第20話 何だ、変な顔して
「あれ。仕入れてるんだから知ってるかと」
「何か特別なパーツを入れた覚えはないです」
「ああ、それじゃ」
ライオットはぱしんと手を打ち合わせた。
「姉貴や妹たちに使われてるのと同じってことだ」
「え」
またしてもトールは目をぱちくりとさせた。
「美少女パーツだよー。道理でトール、肌もきれいだし」
「……まあ、最初のリンツェロイドだから気合い入れて無理したんですね、マスターも」
そう作ってしまったから維持せざるを得ないのだろうとでも思うしかない。
(外見ばかり精巧だって)
(マスターの役には、立たないのにな)
三原則を撤廃した隠しシステム。彼らに、彼にそのことを黙っていたとトールがマスターを非難することはない。言うも言わないも、マスターの自由だ。
ただ、思う。それだけの機能を〈トール〉に搭載するのは無理だと。
「そうだ、これ」
不意にライオットが何かを差し出した。
「え?」
トールは何だろうかとじっと見る。
「待ってる間、店頭で調べてきた。サンプルの棚の奥と、観葉植物にくっついてたよ。念のため、壊してある」
「盗聴器、ですか」
本当にあったんだ、とトールは少しびっくりした。ライオットに見てもらってよかった、と彼は思った。〈トール〉では見つけられたかどうか。
「たぶん、もうないと思うけど。大掃除した方がいいかもね。あいつが仕掛けたのだけじゃなくて、ほかにも見つかったりして」
「誰がうちみたいな弱小をスパイするって言うんです」
トールは顔をしかめた。
「『弱小』は隠れ蓑だって知ってる人もいるでしょ? サラ女史然り、ギャラガー氏然り。ほかにもちょくちょく、さ」
「だからって」
サラやギャラガーがそんなことをするはずない。トールは渋面を作ったままだったが、ライオットも似たような表情を浮かべていた。
「少し警戒した方がいいと思うなあ、マスターもトールも。あ、マスターは判ってるよね、何だかんだと。だからアカシにあんな機能つけてんだし、俺にもたぶん」
「僕だけ愚かだということですか」
「そんな言い方しないで、トールちゃん」
ライオットは片目をつむった。
「好きよ」
「……何です、それ」
「だから。マスターも俺らもトールのこと大好きだから」
「何です、それ」
彼はまた言った。
「意味が判りません」
「何でよ。好きとか嫌いとか、擬似感情プログラムだけどさ、判るでしょ」
「その意味を問うているのではなく、話の流れとして理解しかねる、意味が不明瞭だと言ったんです」
「まあまあ、その辺はフィーリングで」
ライオットは笑い、トールは肩をすくめた。
「おい、そこで何してんだ、お前ら」
「あ」
よく知る声に、兄弟は振り返った。
「――アカシ」
「ん? 何だ、変な顔して」
彼らの兄にして弟は首をかしげた。
「あの……大丈夫ですか」
何と言ったらいいのか、慎重にトールは訪ねた。
「あー、俺、殴られたのか? 一時的に機能停止したみたいだな。マスターが再起動してくれた。不具合起きてるといかんから、あとで見てくれるとさ」
「あ、そう」
「ええと、よかったですね」
「……何だよ、何か変だぞ、お前ら」
アカシには「警護ロイド」として働いた記憶がないのだ、と彼らは気づいた。そして彼のマスターはただ「一時的に機能停止をしたから再起動した」とだけ、彼に伝えたと。
言うな、とは命じられていない。だがとっさに、彼らは口をつぐんだ。
「彼は? あの侵入者はどうしたんです?」
トールは尋ねた。話を逸らそうとしただけでもなく、気にかかることだ。
「マスター曰く『丁重にお帰りいただいた』」
唇を歪めてアカシは言った。
「帰った……んですか」
「いいのかよ、と思ったけどな。ただ、帰すなんて。俺のことはともかく、窓どうすんだ、窓」
彼が憤然としているのは、割れたガラスの修理費くらい請求したらどうなんだ、という考えに基づくものらしかった。
「それにしたって、あいつ何だったんだ、いったい」
「彼ね。エミーに仇討ちにきたらしいよ」
「は?」
「ミズ・マックスの恋人だったようなんです。彼女は数日前に亡くなったとかで……」
トールは大まかに事情を話した。男が昨日店頭にやってきたことから、エミーの歌を呪いか何かのように思っていたことや、盗聴器のこと、それからデイジーの歌のこと。
「いちばんのお手柄はデイジーという感じですね。本当の子供なら、おもちゃやお菓子でも買ってあげるんですが」
「はあ……」
アカシはぽかんとしていた。
「リンツェロイドに復讐にきて、リンツェロイドに納められちまったって? 最近、おかしな奴が増えたなあ」
「悲しみとやり場のない憤りが、エミーへの破壊衝動に向いたんでしょう。不穏ではありますが、そんなに奇妙でもないかと」
「衝動だって」
ライオットは笑った。
「何がおかしいんです」
「衝動的に、盗聴器仕掛けて、スタンガン用意して?」
「……え」
「――変だと思わない?」
声をひそめて、ライオットは兄たちを見た。
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