第10話 応じないように

 そんなふうにして〈クレイフィザ〉二大稼働ロイドにデイジーを紹介し終えたトールは、少女を連れて廊下を歩いた。


「いいかい、デイジー」


 彼は少女を呼んだ。


「ここにいる間の注意をしておく」


 言えばデイジーは、真剣に彼を見た。


「ライオットとアカシの、不自然な要望には応じないように」


「不自然ってどういうの?」


 目をぱちぱちとさせて彼女は問うた。


「つまり、どこかの機能を落とせとか、この線を接続しろとか……」


「服を脱げとか?」


 少女の追加にトールはむせかけたが、アカシはともかくライオットは有り得る。無論それは少女の「裸」が見たいと言うのではなく、パネルを開けるためだが。


「まあ、それも含めて。たとえば通りすがりの人だとか、初めてのお客さんに言われても君のお母さんや〈レッド・パープル〉の管理者の許可がないとやらないことはやらないように」


 彼の「弟」たちが勝手な真似をする可能性は、低いが皆無ではない。特にライオットなど、悪ノリでやりかねないのだ。


「わかった」


 こくりとデイジーはうなずいた。


「トールはいいの?」


「え」


「トールが脱げって言ったら脱いでいいの?」


「僕は言いません」


 よりによって何というたとえで尋ねるのか、と顔をしかめながら彼は答えた。


「じゃあ、お父さんの次にトールの言うこと聞くってのはそのままね」


「……どうして僕が優先指示者に入ってる訳?」


 目をぱちくりとさせて彼は尋ねた。


「だってお父さんがトールにあたしを任せたじゃない」


「成程。……って、僕が人間じゃないって判ってる?」


 場合によっては危険な問いかけだが、マスターがデイジーにそれを隠す様子はなかった。マスターの言った通り、サラは気にしない――或いは、知っている。


「うん。お兄さんでしょ」


「ええと」


 肯定を躊躇う確認だ。だが否定するところでもない。


「あ」


 はっと彼は顔を上げた。


「お客さんだ。戻るよ、デイジー」


 店頭からの信号を聞き取ったトールは、踵を返す前にちらりと「妹」を見た。


「……お客さんには、夢の泉がどうとか言わないでね」

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