第12話 映画を見ながらの夜
「冷房かけたほうがいい?」
「ん~扇風機だけでいいよ?」
「はーい……」
茜の家についたのは19時になる手前。
信二の家から公共交通機関を使って20分以内とかなり近い距離にあるので、いつも信二はかなり遅い時間まで茜の家にいることになる。
といっても、あれやこれやと、いろいろとヤッていると。。。
そんな放課後からの時間なんて、すぐに流れていって、信二は一人で夜の暗い道を歩き帰るとこに、日々なっている。
茜が浮気してからも、そういった日々は続いていて、あまり高校生らしい暮らし方をお互いにしていないかもしれないが、信二と茜はなんとかその暮らしのなかで関係をお互いに保っていた。
いや、お互いにではなく、信二が一方的にそれを認めて許容している……
といったほうが差し支えはないだろう。
なにせ、茜は信二もまた、自分と同じように浮気をしているということに、気がついていないのだから。。。
「今日はプロジェクター使って私の部屋で見よっか」
「いいね。別に面倒だったらTV使ってもいいけど」
「うーん、どっちも同じくらい面倒だから、プロジェクターでいい」
「今日はプロジェクターの気分なんだ」
「そうそう。だって、部屋で見たほうが、そっちの気分も高まるもんでしょ」
「たしかに、それはイェール大学」
「あはは、しょうもな」
茜は家のリビングから扇風機を担いで、二階へと上がっていく。
その一方で信二は、手持ち無沙汰に茜の後ろについていくだけだ。
信二の左手にはコンビニで買ってきた、ポップコーンとコーラ、そして極薄をどデカくパッケージでアピールしている大人のゴムが入ったビニール袋がある。
傍から見れば、なんとも女とヤるだけが目的の男みたいな存在になってきているように見えるが、これは二人にとっては、日常的な光景だということを忘れてはならない。
そろそろコンビニ店員とも顔見知りになって、死んだような笑顔を向けられるくらいには、回数を重ねてきている。
あまりにもそういうことに慣れてしまった信二と茜にとって、肉体的な行為についての考え方は、そろそろ一般的な高校生が向けるようなピンク色のいやらしいものとしての性質を失いつつあるのだ。
「信二、学校の授業は順調?」
「うーん。まあまあってところかな」
「そうなんだ。私もそんな感じかなぁ。つまんないなーって思いながらいい加減にこなしてる感じ」
「やっぱ、そうだよなー」
「ねー。最近になって受験勉強を意識した対策的な授業が増えてきたじゃん。そうなってくると、一気に学校の授業がつまんなく感じちゃって。なんていうのかな。先生の個性がない授業……。何の学びもないじゃん、そういうの」
「あーたしかに言えてるなぁ」
「だから最近は自分の趣味に没頭するようになっちゃって。あ、でももちろん。別に受験から逃げてるわけじゃないからね」
「わかってるって」
「受験とは適度な距離を置きつつ、頑張らないとなって。あんな強制的な押し付けみたいな授業受けて強迫観念植え付けられるような場所で、真面目ちゃんになっても精神病むだけだよねー」
「何が大事で何が好きなのかについて考える時間を搾取してるとも言える」
「あははー。なんか信二がそういうこと言うとおもしろーい」
「勉強しない子に勉強をさせるための場所という教育的思想が見え隠れするところに未来はない」
「あははー、なんかそれらしいかも。あはは……そろそろ、別の話題にしない? 私飽きてきちゃった」
信二と茜はそんな、なんとも言えない会話をしながら部屋に入っていった。
信二は茜の部屋でラフな格好に着替える。茜もまた恥じらいもなく部屋着に着替えていく。
茜の部屋のクローゼットには信二用の部屋着も収納してあるのだ。本当に住み慣れているのが伝わってくる。
部屋の蛍光灯は付けずに、卓上に置いてあるオレンジ色の照度の低いライトをつける。
こんな感じでいつも映画鑑賞の準備を整えていく。
「はい、これ」
「おう、さんきゅ」
信二は茜から、コーラの入ったジョッキを受け取った。
