第2章 神様はさまざまです -2-

「……つまり、こういうことか。知らないおっさんからガチャガチャを押し付けられて、それを回すとなぜか神様が出る。そんで出てきたのが八咫烏ってことなんだな」


「そういうこと」


 頭にたんこぶを三つ作った翔太が確認し、優月が肯定する。三連続キックを食らって正気を取り戻した翔太と帰り道を歩いているところだ。八咫烏を見られてしまった以上はどうしようもないので、事の経緯を説明したのだ。ちなみに、八咫烏は優月の頭の上に止まっている。


「あのボストンバッグの中がガチャガチャだったとはなあ。なんで最初から言わなかったんだよ」


「こんな話、信じろって言っても難しいだろ。あの時は八咫烏はいなかったし、僕だってこのガチャガチャが何なのか知らなかったんだから」


「まあ、そうだな。あの時だったら、自首を勧めたかもしれない」


 あの時、正直に言わなくてよかった。さもなくば、盗んだと思われて、無実の罪を着せられるところだった。


「カア。吾輩のお陰で信用してもらえたナア」


「君が現れたお陰で面倒なことになったんだけど」


 高い所から偉そうにしているカラスに苦情を言ったが、全く効果がない。馬の耳に念仏、烏の耳にクレームだ。


「で、どうすんだよ」


 翔太が優月の背中のボストンバッグ(の中にあるカプセルトイ)を指さす。


「どうするって?」


「置いてきても、勝手についてくるんだろ?」


 ロッカーに置いてきたはずのボストンバッグが昇降口に置かれていた件について、八咫烏に聞いた。カプセルトイ――もとい依代箱よりしろばこは、所有者が一定の範囲内にいないといけないらしく、所有者が離れると勝手に先回りして現れてくるらしい。


 考えようによっては忘れ物をしないですんで便利なのだが、先日はそれが原因で不良に絡まれることになったので、それからは帰宅時も優月がしっかり運んでいる。体育の授業でグラウンドに出たときは、勝手にワープして校庭の木に寄りかかっている。まるで、好意を寄せる男子を木の後ろから見つめる恋する乙女みたいなポジションだ。


「捨ててもたぶん追っかけてくるよなあ。最速メリーさんみたいだな。私、カプセルトイ。あなたの目の前にいるの」


「怖いからやめて」


 徐々に距離を詰めるんじゃなくて、突然目の前に現れるメリーさんとかエグすぎる。


「それを渡してきた爺さんだって、何者なんだか分かったもんじゃねえよな」


「見た目は普通のおじいさんだったんだけどね」


「実は神様だったりしてな」


「まさか。神様が道に迷うってありえる?」


「カア。ありえるナア。正月に各家を訪れる年神様としがみさまは総じて方向音痴でナア、道に迷ってばかりだカラ、目印として門松を玄関に置かせるようになったんダア」


 神様サイドから残念なエピソードが降りてきた。微妙に人間くさいせいで、逆に好感が持てるのが不思議だ。


「まあ、頑張れよ」


「さっきまで寄り添うポジションにいたのに、急に適当な距離を取ろうとするのやめて!?」


「オレにどうにかできる話なら協力もするけど、無理そうじゃん」


「うっ……」


 依代箱の所有者は優月。八咫烏を出したのも優月。翔太の言う通り、優月がどうにかするしかない問題だった。


「まあ、愚痴ぐらいは聞いてやるよ」


「じゃあ早速。群青プリンセスの限定ミサンガについて」


「じゃあな!!」


 翔太は優月の話を元気よく遮って、ダッシュで帰っていった。覚えてろよ、の視線を送っておいた。


「カア。吾輩の寝床はいつできるんダア?」


 寝床というのは、神棚のことだ。家に神棚は無いので、優月の部屋にDIYで神棚を作ろうとしている。必要な道具や資材は購入してあるが、まだ未完成だ。


「カア。早くしろヨ。吾輩にいつまで野宿させるつもりダア?」


 そうは言うけれど、他のカラス達とカアカアギャアギャア仲良く騒いでいるじゃないか。優月には、それなりに野宿生活を楽しんでいるように見える。神聖さはお留守になってしまったようにも見えたけれど。


「明日は土曜日で学校が休みだし、バイトも入れてないから、完成まで頑張るよ」


「カア。朝からしっかり励むんダア」


 そう言うと、優月の頭から飛び立って、夜空を飛んで行ってしまった。黒い夜空に溶け込んで、すぐに見えなくなった。


「どいつもこいつも、自由なんだから」


 一人ぽつりとつぶやくと、荷物を背負いなおし、歩き出した。

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