資材を整理してから、作業開始。青春真っただ中のいい若者が、土曜日にDIYなんて、我ながら渋いなあと思いながら黙々と手を動かす。
そんなに凝ったものではなく、壁に板を取り付けて棚板にし、神社の御札を入れるための
時計を見ればもうすぐ十二時、どうりで暑いわけだ。作業が終わって集中力が切れると、優月のお腹が盛大に鳴った。
「お腹すいた……」
朝食抜きで昼まで動いていたのだ。空腹になるのも当然というもの。優月は流れる汗を拭いながら一階へ下りた。台所では香織が昼食の準備をしており、居間ではポチがヘソ天して寝ている。
「優月、カっちゃんの寝床できたの?」
「うん、さっき終わった。お腹空いたよ」
「もうちょっとかかるから、休んでなさいな」
「分かった。汗かいたから、できるまでの間にシャワー浴びるね」
そう伝えて風呂場に行くと、カっちゃんが翼で自分を抱きしめるようにして洗面台に立っていた。
「カア……。吾輩の神々しい羽が洗剤臭いゾ……。なんで吾輩がこんな目ニ……。カア……」
悲しそうに鳴いていたけれど、スルーしてシャワーに直行した。神様より怖い存在があるということを、身をもって知ったようだ。
さっぱりして台所に戻ると、昼食がテーブルに並んでいた。父は休日出勤だそうで、香織と二人だ。いただきますを言ってから、猛烈な勢いで食べる優月。普段はそこまでお腹が空くことはないのだけれど、この日はもの凄く空腹を感じていた。
「食べ終わったらさ、ポチの散歩に行ってあげてくれる? リードやお散歩袋は用意しておいたからさ」
「え、いつの間に用意したの」
「お昼ご飯の材料を買うついでに、ホームセンターに寄ったのよ。犬のご飯コーナーも見たんだけど、種類がたくさんあって、どれを買おうか迷っちゃったわ」
早くも犬ばかになっている香織に苦笑しつつ、散歩を承諾する。拾ったわけではなくても、優月が家に持ち込んだことには変わりはない。ああ見えて狼の神様らしいから、犬と同じ世話の仕方でいいのか分からないけれど、寝ている姿はまさしく子犬。普通の犬と同じように世話をしよう。
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