第11話 夏休み近づく放課後の帰り道

 西園寺佐奈に告白されたあと、信二はごく普通に日常生活を送っていた。


 午後からの授業は高校二年生ながら既にカリキュラムに入ってきた大学受験用マーク式問題の本年度の想定問題集を解くというものだった。


 カリキュラムといっても、その多くの授業内容は各担当の先生に委ねられている。


 そして、こうして想定問題集を解かされるようになったのは数学だった。

 

 まだ高校の範囲全てを終えていないにも関わらず、早い段階でそうした問題集を解かされることが、正直に言うと、信二はあまり好きではなかった。


 せめて一回だけというならば、今の自身の学力状況の把握に役立つであろうが、今回で信二が解くのは4回目だった。


 しかもまだ学習していない範囲からの出題が今回は特に多かった。



「ふぅ……、無意味な時間が最近は本当に多くなってきた。それでいて他のことをしていると私の授業に不満なのかとブチギレて、授業がもう崩壊してしまう。。。これだから、うちはいつまで経っても自称進学校なんだろうな。。。」



 信二は数学の問題を解き始めて早々に、小さく嫌味に近いひとりごとを言った。


 隣の女子生徒がクスっと共感の笑いを起こした。


 いや、笑えねーよと、信二は思ったが。


 たった一人の生徒、大して成績も良くない一般的などこにでもいる生徒の言うことで、先生が、そしてこの学校自体が変わっていくことなんて、滅多とない。


 信二はそこまでカリスマ的な存在ではないのだ。



「だれか優秀な人が理事長にでもなってこの学校変えてくんねーかな。いや無理かぁ。そもそもここ、公立だし。。。」



 信二はまたもや、ひとりごとを言う。


 すると今度は隣の男子生徒がそれに反応を示した。



「おい、信二。お前、ドラゴ●桜2読んでるだろ。あれ、おもしれーよな」



 たまにしか話したことのない人が、こうして話しかけてくれるのは嬉しいが、あいにく信二はその漫画を読んだことがなかった。


 しかも、信二はスパイダー●ンは見ても、スパイダー●ン2は見ない人間なのだ。



「ごめんな、自分、2とか3とか見ない派なんだわ」

「あ、そっか。。。ふ、ふ~ん」

「ごめん。ア●アンマンとかもそうなんだ」

「お前それは絶対に人生損してるから、いい加減その続編はつまらんっていう偏見は捨てろ」

「お、おう。。。」



 試験問題中に不覚にも会話が盛り上がってしまいそうな予感。


 そろそろ数学の担当がこちらに気が付きそうだ。



「今度うちこいよ、見せてやんよ」

「お、おう。よろしく」

「じゃっ」



 いや、電話じゃねーんだからよ。最後の会話の切り方独特すぎるだろう、と信二はツッコミたくなったが、ぐっと堪えることにした。


 またちょっとしたことで、あのヒステリック教師が発狂し出してもこまる。


 人生、荒波をたてずにつぅーっと平行線に生きるのが一番楽で安定的な生き方だ。


 二股を実行中の信二が言えたことではないが、そういう生き方もたまには必要だろう。



「あと27分よぉ~。頑張ってねぇ」




(いや、残り時間の読み上げ、刻みすぎだろ!!)


 

 自称進学校にはある意味変わった先生が多い。


 信二はそんななかで、今日も真夏の午後のしじまを教室で静かに過ごしていった。。。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★




 放課後。



 今日は茜と一緒に帰ることになった。



 NTR事件からというもの、頻繁に茜とは帰り道をともにしていた。



 そして、そのなかで1,2回ほど不自然な予定が入って、放課後は一緒に帰れないと伝えられたこともあった。茜も茜で絶賛浮気中だということは、ひしひしと伝わってきていた。


 さすがの信二も、もう二度とNTR現場に遭遇することなんてごめんだ。


 茜の浮気を知っていながら交際を続けている今も、それは辛いことには変わりない。


 好きな人が何人いてもそれは、間違ったことじゃないと思うが、それでいても肉体的な関係がそこに入り込むと、話はそんなに単純なものではなくなってくる。


 自分の好きな女が知らない男と気持ちよくなっていることに興奮することでもない限り、それはかなり難しいことだ。。。



「ねぇ、信二。今日はさ、帰りに私の家に寄ってかない?今日はお母さんたち帰り遅いんだ。たぶん日またぐと思う。」



 茜は今日はそうやって提案をしてきた。


 今日までも何回か(4回ほど)そうやって信二のことを家に誘った。


 あいにく信二の家には早いうちから両親のどちらかが、在宅しているので茜をそういう目的で連れ込むことはなかなか難しいといった現状。


 ということで、今日は茜の家にまたもやお邪魔することになった。



「ああ、いいよ。僕もそろそろ行きたいなって思ってたんだ」

「あはは、信二のエッチ」

「茜から誘っておいて、それはないんじゃない」

「たしかに。。。私って結構エッチなのかも」

「そんなの知ってるよ」

「あ、なんだか冷たかった、さっきの信二の言葉」

「そ、そうかな」



 危ない。


 少しだけ本音に近い感情が混じってしまった。


 ただ、信二は内心で安心しているのだ。


 これまで、茜が信二との放課後の時間を断ったのは数えるほどしかない。


 しかしながら、信二とこうしてお家で過ごす回数は、それよりも遥かに多いのだ。これは最近になっても変わらない。


 今はまだ、かなりの恋愛的ウェイトが信二に偏っていると言える。



「映画とか見ながら、だらだらエッチでもしようね。疲れてきたら、課題とかやってさ」

「そうだな。最近のオススメの映画とかある?」

「ん~。今●監督とかおすすめだよ。配信系にあるやつだったら、パプ●カとかかな。それなら今すぐ見れるけど」

「じゃあ、それにする」



 信二はこうして放課後の帰り道を歩いて、茜の家に向かった。


 真夏のじめっとした空気は、二人の性欲を、高校生の際限のない性欲を、これでもかというほどに高めているようだった。



「ちょっとコンビニ寄ってこっか」

「ゴム?」

「そう。あとお菓子も」

「わかった」



 今日も複雑な世界が、表面上はしっかりと正常に見えて、動いていた。。。



_______________



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