第151話 異変
気配察知に反応したのは、3体。おそらく最後の生き残りだ。
「援護するよ!」
ベルが矢を1本放つ。だが、簡単に躱されてしまった。
でもそれでいい。注意が一瞬でもそちらに向けば。
「ふっ!」
躱したことで体勢が崩れた一体目掛け翡翠を振り抜く。はい首チョンパ。後は聖火に燃やされて……
「フィリアちゃんそれさっきもやってたけど…何?」
あっ……
「さ、さぁ残りは2体だね!」
「露骨に逸らした!?」
あ、後でね、後で。
「後でちゃんと教えてよ、ねっ!」
ベルの矢がフォレストモンキーの右目を穿つ。倒せなくとも片目の視力は奪われる。動きが一瞬鈍ったところで一気に近付き、首を刈り取る。
「あと1体っ」
状況は圧倒的に不利であるにも関わらず、残り1体のフォレストモンキーは逃げる様子もなくこちらへと迷いなく襲いかかってくる。もう戦うことしか考えられないのかもしれない。
「もう、いいんだよ」
飛びかかってきたのに合わせて翡翠を振り抜く。その瞬間、フォレストモンキーが一瞬だけ微笑んだように見えた。
「ふぅ…」
「休んでるところ悪いんだけど、教えてくれない?」
「うっ…」
「……言えないこと?」
うーん…どう?
『主の意のままに』
こういう時にそんな返しをするのはズルだと思うよ、翡翠。
『だってぇ…わたしはただの神器だし、言う言わないは主の意思次第なんだもん』
まぁ、そうよねぇ。
わたしとしてはベルは信頼できる友達だと思ってる。思ってるけど…
『けど?』
……なんか、変じゃない? タイミングが、なんというか良すぎる気がするんだよ。
『それが悪いことなの?』
うーん…ここにいるベルは確かに本物だよ。でも、わざわざエルザがこのタイミングでベルをここに送ってくる意味が理解できないというか。
『それは…いつものことなのでは』
……うん、確かにそうね。いつもエルザのやることは意味が分からなかったわ。
なんか酷いとか声が聞こえたような気がしたのは多分空耳だ。
「言えないっていうか、よくわかんないっていうか」
「つまりフィリアちゃんも理解できてないってこと?」
「そんなかんじ?」
「ふーん…」
今の状況なら沈黙より雄弁が金だろうし、おそらくこれが最適解だ。
まぁ多分ベルは納得はしないけど、これ以上言及することもないだろう。
そうこうしていると、いつの間にか燃え広がっていた聖火が階層を浄化し終えたようで、どこからともなく真っ白な木の葉が落ちてきた。
「これは?」
「掴むと次の階層に行けるの。手を繋げば、多分一緒にいける」
「わかった!」
ベルと手を繋ぎ、わたしの目の前で止まっていた木の葉を掴む。
一瞬の浮遊感の後、閉じていた目を開ければ、そこにあったのは森ではなく暗闇。
「もうちょっと森が続くと思ったんだけど……って、ベル!?」
気付けば、手を繋いでいたはずのベルの姿がない。
「置いてっちゃった?」
そもそもの話、あの木の葉がわたしだけにしか作用しないものだったという可能性がある。
急いで気配察知をして探る。
「……いた」
どうやら同じ階層にはいるらしい。けれど、その反応は微弱。確実に阻害されている。
「でも、変だね」
敵の反応が、ない。
阻害されていたとしても、わたしの気配察知を欺いて完璧に隠すことは不可能なはずだ。僅かでも反応はあるはず。でもそれが、ない。
『妙、だね』
「うん…それに、なんだか空気が重い」
ずっしりと体全体にのしかかるような重み。その影響からか、微妙に体が動かしづらい。
「ベルの反応も罠か、それとも…」
まぁわたしに元より選択肢などない。罠があったとしても、罠ごと切り裂くまでだ。
「ひとまずはベルを探そう」
暗闇だが、魔力眼を使えば見える。造りとしては一番最初に探索した階層によく似ているけれど、あの階層の壁の色よりも、遥かに今の壁の方が黒い。
「ここの方が侵食が進んでる…」
つまり、根源が近いということだ。この戦いも、ようやく終わりが見えてきた気がする。
重い足を動かし、前へと進む。
「……魔力も、阻害されてるかな」
少し歩いて気付いたが、魔力眼による視界が少し先までしか見通せない。現に今、壁に激突した。
「痛…」
『大丈夫?』
「うん…」
ぶつけてヒリヒリと痛みを訴える額に手を当てながら考える。
魔力が阻害されているとなると、魔法も使う事が難しいのだろう。まぁここにいる敵に対してはほぼ効かないし、問題はそうないかな。
「まるで迷路だね」
そう歩いていないのに分かれ道が多い。これは迷いそうだと思い
「……どうやら、ほとんど使い物になってないみたいだね」
ふと気になって調べてみたけれど、まず検索が使えない。アイテムボックスは開くけれど取り出せない。オマケに女神装備シリーズが軒並みただの装飾品と化していた。
まぁ分かりやすく言うと、わたしの
…こんな風にステータスを制限されるなんて初めてだし、そもそも
「頼みの綱は、翡翠だけだね」
『任せてっ!』
そんな相手に対抗できるのは、今わたしの手にある翡翠だけだろう。
……まぁ、せいぜい足掻いてみせるよ。
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