しゅわしゅわと音を立てて、炭酸が弾け、周囲に飛び散る。
信二は勢いよく、それを喉奥に流し込み、ジョッキを近くの折りたたみ机に置きながら、子猫のように寄ってきた茜を、両足を広げた間に誘った。
茜の柔らかいおしり。
ほどよい肉付きをした背中。
茜の前に手を回して、茜を包み込む。
指先にふれる茜の柔らかで、それでいて張りのあるお腹。
上に手を滑らせて、信二はさっそく茜の胸を堪能した。
「もう、まだ駄目。ネト●リの操作しにくいから」
「わかった」
「映画はじまったらね」
「うん」
そう言いながらも信二はそれをやめなかった。
しばらく、茜は小言を言っていたが、なんとかして映画をつけることができてからは、そこには映画の音声と茜の色っぽい声が交じるだけになった。
「これが、茜の言ってた監督の作品?」
「そうっよ……。んっ。ちょっと、もう少し優しくして」
「あ、ごめんごめん。それにしても、いいね、この映画。脚本も作画もすごくいい」
「何いっちょまえに語ってるのよ。信二、映画……んっ、あんまり、見ないくせ、に。でも、そうよ、監督の作品は……」
……………
……………
二人の眼の前に大きく映し出される映像。
それに没頭しながら、二人はお互いにお互いを求めあった。
茜はこの前、映画を見ながらのエッチが好きな理由をこんな感じで言っていた。
『なんだか、映画の世界にいけるような気がするの。ただ見ているだけよりも、ずっとずっと……。この感覚、私だけなのかな』
信二には、あまりそういった感覚は理解できなかったが、信二はそのダラダラと続けるいい加減なエッチが性格的には好きだった。
その理由は茜と同じくあまり明確ではないが、何か特別なことをしているという気持ちになるのだ。
お互いをお互いに貪り合うだけのものよりも、ずっとずっと……
深いところで心が重なり合う気がするのだ。。。
しばらくそのような時間が続いた。
だがしかし……
茜のほうから、熱い口づけが信二に与えられた。
「信二……」
行為が盛ってくると、お互いにどうしようもなくなって、ベッドへ行くことになるのは、この二人にも避けられない。
「パプリカ、切るね」
「信二……」
若干ではあるが、うまく言葉がはまって洒落になってしまった……
信二は茜をお姫様抱っこのような形で抱えて、ベッドに連れ込んだ。
いつも、だいたいこの流れだ。
普段は理性的な雰囲気がある茜だが、こうなってはもう、ただの発情する動物に等しくなる。
今の状態だと、信二のほうがまだ冷静を保っているといえる。
茜は、そういうタイプの人間だった。
(なんだっけ。修平だったか。浮気相手の名前は……。茜はそいつにもこんな色気を出してるんだろうか。どういう雰囲気なんだろうか、二人は。茜は一体、どういう気持ちで、何を考えながら、そいつとセッ●スをするんだろうか)
信二はそんなことを考えて、茜に覆いかぶさった。
色っぽく輝く唇が、暗闇のなかでぼんやりと見える。
(いつか、茜にそんな気持ちのことも聞いてみたいな。どういう気持で浮気をしてるんだって。浮気をしながらする、行為って実際どういうものなのって?)
茜が信二のことをまだか、まだかという目で見つめ続けている。
その様子を見ると、まだまだ茜の気持ちが信二に傾いているという確証を与えてくれる。
(俺は……なんだ。どういう気持で茜としてるんだろう。。。最高に気持ちよくて最高にもどかしくて最高に情けなくて、罪悪感に襲われて。とにかくまだまだ色んな感情がうごめいていて整理できないな。なぁ、茜。先輩として教えてくれよ)
信二はベッドの上で熱く口づけを交わした。
茜がそれを激しく迎え入れた。
(それって、どういう感情なのかな……)
暗闇のなか。
壁に一時停止されたパプ●カのシーンが明るく映し出されている。
コーラから出る気泡が、パチパチと小さな音を立てて……
二人はそんななかで、シた。
心ゆくまで、愛しあったのだった。
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